第11話 無抵抗

 妙に嫌な予感がする単語だった。

 圧倒的に嫌な予感だ。


 いや、嘘だろ……?

 そんなわけないだろうと思いたいし、そう信じたい。あの過ぎ去った恐怖がまたやってくるだなんて、絶対にお断りだ。


 しかし零矢は、不幸にも気付いてしまった――目の前に半透明の何かがいることに。


 その何かが、どうやら自分にのしかかっている。金縛りの原因はこれだ。


 間違いない。

〈夜蝕体〉――


 ノフイェは言っていた。

 奴にのしかかられて動けなった状態こそが金縛りらしい。つまり今の状況だ。


 幽体状態だった時とは違い、その姿をはっきり見ることはできないが……それでもコイツの全貌は一度目にしているので、うっすらとした輪郭からでもあの異形を思い出すことはできる。


 蛾のような輪郭と触覚がある気持ち悪い頭部。その下部の口とおぼしき部分がパックリと開かれている。本能的に戦慄を禁じ得ない生々しい口腔が脳裏に甦る。


 ノフイェ……!

 もし近くにいるなら、さっきみたいにコイツの頭部に一撃食らわせてやってほしい。


 すぐそこにいるんだろ?

 ノフイェ!


 早く。

 頼む……!


 ………………


 しかしどうやら、その想いが彼女に届くことはなかった。



 うっすらとした影が近づいてくる。

 やめろ……。

 やめろ、やめろ……!

 やめろ……ッ!

 零矢のその声も、叫びも。


 全身が石化したかのような金縛りのために、一切、吐き出すことができなかった。

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