だんだん慣れてくる
「よし、この調子で二階もかたづけよう」
今日二フロア、明日二フロアで、そこから上層の攻略にはいっていくのだそうだ。
九十レベル越えのチームはローランのもののほかに二チームあり、彼らは六回の魔物とボスのセオリーをさぐりにいっているらしい。上は火炎帝のボスは掃討済みなので問題ないらしい。
二階の途中ででてくる魔物は、ローランの剣とアブリの金棒であっさり片付けてまっすぐボス部屋へ。カイエはどんなのがでたのかせっせとメモしている。
二階のボスは、火炎帝の残りが火の魔神、ただし侏儒族サイズと、氷の猪だ。
「ミニ魔神はまかせる」
任されてしまった。打火花の顔をちらっと見ると、ミニ魔神からは石くらいしか取れないので、好きにすればいいといわれる。
「これはウラ様」
話しかけられたので驚いた。あたりまえのように理解したが、ローランたちと話すのに使っている言葉とは違う。精霊語というやつだ。視界に字幕がでてきてシュールなことこの上ない。
「話せるのか」
精霊語は「覚えていた」。まるで違う言語なのに、真似っこ関西弁のような感覚で話せる。
「話せますとも。なぜあなたが人間どもと? 」
「人間にうまれかわったからね。だからといってあなたたちに敵対する気もない」
「それを聞いて安心。提案をきいていただけるか」
「提案? 」
「わしは消えとうないので、ウラ様のしもべとなってよいか? 」
「ついてくるのか」
「まさか。受け入れてくだされば、ウラ様の力となり、必要なときにはまるごとでも能力だけでも呼び出していただけるようになりましょう」
「無償で? 」
「いえ、一日の終わりにあまった魔力を少しいただければ」
「あれこれ意見をいったりするのはなしだぞ」
「話すのは御下問あったときのみで後は寝ておりますよ」
「わかった。許可する」
「ありがたき」
ミニ魔神はふっと消えて何かが僕の胸の中にとびこんできた。かっと一瞬熱くなったが、そこまでだった。気のせいか少しステータスがあがった気がする。
「お待たせ、こっちはかたづ……」
ローランたちのほうを見ると、床を凍らせ高速ですべって突っ込んでくる猪に苦戦中だった。足元はすべるし、猪はスピードスケートよろしく突っ込んでくるし、案外器用にターンする。
カゲマルだけが梃子魔法なのだろう、空中に足場を作って突進をのがれているが猪がはやすぎて矢があてられないようだ。
「炎でとかせない? 」
セイシがのんびりした感じできいてきた。かなりのおっとりさんだ。
確かに炎を広げる魔法はあるが、猪は氷をどんどんつみあげてるらしくかなり分厚くなった氷は簡単に溶けそうにない。
炎はだめだ。なら。
「氷結」
猪の突進する前を凍らせる。むくむくともりあがった氷の塊に猪は勢いを失い、氷の粉をまきながら止まる。
「氷結」
そこに氷結をはなって猪の作った氷の面にくっつけてやった。
「でかした」
アブリが金棒をふりあげて跳んだ。
ローランがあっと声をあげたが、ボス猪は頭蓋を割られて倒れた。
「剣できったり矢でさしたりしたかったのに」
必死によけてたわりには余裕がある。
「悪い。思わず」
アブリは苦笑した。いや、笑ってるんだよね、あれ。
「ダイスケは機転がきくな」
悪い気はしない。何もしがらみがなければ、このままここでやっていきたいくらいだ。
「きゃあ。宝箱二つあるよ」
一階ではでなかったが、二階のボスから宝箱がでるんだろうか。二つというころはミニ魔神については討伐あつかいになってるんだろうか。
お金が少々と、鎖帷子、軽量化の魔法のかかった長剣、そしてポーションが数個でてきた。
「二階にしては大量だな。鎖帷子はダイスケがきておいたほうがいいだろう。剣はどうする」
「両方わしにあずけてくれ。餞別をつくるとしよう」
打火花が楽しそうにいう。
「うれしいけど代金が」
「趣味で作るのだから安心せい」
その日はそれで引き上げになった。
戻り道、普通の魔物と戦う冒険者たちを何組も見かけた。彼らもいろいろ試して記録している様子だ。
塔の前には門前町ができている。五階の町とは違って生活するための町だ。塔の探索者たちの中にはここに家を持ち、結婚して子どもをもうけている者もいるらしい。だから日用品の買える店があり、冒険初心者向けの魔法教本や五階でうっていないような普通の武器などが売っている。
五階の店のものは全部予約販売のもので、引き合いは塔を攻略するものだけではない。
ローランとセイシは五階に登って報告を行うらしい。他のメンバーはここにもっている自分たちの家にめいめいもどっていった。僕は宿だ。
「ちょっときて」
帰りかけていたカイエが戻ってきて僕の袖をひっぱった。
日常魔法は野外生活には不十分だから魔法書の店に行こうという。
店は本が傷まないよう薄暗くした建物で扉のついた本棚に本がつまっていた。
店主はいかにも魔法使いという格好をしていたが、気さくなおばさんでカイエとは仲がいいらしい。話を聞いて早速本を二冊もってきた。
「こっちは錬金術の初等本ね。一般的な薬品材料の図鑑もついてるやつ。初歩的な薬の作り方がのってるけど、旅行者にお勧めするのは分離の魔法がのってるから。日常魔法に似たのがあるけど、あれな埃とか大きいものをとりさるだけで、分離の簡易版。分離は、泥水から水だけを分離したり、毒のはいったワインから、毒がなにかさえわかれば毒だけ分離できる。
野外で飲み水を確保することが簡単になるというわけだ。初級で古本なので銀貨二枚でいいという。食べられる植物、毒のある植物、同じく虫なんかがのっているので図鑑的興味もあって買った。
もう一冊は召還魔法の初等本だった。材料と魔力が足りれば下級の魔物や動物を召還し、半日使役できるという魔法。一人で野営というのは原則やってはならないのだが、どうしてもそうなってしまったときには召還した魔物に見張りをさせたりできるらしい。初等では馬など大型の動物は呼べないようだ、
材料は重さがつりあえば生ゴミでもいい。また、土があれば簡易ゴーレムのクレイソルジャーというのを呼び出せる。魔力があれば複数体呼べるらしい。ただ、数がふえるにつれ劇的に増えるのでせいぜい二体を盾に使うくらいだろうという。
この本は破格の銀貨一枚だった。さすがに宿代が心配になるが、その点はカイエが解決してくれた。
「誰かんちに泊めてもらえばいいじゃない」
ただし、女性陣は除く、それとローランもだめといわれるので女性はともかくなんでローランも?ときくと、鈍感といわれた。
「セイシと結婚してるからね」
それはだめですね。そうなる鬼族のアブリか侏儒族の打火花の家しかない。
「何か作ってくれるらしいし、サイズ合わせもかねて打火花の家がいいね」
買い物がおわったら案内しようと彼女はいってくれた。何のかんので面倒見はいい。
「ところでこれ、なんでこんなに安いの? 」
「売れないからね。最初のほうにお断りかいてると思うけど、召還魔法は魔力をばかみたいに使う。そんなものより、半妖の職人がつくったゴーレムのほうが手軽」
「ゴーレム? 」
ゲームのほうには出てこなかった。ウラの知識にはぼんやり覚えがある。
「術を仕込んだ人形なんかに魔力ふきこんで動かすやつ? 」
「うん、いいやつは漂ってる魔力を吸い取ってずっと動いてくれる。簡単なやつでもあげる魔力は召還魔法よりずっと少ない。ただ、召還魔法はきわめればとんでもないのも出せるらしいから古賢族あたりは好んでるね」
「で、これを僕に勧める理由は? 」
「魔法使いだろ? 小鬼かクレイソルジャーくらい呼べる魔力はあるだろうから保険にどうだい」
安いし、いいか。
「じゃ、案内するね」
「いろいろありがとう」
「セイシが助かったのはあんたのおかげだと勝手に思ってるからね」
まだ疑われてたのか。その通りだとはちょっと言えないけど。
あっちでもそうだが、こっちではなおさら前世が魔王だったなんて言えない。ましていろいろやらかしたウラだったなんて。
「ハンナも助けてもらえればよかったのだけど」
「蘇生呪文がきかなかったんですよね」
「ええ、だからあんたを責めるのは筋違いよ。でも、セイシに起きたことを考えるとどうしてもね」
何か言うべきだろうか。いや、迂闊なことはいわないほうがいい。祖父がいっていたな。女というのはほっとくとすねるが、話しかければいいってもんじゃないと。小学生男子だったころの話だ。そして女子めんどくさいとますます図書館の主化したっけ。あのとき、祖父が楽しそうに言っていたことを思い出すに、あの人もたいがいな人だったんだな。
しばらく黙って歩いたあと、カイエがぽつんといった。
「なんなら、うちくる? 」
どきりとした。本当になんでもない、思いつきのような言い方。たぶん、思惑あってじゃない。
だけど、そのとき彼女の顔を思い出した。先のことはわからない。もしかすると意地汚く後悔するかも知れない。だけど、いまこのときはどうか。
「ありがとう。でも、将来を約束した人がいるから」
「そう」
それ以上はいわなかった。
途中、打火花への手みやげとして酒を二本かわされた。なぜ二本かなと思ったら、一本はカイエに巻き上げられた。
「じゃあ、明日ね」
声が明るい。無理してないか。僕はなんか間違ったんじゃないか。もったいないことをしたかもしれない。早速後悔している僕に、侏儒族のおっさん、つまり打火花があきれた顔をしていた。
疲れていたのだろうか、採寸が終わった後、客間といわれた埃っぽくなんか臭い部屋で僕は買った本をあけたまま朝までぐっすりねた。
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