第17話 甘い感謝の日2

 唯さんの出勤は開店時間の九時。だけど早めに来て開店準備を手伝ってくれる。

 有難いけど申し訳なくて、無理しないでくださいって伝えたら、いつも夕飯をご馳走になるお礼だと言って彼女は笑った。

 最近は、仕事の後毎日うちで夕飯を食べて行く唯さん。

 夕飯の後は少しのんびりしてから帰る。毎回俺が送っていく。少しでも長く一緒にいたいから。


 バレンタインのデートをどうするか相談したら、俺は家での待機を命じられた。だから溜まってる洗濯物を片付けて、現在掃除中。

 今日は唯さんがデートプランを考えてくれるんだって。すげぇ楽しみ。


「その荷物はなんですか?」


 現れた唯さんは、大荷物だった。


「今日はですね、家事にお勉強にお仕事にと毎日頑張っている春樹さんを、私がもてなすのです!」

「あなたのその笑顔だけで、俺には十分ですよ」


 笑みを浮かべて本心を伝えたら、唯さんが真っ赤になった。

 照れて唇を尖らせるから、突き出された唇にキスして荷物を受け取る。


「食材ですか? 何を作ってくれるんです?」

「春樹さんやマスターのようには出来ませんが、素朴なおふくろの味が得意です」

「それはいいですね。おふくろの味は食べたことがありませんから」


 ウキウキして言ったんだけど、悲しそうな顔をさせてしまった。

 実家は家政婦さんがいたから飯はその人が作ってた。だから本当のおふくろの味ってやつを、俺は知らない。


「あぁでもおにぎり。へったくそなおにぎりなら食べたな」

「お母様が作ってくれたんですか?」

「小さい時に。丸にすらなってない塩むすび」


 勉強してた時に持ってきてくれたって思い出を話したら、唯さんの表情が優しく柔らかになってほっとする。


「我が家にご招待も考えたんですけど、そうするとマスターが仲間外れになっちゃいます。バレンタインデーは、お世話になっている人に感謝する日ですから」


 独自の解釈を持っているみたいだ。でも恋人達のイベントって考えるよりは、俺もその考え方は好きだなって思った。

 俺も唯さんを連れて行きたい場所がある。だけどそれは、彼女のプランを聞いてからでも間に合う。


「マスターって、お昼はいつもどうしているのでしょう?」

「土曜は一人なんで、暇な時間に食べてるみたいですよ」

「んー……では、食べやすい物の方がいいでしょうか?」

「そうですね」

「わかりました! 申し訳ないですが、台所をお借りします」

「どうぞ。好きに使ってください」


 俺は手伝ったらいけないみたいだ。

 テレビでも観てろと言われたから、勉強道具を持ってきてリビングで勉強することにした。

 陣さんとだと、いつも隣にいて料理を教えてもらってる。だからか背中に聞こえる台所の音が新鮮で、ほっこり胸が温かい。


 集中して勉強してたら味噌のいい匂いが漂ってきた。何を作ってるんだろう?

 俺の腹がぐうと鳴って、空腹を主張し始める。


「唯さん。陣さんに昼飯待つように声掛けてきます」

「すみません。お願いします」


 花柄のエプロンしてる。可愛い。

 緩んだ顔のままで店に降りて、陣さんに声を掛ける。店内にはカップルが一組。デート途中の休憩かな。


「昼飯、唯さんが作ってくれてるんだ。後でまた来るから、俺と交代で飯休憩入れば?」

「折角のバレンタインだろ。おっさんは若者の邪魔はしねぇよ」

「唯さんのバレンタインは、お世話になってる人に感謝する日なんだって。陣さんも対象」

「そうかい。なら、お言葉に甘えるかね」

「おぅ。もうしばらく待ってろ」

「へいへい」


 二階に上がって唯さんにもそのことを伝えた。けど焦り始める。それなら自分が店番するって言い掛けて、まだまだ出来ないことの方が多いのだと思い出してしょんぼりしてる。


「俺からの陣さんへのバレンタインってことで。どうせなら唯さんが作ってくれた飯、陣さんにもゆっくり温かい物を食ってもらいたいです」

「では……お言葉に甘えます。春樹さんにはご飯の後もいろいろご奉仕しますね!」

「楽しみです」


 具沢山の味噌汁に鯖の味噌煮、ひじきの煮物と小松菜と油揚げの炒め物。家庭料理だ。

 陣さんと俺は普段、和食より洋食が多い。和食も作るけど、食後は珈琲が飲みたいから自然と珈琲に合う飯になる。


「すげぇうまいです」


 夢中で食った。

 好きな人の手料理ってだけでも嬉しいのに、めちゃくちゃうまい。唯さんは料理上手だ。


「いい食べっぷりですね。男性にご飯を作るのなんて初めてです」


 はにかんだ笑い。

 どうやら例の彼とは会う時間が限られていたらしい。唯さんの家には母親がいたし、そんなチャンスはなかったみたいだ。


「唯さんの初めてをもらえて、嬉しいです」


 心からの言葉。

 すぐ赤くなる彼女は本当に可愛くて、俺の顔はゆるゆるに緩みっぱなしだ。

 飯が出来る前に着替えておいたから、唯さんに飯のお礼を言ってから陣さんと交代。

 さっきいたカップルはもういない。代わりに、三人連れの女性客がいる。

 土曜は平日と客層が変わるんだな。


「お呼びですか?」


 チラチラチラチラ、ずっと見られてた。だから注文かなと思って近寄ったんだけど……謎の反応をされている。

 肘でお互いを突つき合って、注文ではないみたいだ。でも用はあるのかな?


「私達このそばの会社で働いてるんです。店員さん、毎日いますね?」

「そうですね。土曜の出勤は滅多にないですが、平日は毎日いますよ」

「ランチによく来るんです。ここ、おいしいですから」

「ありがとうございます。珈琲、おかわりはいかがですか?」


 世間話がしたかったらしい。

 カップが三人とも空になってたからおかわりを勧めてみたら、チョコレートケーキも追加注文してくれた。

 バレンタインだからな。チョコ、食べたくなるよな。

 ラズベリーソースでハートの模様を皿に描いてみた。ちょっとしたサービス。


「ここ珈琲もおいしくて、お気に入りなんです」

「有難いお言葉です。ごゆっくり、召し上がってください」

「あ、待って」


 なんだろう?

 世間話をする常連さんって、大抵一人で来てる。こんな風に連れがいる人に話し掛けられるのはあまりない。

 首を傾げて言葉を待っていたら、また突つき合いをしてる。何か言いにくいことなのかな。


「何か、不手際でもあったでしょうか?」

「違います! あの…………この後お暇ですかっ?」

「いえ。用事があります」

「そう、ですよね。デートですか?」

「はい」


 意図がわからない。だけど接客スマイルは崩さないでいたんだけど、何故か落ち込まれた。

 話は終わったみたいだからごゆっくりと告げてカウンターに戻る。

 ニヤニヤ笑いの陣さんと、その背後に隠れたじと目の唯さんが俺を見てた。


「おかえり」

「モテるねぇ? 喫茶坂の上のイケメン店員くん」

「は? なんだよそれ?」

「まぁいいや。お前はほれ、唯ちゃんのフォロー」


 陣さんに促されて唯さんを見たら、ふいっと顔を逸らされた。そのまま二階に上がって行っちゃった。


「行けって。女の機嫌はさっさと直さねぇと厄介だぞ」

「わかった。……飯、うまかったな?」

「だな。夕飯も作ってくれるらしいぞ」

「すっげぇ楽しみ」


 陣さんに休憩中の引き継ぎをして、俺は二階に上がる。

 台所では、膨れっ面の唯さんが洗い物してた。

 黒いエプロンを外して、唯さんの背後に近付く。


「どうしたんですか?」


 触れる許可はもらえそうにない雰囲気だから、ギリギリの距離で彼女の身体を囲い込む。

 両手をシンクに置いて耳元で囁いてみたら、唯さんの耳が赤く染まった。


「……よく、ナンパされるんですか?」

「ナンパ?」

「さっきのです」

「向こうから話し掛けてきたんですよ」

「デートのお誘いだったじゃないですか」


 あぁ、そういう意図があったのか。やけに遠回しだったな。


「お断りしましたよ。唯さんがご奉仕してくれるんでしょう?」

「っ、もう! 離れてください! 手が滑りそう! お皿割っちゃいます!」

「じゃあ、着替えてきますね?」


 怒られたから、耳にキスしてから離れた。

 ヤキモチか。可愛いな。

 自分の部屋で制服から私服に着替えて戻ると、唯さんはソファに座ってまだむくれてる。


「唯さん?」


 隣に座ると身体ごと顔を逸らされた。拗ね方が幼い。可愛すぎて顔がにやける。


「甘いチョコレートドリンクはいかがですか?」

「…………飲みます」


 返事をもらって、俺は立ち上がる。でもその前に――


「唯さん」

「……なんですか?」

「俺がナンパするのは、あなただけです」


 甘い甘いチョコレートじゃなくて、俺の甘ったるいキスで機嫌を直してよ。

 後ろから抱き締めて、首筋にキス。

 びくりと身体揺らして驚いてる彼女がこっちを向いたから、ゆっくり、唇を重ねた。

 逃げてもいいよ。でも出来れば、逃げないで。

 唯さんは自主的に、こっちを振り向いたままでいてくれる。だから俺はキスを続ける。

 甘く甘く……不機嫌なあなたの心を溶かすキス。


「機嫌、直りました?」

「……チョコももらえたら、完璧です」

「なら、甘くて濃いの、作ります」

「私もチョコ、あります。でも夜に、マスターも一緒がいいです」

「俺も、その方が嬉しさ倍増です」


 ほわり笑った唯さん。

 可愛くて、ほっとする。

 唯さんに手元を覗かれながら、少しだけ珈琲を混ぜたチョコレートドリンクを作る。


 バレンタインってやつは、甘くて甘くて、とろけそうなほどに甘い日みたいだ。

 唯さんのご奉仕とやらは俺を休ませることらしい。マッサージしてくれてるけど、力が弱くてくすぐったい。


「交代しませんか?」


 提案してみたら悩んでる。だから答えをもらう前に動いた。


「痛かったら言って?」

「はい……。上手ですね」

「陣さんによくやってますから」


 陣さんと違って唯さんの肩は細い。陣さんにやるのと同じ力を込めたら壊れそうだ。


「力加減、どうですか?」

「きもちいいです~」


 極楽って感じの声だ。

 しばらく肩と背中、腕のマッサージを続けたら、唯さんがふにゃふにゃになった。


「骨抜きです」

「あれ? そんな意味でしたっけ?」

「いいんです。ほんと、骨が抜けたみたいにふにゃふにゃな気分です」


 はーって幸せそうなため息。

 抱き寄せてみたら、抵抗なく彼女の身体が俺にもたれかかる。


「夕飯の後、ドライブに行きませんか? 夜景を見に」

「…………行きます」

「じゃあ、お連れします」

「はい。……楽しみです」


 なんだか幸せで、満たされて、すごく眠い。あくびは噛み殺したけど、気付かれた。


「お昼寝します?」

「いえ。唯さんが暇になるじゃないですか」

「いいんです。これもご奉仕計画の内です。本を持ってきましたから」


 にっこり笑った彼女は鞄から文庫本を取り出した。ソファの端に座った唯さんが、ぽんぽん自分の膝を叩く。

 膝枕……。


「そんなの、眠れません」


 顔に熱が上ったから片手で口元隠して、俺は顔を逸らす。視界の端で、唯さんは楽しそうに笑ってる。


「照れてるの、可愛いです。お姉さんのお膝においで?」

「とても魅力的ですが、同時に刺激的だと思います」

「よくわからない発言です」


 唯さんの眉間に皺が寄った。

 太ももの魅力、女の人にはわからないのかな。


「命令です。来なさい」


 どうしても膝枕がしたいらしい。

 なんで今日スカートなんだよ。しかもシフォン。めちゃくちゃ触り心地が良さそうじゃねぇか。でも俺、強気な唯さんに逆らえる気がしない。

 膝枕の魅力にも、抗えない。


「良い子です」


 そろりと頭を唯さんの膝に乗せて横になったら、満足そうに微笑んだ彼女に頭を撫でられた。

 バレンタイン……甘ったるすぎだ。


「目を閉じて? 眠いでしょう?」


 唯さんの声まで優しくて甘い。耳から溶けそうだ。

 仰向けで俺は目を閉じる。髪撫でられるのって、気持ちいいんだな。

 始めはドキドキして緊張したけど、結局俺は、あっという間に眠ってしまった。


 目が覚めて聞こえたのは、本を捲る静かな音。

 本を捲り終わると手が降りてきて、俺の髪を撫でる。


「起きました?」


 ぼんやりと見上げていたら気付かれて、唯さんが微笑む。

 俺は手を伸ばして彼女の頬を撫でた。ほわほわのマシュマロみたいで、甘そうだ。


「足、痺れませんか?」

「まだ大丈夫です。春樹さんの寝顔、可愛かったです」

「…………照れます」

「赤くなった。可愛い」


 ふふふっと嬉しそうに笑って、唯さんは俺の髪を撫で続ける。なんだか悔しいけど、これもこれで有りだと思う。


「膝枕、ハマりそう」

「好きな時にまた、してあげます」

「お願いします。すげぇ……気持ちいい」


 甘えたい。甘えて、いいかな。

 そろり彼女の膝の上で体勢変えて、唯さんの腰に両腕を回してみる。確認で見上げた彼女は赤い顔。でも、許してくれるみたいだ。


「甘えん坊さんですか?」

「……はい。ダメ、ですか?」

「いいえ。可愛いです」


 髪を撫でられて、幸せで、なんだか泣きそうになった。


「まだ寝れそう……」

「いいですよ。好きなだけ寝て」

「唯さん……」

「はい」

「すげぇ、好きです」

「……私も。とっても、あなたが愛しいです」


 見上げてぶつかったのは、優しい瞳。ほわほわふわふわ、包み込まれるみたいだ。

 俺はとことん、唯さんに甘えてみた。


 夕飯作りはまた手伝わせてもらえなくて、暇だから俺は料理する彼女をじっと眺めることにした。


「…………やりづらいです」

「見ていたいです」

「プロの方に見られるほどの腕前じゃありませんから……」

「まだ俺は見習いです。それになんだか、料理してる唯さんってセクシーです」

「手元が滑ります! 怪我します! ソファで大人しくしていてください!」


 焦る彼女は可愛い。

 あんまりしつこくすると機嫌を損ねかねないから、笑いながらも退散する。

 結局勉強しかすることなくて、煙草を吸いたくなる度邪魔しに行って、怒られた。


「だって唯さん、あなたのチョコも食べるんです。お菓子ばかりは太ります。だから……キスしていいですか?」


 背中から甘えるように身を寄せて、彼女の肩に顎を乗せる。


「…………仕方ないですね」


 渋々だけど許可を得て、振り向いてくれた唯さんの唇に吸い付く。深くキスをして、ついでに彼女の脇腹を両手で撫でてみた。


「この手はなんですか?」

「気持ちいいです」

「太いって言いたいんですか!」

「そんなことないです。好きですよ」


 チュッ、とキスして退散。また勉強再開。

 もう! って怒った唯さんの声が聞こえたけど、その声にすら俺の顔は緩む。

 そうこうしてる内に店を閉める時間が近くなったから、俺は唯さんに声を掛けて、一階に降りた。


「お疲れ。看板仕舞うな?」

「おぅ。悪いな」


 締め作業を陣さんと手分けして終わらせて、二階に戻ったら丁度夕飯が出来てた。ちゃんと、時間を考えて作ってくれたんだ。


「いいねぇ唯ちゃん。いつでもお嫁においで?」


 陣さんの言葉に、唯さんは赤くなる。

 ニヤニヤ笑いの陣さんに肘で突つかれて、俺も困る。


「バカなことばっか言ってねぇで、飯食うぞ」

「春樹ちゃんってばすぐ照れるー」

「ぅるせぇッ! その顔やめろ!」

「生まれつきだってぇ」

「そんなキモい顔で生まれてきたのか! 助産師泣くわ!」


 いつもの調子で言い合いしてたら唯さんに笑われた。くすくす、楽しそうに笑ってる。


「本当、仲良しですね」

「まぁねぇ。可愛い俺の息子」

「やめろっ、ボサボサになんだろ」


 髪をぐちゃぐちゃに掻き回されて、俺は逃げる。

 唯さんが笑いながら髪を整えてくれて、陣さんはそれすらからかってきて楽しそうに笑ってる。唯さんが来てくれるようになってから、陣さんも俺も、よく笑ってる気がする。


「うまいっ!」

「ほんと、マジにうまいです」


 夕飯もうまかった。

 練習がてら唯さんが珈琲を淹れて、食後のデザート。手作りのチョコレートケーキ、濃厚でかなりうまい。


「お口に合って良かったです」


 嬉しそうに、唯さんは頬をほんのり染めて笑ってる。

 デザートまでばっちり堪能した後は、陣さんに車を借りてドライブデート。今日一日の、俺からのお礼。


「どこに行くんですか?」

「首都高乗って、台場です。途中で見える東京タワーとか、バレンタイン仕様みたいですよ」

「へぇ! 楽しみです」


 ラジオの音楽も、バレンタイン特集みたいだ。懐かしいのも流れてる。


「そろそろ東京タワー、見えますよ」


 いつもと違う色の東京タワー。ビルの隙間から見える度に、唯さんは顔を輝かせていた。


「次は右を見てください」


 レインボーブリッジから見えるショッピングモールもバレンタイン仕様。


「あ! ハートです! すごーい!」


 目的地は海沿いの公園。

 俺も初めて来たけど、夜景が綺麗だ。


「寒くないですか?」

「……寒い、です」


 ちらり見た唯さんの顔は赤い。

 望んでることを理解して、俺は包み込むように、後ろから彼女を抱き締める。


「あったかい?」

「あったかい、です」

「良かったです。……今日、ありがとうございました。嬉しかったです」

「喜んでもらえたなら私も嬉しいです。ドライブも、楽しいです。夜景も綺麗」

「調べた甲斐、ありました」

「調べたんですか?」


 何故か驚いた顔で振り向かれた。


「そうですよ? デートとかよくわからないですし……。こっちに来てからは、あんまり出掛けたりしてないですから」

「そうなんですかぁ」


 今度は嬉しそうな声になって、どことなく浮かれた笑みで、彼女は夜景を眺めてる。


「俺って、遊んでるように見えました?」

「はい。見えます」


 迷いのない即答。


「地元ではまぁ……いろいろあったんで間違いではないですけど……」


 恥ずかしくて、彼女の肩に顔を埋めて、呟く。


「実は…………いろいろ、必死です。あなたに喜んでもらいたくて」


 言葉での返事はなかった。でも彼女の体重が後ろに掛けられて、身を預けられる。唯さんに巻き付いてる俺の両腕に、唯さんの両手がそっと触れた。

 それだけで俺の心を温かく満たすだなんて、唯さんはマジですごい。


「どんどんあなたに、ハマっていきます」

「ハマって。もっと、溺れてください」

「……はい。唯さんも、俺に溺れて」


 やっぱり答えはくれない。

 でも構わない。俺の腕の中にいてくれるのがきっと、彼女の答えなんだ。

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