007 科学と魔法
道すがら聞いたところによると、エリさんのおじいさま…骨折で入院して以来、すっかり気落ちしてしまわれたそうだ。
その気持ち、想像に難くない。
「魔法は廃れた」などと公言されているこの世界。
そんななかで「魔法」を研究し続けてきたのがエリさんのおじいさまなわけで。
―――俺も入院したとき…心細かったもんな…。
小学生のとき、跳び箱をとび損ねて…着地にも失敗。
結果、骨折して入院。
手術が必要と言われたときは…本当に目の前が真っ暗になった。
怖かった。
手術は無事成功、その後しばらく入院となったのだが…これが辛かった。
動けない。
動こうとすると痛い。
利き手の腕を骨折してしまったので、箸もうまく使えない。
マンガも読めない。
―――アニメが無ければ…かなりヤバかったよな…。
怪我の功名というべきか…それが俺のアニメ道を切り拓いてくれた出来事。
「…さん?コウタさん?」
「…あっ!す、すみません…。ちょっと昔を思い出してしまいまして…僕も入院したことがあって…つい。」
「そうだったんですか。やっぱり辛いですよね…動けなくなっちゃいますし…。」
「そうなんですよ…。」
話が暗い方向へと進んでしまった…これは良くない。
話題を転換しようと努力した結果、思いっきり空回り…あらぬ方向へ。
「あの、失礼ですが…魔法が、その…あまり使われなくなったっていう話を聞いたんですけど…。」
魔法学者のお孫さんには聞きづらいのだが、なんの知識もなくては失礼だろう…という後付けの理由で心を落ち着ける俺。
何より「科学」と「魔法」は、別に対極に位置する関係ではないと思う。
アニメ好きとしての感覚から言わせてもらうならば、科学よりも強力な印象すらある。
「…そうなんですよ…。おじいちゃんが王立学校で
どうやら科学技術の発展により、冒険者の装備一式が格段に強化されたことが直接の原因ということだった。
―――たしかに…魔法より便利になったら…。
火の魔法を想像してみた俺。
例えば火を起こす魔法が主流だったとしても、そこに「ライター」が登場したならばどうだろうか。
そんなに高いものでもないし、簡単に火がおこせる。
それは…「魔法じゃなくても」となっても、不思議ではない。
「でも、おじいちゃんの研究によれば、魔法はまだまだ一線で使えるんです。私が使えればよかったんですけど…。」
エリさんのステータスは、俺の逆パターンだった。
攻撃力や防御力はそこそこ…というか、かなりあるものの、魔法攻撃力は一桁台だった。
研究を手伝いたくても手伝えない、そんな歯がゆい気持ちを抱えているようだ。
―――…やっぱり優しい。
心がぐらぐらと動いている。
こんなに優しくてかわいい人に出会えるなんて…想像もしていなかった。
女性の扱いに慣れていない俺…どうすれば良いのか見当もつかない。
「だからコウタさんは、私とおじいちゃんの希望なんです。魔法が昔みたいに使われるように…なんて大きなことは言えないんですけど…。せめておじいちゃんが元気になってくれれば…。」
「エリさん…。」
何か声をかけようと思うのだが、かける言葉が出てこない。
励ます言葉がかえって相手を傷つけることになってしまう、そういうことは往々にしてあるものだ。
■
「さぁ、着きました。ここがおじいちゃんと私のお家です。狭いところですけど、どうぞ。」
狭いところと紹介されたものの、明らかに
もとの世界ならば、会社役員クラス…いや、上場企業の社長とかが住んでいそうなレベルである。
周りのお家を見ても結構大きいので、この世界ではこれがスタンダードなのかもしれない。
―――やっぱり異世界なんだな…。
まだ受け入れきれていなかった現実が、少しずつ俺を押しきろうとしてくる。
「失礼します。」
小さくなってエリさんのうしろに続く俺。
「おじいちゃーん、帰ったよー。ただいまー。」
奥の部屋でソファに深く座り、本を読む男性がいた。
たしかに…すこし気落ちしているような雰囲気がある。
どことなく元気がない。
「おぉ…エリ、お帰り。ん…?後ろの人は…ボーイフレンドかい?」
「え…あっ、違うよ違う。こちらはコウタさん。さっきギルドで会って…魔法使いなんだって!」
その言葉を聞いて、飛び上がったおじいさま。
さっきまでの様子が嘘のように、こちらに駆け寄ってこられた。
「何!?魔法使いとな…おぉ、確かに魔法の力を感じる…。いやー、よく参られた。ささ、ひとまずお座りなされ。エリ、すまないがお茶か何かを…。」
お構いなくと続けたいところなのだが、その前に伝えておかなければならないことがある。
「あ、あの…、俺は今日冒険者登録した新人でして…魔法の『ま』の字もわからないような状態でして…。」
「おうおう、わかっておるぞ。魔法の力を見ればわかる。まだ何色にも染まっておらぬ。しかし装備は古いもののようじゃな。おさがりか何かかい?」
嘘をついても仕方がないので、ありのままに伝える。
さすがに「異世界からとんできました」とは伝えないけれど。
「そうなのか…あの山小屋で…。あそこは昔、賢者が住んでおった建物でな。わしもちょくちょく顔を出したものよ、ナハハ。」
賢者が住んでいたとは…やはり期待がもてる。
そう、まだチートをあきらめたわけではないのだ。
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