限界を突破する。ただしゆっくりと
朝、コンソールを見てびっくりした。
ダイスケ/ウラカミ 人族 十七歳 魔法戦士 百レベル
たいりょく 六百一 まりょく 七百九十七
ちから 九百二十五 ちえ 千十七 すばやさ 四百五十三
魔法 日常魔法、攻撃魔法、梃子魔法(物理魔法)、神聖魔法、呪詛魔法
錬金術(初等) 召還魔法(初等)
魔法スロット 無制限 コンボ 九(設定済み七)
特記事項 炎属性魔法のコスト半減(火魔神吸収)
レベルが上限こえている。低層のボスを倒したおかげにしてもおかしい。
たぶん、火の魔神を吸収したおかげなのだろう。
魔法も覚えたことになっている。リストを見ると昨日ながめてた二つだけしかない。
「おう、おはよう。できたぞ」
やたら元気な声で打火花が直した鎖帷子をもってきた。
「ちょっと着てみてくれ」
思ったより薄いものの、さすがに金属を編んだものだ。重いかとおもったら柔道着くらいの重さしかない。
「剣の重量軽減をうつしてみた。ついでにこすれそうなところを直して急所も補強してある」
中にはりつけてあった当て布ははぎとって適宜綿をつめてこすれていたくなったりしないようにできていた。これを一晩って寝たのだろうか。
「寝てない」
習俗は油染みた顔でにたあと笑った。
「今日も塔にいくんですよね」
「まあ、もらった酒を飲んだから大丈夫だよ」
食卓には空き瓶がぽつんとある。いやいや酒飲んだだけで徹夜の疲れが癒えるわけはないでしょう、
「その通りだが、まあ今夜はちゃんと寝るよ」
豪快なものだ。
鎖帷子にはもともと黒染めのカバーがついていたので、これをつけると漆黒の戦士のできあがりだ。腰の剣はあいかわらずなまくらだけど。
「飯くいにいこうぜ」
朝の広場はフードコート状態で、様々な古い椅子やテーブルが並べられ、食事時限定の屋台で買ったものを思い思いに食べている姿がある。これから出発する商隊の人たちであったり、塔にはいる冒険者であったり、町の住人も一部。
ローランたちとはそこで合流した。おすすめというので、ワンタンみたいな料理を食べた。ワンタンというよりひっつみだ。スープはちょっと塩味がうすいがだしはよくきいている。鍋を遠目にみた感じ、いろいろな魔物の骨を投げ込んで煮込んだようだ。ネギのような何かもつっこまれているし、味はそう悪くはなかった。ただ、無性にラーメンが恋しくなった。それもインスタントラーメンだ。
今日は上から下に下りて行くいうので、エレベーターで五階にあがる。そこから降りればボスはすぐだ。
今回のボスも二体、炎のほうはマグマのゴーレム、氷のほうは巨大な蟹だった。広いボス部屋に狭そうにしている。
「こいつはすげぇ」
アブリが楽しそうに金棒をかついだ。
「ダイスケ、炎のほうをたのむ。あれの弱点は胸の丸いやつだ」
「わかった」
こいつは生きものかな。目でものみてるのかな。
ゴーレムは口をかっとあけた。ありゃなんかはくな。熱いやつ。
「アイスシールド」
呪文をいう必要はないけど、口にだしながら防御用のコンボをはなってみた、氷、土の壁が数秒たちあがる。
びきっと魔法の壁にひびがはいるのが見えた。二重の防壁にこれってどれだけの威力なんだろう。
どすんと重いものが落ちる音がして壁の消えた後にはまだ湯気をあげる黒い岩があった。
マグマのゴーレムは次を吐くために息をすってるように見えた。
ぐずぐずする余裕はない。アイススピアを教えられた弱点にむけて乱打、次をはくときには二重壁、これを三回繰り返してようやくマグマゴーレムは膝をついた。魔力も三百くらい消耗してほぼ半減だ。
「今のうちにとどめを。でないと厄介なことになるぞ」
蟹相手にいろいろためしていたローランがそう叫んだ。
数発の氷の槍を核にうけて、マグマゴーレムは倒れた。
「じゃ、こっちに魔法をくれ。あれの後ろにまわれるか」
人使いが荒い。
マグマゴーレムの余熱で熱い中、蟹の後ろのほうにまわりこむ。振り向いてなぐってきたらよける場所がほとんどないな。
「甲羅の真ん中に黒いところがあるだろう。そこに何でもいいから炎の呪文をなげてくれ」
本当に人使いがあらい。
「ファイアスピア」
炎の投げやりを飛ばす。的が小さいので分厚い氷の甲羅にはじけるだけだ。
「放火」
日常魔法の上位のほうにある、雑草を焼き払ったりする魔法で広く炎をあててやる、温度は普通の炎くらいだし生身であびたら大変なことになるが、魔物に通用するとは思えなかった。
びしっと大きな音がした。
蟹の甲羅に斜めに大きなひびわれがはいっている。
「ありがとう。危ないから避難してくれ」
予想通りだったな、とアブリが金棒を割れ目に打ち込んで広げようとしている。カゲマルの矢が器用に隙間から中身にささる、蟹の反撃で誰か負傷すると僧侶二人が即座になおしてしまう。
少しして、みんなで蟹からとれるもの、マグマゴーレムから取れるものを回収していた。
「あそこで倒しきらなかったら、マグマ野郎はまるくなってあたりかまわずころがり回ってたんだ。よくしとめてくれたな」
そうなったらそうなったで、蟹が一番被害受けるだろうと思ってたらしい。
だが、目的は蟹の攻略法と、回収できる者のの確認だ。そう言う意味で僕はちゃんとやってのけたということらしい。
気がついたら座り込んでいた。膝がふるえている。危なかったことにかわりはない。それに段々なれていって意外に冷静に行動できる。良い事のように見えるが、その鈍感さは非常に危ないと思う。いつか無貌なことをあまり必要性もなくやって死ぬかもしれない。
三階のボスは氷でも炎でもなかった。炎のほうといわれたのは竜巻のようにこまごまなにかがまわっている風の精霊、氷のほうは顔がうねうね触腕にかこまれたいそぎんちゃくのようになった巨大なトド。グロテスクだ。
風の精霊はまた僕にまかされた。ごりおしでいけるといわれたが、あのぐるぐるのに巻き込まれるといいことがなさそうで、平和的解決を試みることにした。
精霊語で話しかけてみたのだ。
説得はあっさり成功した。倒されたらそれっきりというのは嬉しくなかったらしい。風の精霊も僕の中にはいって消えた。
グロテスクなトドは皮と大量の油と肉を残した。分担して運び出すのが大変だった。途中でみかけたレベル四十代の「見覚えのない」冒険者たちに手伝ってもらって運びだす。
元の姿を知らない彼らは肉の山に大喜びだ。
「どうだい、二日間つきあってみて」
にわかに発生した宴会の場、着替えたローランが肉とのみものをもってきた。なぜか魔法書の店のおばちゃんもいっしょ。
肉はあれのだよな、と思ったが断れない日本人なので、おっかな一口食べてみる。うっすら塩に柑橘系ににたハーブをすりこんでやいたもので、肉にほんのりあった臭みがむしろいいアクセントになってて、つまりうまい。
「少なくとも、危ない事に積極的に首突っ込む気は失せましたよ」
「いい心がけだ。紹介しよう、明日から同行してもらうマーサだ」
魔法書屋のおかみさんはマーサというのか、
彼女のことは「覚えて」いない。プレイヤーではない。
「お店はどうするんです? 」
「亭主が帰ってきたから任せるさ」
にこにこしている。危険な生活にはいるのに嬉しそうだな。
「そうですか、お気をつけて」
「ありがと。あと、たぶん勘違いしてると思うけどあたしは僧正よ」
「僧正? 」
「魔法使いと僧侶の呪文をどっちも使えるから」
そんなクラス初めてきいた。いや、僕の魔法戦士だってそうだ。他になにがあるやら。
「スロットがたりなくならないですか? 」
「別々にレベル相当のをもってるから大丈夫。まだ八十九だけど」
それはなんかずるい。いや、無制限の僕がいうことじゃないけど。
たぶん、危害を加えられてほしくないノンプレイヤーとしてシステム側に設定されたのだろう。
こんな人物があとどれくらいいるのか。
「それと、約束のものだ」
ローランが短めの剣を見せてくれた。刃渡りは短いがやや幅広の剣で鉈のような取り回し感がある。
「こいつは魔力の消費をおさえたり、スロットをふやしたり、魔力を使って何かできるらしい」
ほほう。何かってのが気になるけど。
「では、いただいておきます」
「それからこれが君のとり分だ」
金の巾着。ローランは計算した石盤を見せる。この二日間にあつめた情報で、チームは金貨二十四枚を獲得していたのか。そして取り分は金貨四枚相当。四十万円になる。バイトとしては破格といえよう。
「今日は遅い、明日発つのか」
「そうしようと思います」
「宿は? 」
「取りました」
「そうか、うちに泊まってもらおうかと思ったのに」
あはは、あんなエロい奥さんのいる家にお邪魔できませんよ。
それから他のメンバーと他愛のない話をして宿にひきあげた。
「見送りはできないが、元気でな」
彼らも夜明け前から塔にはいるのだそうだ。
夜、自分の状態をコンソールで確認する。
レベルの確認以外にも、持ち物は説明が呼び出せる。便利なものだ。ただ、その剣の能力はわかりやすかった。確かに魔力の消費が少しへる。だいたい二十分の一節約できる。スロットはこの剣に十用意されている。別勘定なので、同じ呪文を自分と剣のスロットに置く事もできる。そして魔力は自前だけど、剣からその魔法を放つこともできる。タイミングのとり方で同時詠唱や時間差詠唱、そんな小技ができそうだ。
レベルは百一にあがっていた。そして風の魔法の消費が軽減されるようになった。
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