北方へ向かう

 戻ってきたヨモギやアンナに話を聞くと、ゴウキはほとんど追放のような処遇でここを去ったらしい。懐妊したアンナをおいて。

 古賢族は子どもがなかなか生まれない。祖末に扱われることは絶対にない。

 それに、彼女も足手まといは望まなかった。そういうことらしい。

 ゴウキを追放した理由は二つ。ダイモンから使命を受けているということ。それと、誰もいわないがやはり危険と思われたようだ。

 異常なレベル、膨大な魔力、そして非常識な魔法の威力。加えて多数の強力なゴーレムを率いていることが原因だ。

「メテオなら、彼も使えますよ」

「わかってる」

「メテオよりも危険な呪文も、あの魔力なら使えるでしょう」

「それも察している。おまけにはざまの者だ」

「はざまの者? 」

「人界、魔界どちらにも属さないものだ。アンナ、彼のラボのことを話してくれ」

「あなたも同じものをもってたら教えてください」

 ラボ、とよんでるがつまり体積と重量に制限のない収納空間に施設を作っているということだ。

 アンナは使い魔の視界を共有して中を見せてもらったことがあるが、彼女ははいることができなかった。どうやらゴウキは歩く研究室つきの工場になっているらしい。

「あれは、どっちにも属さない場所です。そこにはいれるのはどっちでもないもの。魔界と人界は行き来ができませんが、彼ならできると思います」

「魔界に通じる門かなにかないのですか」

「半妖たちの中の魔界支持者が研究しているようだが、成功はしてないね。いや、一方通行の移動だけは成功させたかな。むこうにわたった彼らがどうなったかはわからないが」

 歓迎はされない、そんな気がする。

「ところで、一つ教えてほしい。なぜ今頃戻ってきたんだ? 」

 質問の意味を理解するのに、少し時間が必要だった。

 ダイモンに言われた通りに伝える。それが一番無難だった。名乗るのは危険だ。

「なるほど」

 納得された。

「ゴウキが侏儒族の国で半妖の魔界派にはめられてね、仇敵の召還に手をかしてしまったのだけど、それは失敗したと思われていた」

 なるほど、と一人うなづく。ゴウキもはめられることがあるんだ。

「まあ、あれはしなければ被害が大きくなってたからね。仕方ない」

「何があったんですか」

 ヨモギの説明してくれたところによると、強い魔力をおびた混沌そのものの魔金という物質があるそうだ。すぐれた素材である魔銀を精製するときにでる廃棄物で、使い道はなく封印するしかないとされている。それでゴーレムを作った半妖がいたそうだ。一体型ではすぐに崩壊するので無数の小さなゴーレムが壊れた仲間を補充し、群れで動くようなものらしい。

 魔金は放射性物質のようなもので、そのゴーレムはいるだけで危険、そして動き回れば破壊的な影響をふりまく。破壊するためには魔金以上に危険な魔法で一気に焼くか、ゴーレムなら設定されている解除の印か言葉を魔力こめてささげる必要がある。破壊呪文は被害甚大すぎるため、言葉を唱えるしかなかったのだがその言葉が……。

「魔王ウラの復活を祈願する召還呪文だったわけだ。そいつを最強の大魔法使いが唱える事に」

「迷惑な」

 僕がここに呼びつけられた背景はだいたいわかった。

「戻りたくなかったようだね」

「帰りますよ、こっちはもう僕の世界じゃない」

 そのためには、因縁とやらを片付けないといけない。

「君は本当に彼なのかね」

 わからない、それが正直な答えだった。

 確かにウラとしての記憶はあるし、ウラのように動く事もできる。

 だが、ウラのやった悪行、たとえば妖精族の王がまつっていた父祖の樹木を呪い、森を沼に鎮めたりはどうも実感がわかないのだ。コンソールに使えなくなったコマンドが残っているから、できたことに間違いはないが。

「たぶん、ゴウキにあえれば何かわかると思います」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る