凍えるほどにあなたをください

水瀬 由良

凍えるほどにあなたをください

 いつもの道を歩く。

 あたりのビルや街路樹は寒さをごまかすかのように、イルミネーションを光らせている。

 私はコートのポケットに手を入れて、子猫のように背中を丸める。新年早々、こんなに寒くていいのだろうか。


 天気予報では、今はまだ序の口で、週末にはこの冬一番の寒波が訪れるという。なんの冗談なのか。十分寒いのに、これ以上寒くなるっていうのか。


 私はふーっと息を吹いた。

 白い蒸気が宙に浮かぶ。それみろ、吐いた息ではなくて、吹いた息が白くなるぐらいに寒いじゃないか。

 

 年末はどことなく街は浮つく。そうだろう。一応、年末は連休が待っているのだ。どういう形であれ、休みがありがたいのは古今東西いつも変わらない。だけど、年始は正月こそ明るいものの、それをすぎれば、またいつもの日常が待っている。

 明るくなりようがない。


 私なんて、年末からして浮かれ気分になんてなってなかった。

 冬が嫌いだ。

 寒いのは嫌いだ。

 早くすぎればいいのに。

 今年はずっと寒いじゃないか。

 夏が過ぎて、すぐに冬になった。秋なんてなかった。

 小春日和なんて日は全く来ていない。

 さっきから、白いものがちらついてる。そんなものが降るくらいに寒いのだ。


 それだけじゃない。

 風がこれまた冷たい。さっきから手をずっとポケットに入れているのは、もう手が痛くて痛くて仕方ないからだ。手だけじゃない。首筋が寒いから、カメみたいに首はすくめてるし、少しでも風があたる面積を減らすために、背中を丸めることになる。顔も真正面を向くと風があたって寒い。

 コートも着ているのに、もう風が体の中を通り抜けているのかってぐらい寒いし、風が吹く度に心臓にまで雪を運んでいるかのような気分になる。


 この寒さにあわせるかのように、街も白い。それに、行き交う人々は黒っぽい服装で、派手な色で歩いている人なんて、いやしない。

 ま、私も似たようなもんだ。白のコートだけど、全体に地味で、結局モノトーンな配色で、今の街と同じだ。


 大体、何かの自粛か何か知らないけれど、年末からずっと音楽が聞こえてこない。音楽まで聞こえてこないなんて、この街はどうにかしちゃったんじゃないの。


 ああ、寒い。

 シビれるぐらいに寒くて仕方ない。

 きられたぐらいに寒さが痛い。

 だって、それもどうしようもないじゃない。


 あなたが、いないんだもの。


 分かってる。私自身がモノトーンなのも、街がモノトーンなのも、全部私がそう思っているってだけの話だなんて。この季節に飾ってるイルミネーションが本当は色とりどりの綺麗なもので、単に光っているだけのものじゃないなんて分かってるし、街を行き交う人にはキレイな女の人もいたから、きっとオシャレしてるんだろうなって思う。


 けれども、私にはそうは見えない。


 あなたが、いないんだもの。


 たった一度、一度でいいから、もうそれだけでいいから。

 会えないかな。


 その後、寒くて、寒くて、たまらなくなるなんて、わかりきっているけれども。

 それこそ、凍えてしまうんだろうなって思うけど。

 

 でも、それくらい、あなたを与えてほしい。

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