熟練の手管に未熟を知る

 表示されたのは名前と職業とレベル、それに基本能力値だけだった。ローランが口笛をふき、カイエは眼鏡をふいた。

「ほんとに魔法戦士とあるな! 」

 打火花は楽しそうだ。

「サラマンダーは魔法で? 」

 いつのまにか着替えたセイシが小首をかかげる。手と顔しか見えないほど厳重な僧衣をきているが、清楚を心がけている分むしろ色っぽい。

「ええ、目くらましをかけてアーススピアで腹を刺しました」

「何本でるんだそれ」

「一本ですよ」

 たぶんゴウキの反則技を思い出してるんだろうな。目覚める前の彼とも闘ってた人たちらしいし。

「普通のやつでうれしい。これからどうするんだ? 」

「剣がしょぼいらしいので、少し装備をそろえてからゴウキを追います」

「金はあるのか」

 あんまりない。日本円にして七千円程度、銀貨四枚と青銅貨三十枚、正直にいうと、サラマンダーからなにか拾わなかったかきかれた。

「そういえば」

 彼らに出会う前に拾った軽石をみせるとローランはうなずいた。

「換金方法とか使い道は知ってるかい? 」

 知らない。

「錬金術師に売ることができる。錬金術師はこいつから毒、体力回復薬、再生薬、魔力補充薬をつくることができる。サラマンダーなら魔力と回復と火薬だな」

 火薬があるのか。

「打火花、なじみの店につれていってやってくれないか、あんたもそろそろ手入れ用の薬剤が必要だろう」

「心得た」

「で、ダイスケ、一つ提案なんだが」

 ローランはにやっと笑った。

「路銀稼ぎと戦闘慣れのためにしばらく一緒に行動しないか。かわりの魔法使いが見つかるまでの二、三日でいい」

 仲間を失ったばかりだというのに。それにすぐに見つかるものなのだろうか。

「ハンナはあのボスを倒したら抜けて好きな男をおっかけるといっていた。だからもう見つけてあるんだ。あとはちょっと時間がいるだけさ。手伝ってくれれば分け前に加えて俺の古い剣をやろう。少し短いが取り回しがいいし、もともと魔法使いの護身用のやつだ」

 話にのらない理由はない。古賢族の国は歩いて旅をすれば乗り物を使っても十日近くかかるが、コンソール転移なら一瞬だ。回復役がいて助言を受けられる状態でベテランと行動を供にするのは無駄にはならない。正当な報酬も手にはいるし、いきなり転移して金欠で詰むよりずっといい。


 翌日から、僕は彼らと行動を共にした。氷血帝は翌日には戻ってきて塔の魔物が一新され、最大数わいていて危ない。火炎帝が来たときにも塔からあふれた魔物が近隣に被害をもたらしたそうだ。塔の魔物は塔に縛られているわけではないらしい。

 魔王を倒せるほどのローランのチームが低層でなにをというと、階層のボスの討伐をやる。火炎帝の配置したボスで、火炎帝が倒れた時に健在だったものはそのまま残るのだが、これに氷血帝の配置したボスも加わって二種類のボスが並んでいるらしい。レベル九十越えのローランたちは低層に手を出さないが、ダブルボス状態はさすがにきついのであと二つある九十レベル越えのチームと分担で倒しておくことになったそうだ。

「ただ倒すんじゃない。犠牲を出さずに倒すためのセオリーを見つけるのが目的だ」

 十全の状態で玉座の間につけるよう、回遊する雑魚までふくめてそれを見つけ、共有しないといけないらしい。

「まず、速攻で炎のボスを倒すぞ。魔法使いは氷系の攻撃呪文を優先でスロットにいれておいてくれ」

 一階のボスはおなじみサラマンダーと氷のゴーレムだった。サラマンダーは僕の闘ったものより大きくって子牛ほどある。

「サラマンダーには氷の呪文ありったけうちこんで」

 雑な指示。まあ、九十九レベルで一階のボスならそれでいいということなんだろう。

 コンボにいれてある氷結とアイススピアを放って見る。足止めの氷結はすぐに溶かされたが、氷の槍はサラマンダーの目から頭蓋の内側を貫いた。

「氷結をもう何発かまんべんなくたのむ」

 打火花がいつのまにか近くにいた。パワードスーツにでっかいはさみをもっている。

 サラマンダーは弱っていたが生きていた。手っ取り早く倒すならアイススピア連発のほうがいいと思うのだが。

「はよう」

 せかされて氷結を投射する。四発目でサラマンダーは前身を氷結させた。

 よっしゃ、とうなずいた打火花のはさみが薄く覆った氷ごとサラマンダーを切り裂く。正中線にまっすぐ、足も同様、何をはじめたかと思えばサラマンダーの皮をはがしにかかっている。

「凍らさないと燃えちまうからな」

 これで鎧でも作るのだろうか。

「ダイスケ、今度はこっちだ、あの丸いところに炎系のなんか弱いのたのむ」

 忙しいことだ。氷のゴーレム相手に剣と金棒と弓でいろいろ叩いていたローラン、アブリ、カゲマル。力押しで倒さず、切る、叩く、突くの相性をみていたようだ。

 炎に弱いのはわかっているが、急所はどこかということかな。

 一番弱いのって、日常魔法の着火くらいだな。

「着火」

 小さな種火がひゅーっととんでいって、氷のゴーレムの胸の中心にある球体に当たる。

 さすがに弱すぎたかな、と思ったが球体はそれだけでぴしっとひびがはいった、

 切って、突いて、叩いて。三人が加減して攻撃しているのは僕にでもわかる。

「やっぱり叩くのが効果的だな」

 アブリが軽く小突いただけで球体は砕け散り、氷のゴーレムは膝をついた。

 それで終わりかと思われたが。いきなりゴーレムは砕けて氷の破片をまき散らした。鋭い破片だ。

 肩に衝撃がきたので、油断をしたと気付いた。運がよかったかと思ったがそれは間違いだったようだ。

 魔法の鎧が頭と胸から腹だけまもっている。カイエとセイシが笏をかまえて集中して魔力を送り込んでいた。とっさにこれができるのか。

 氷の破片をまき散らしたゴーレムの中から、氷の剣を構えた子どもくらいの大きさのゴーレムがとびかかってきた。僕に。

「わあ」

 思わず声が出る。

 反射的にかがんですれちがいざまに胴体をなまくらで薙いだだけでゴーレムは真っ二つになり、床に当たってくだけて今度こそ動かなくなった。

 正直、弱かった。後には青いこぶし大の石がころがった。

「その肩にささったの、もらうよ」

 ローランが引き抜くのと、傷を閉じる呪文がかけられるのが同時。術者はセイシ。傷はきれいに閉じた。腕のいい僧侶だと思う。

「どう思う」

 ローランは鋭い氷の破片を打火花にわたして意見を求めた。

「そうだな、少し術を刻めば武器に加工できると思う」

「となると採取方法だな。いちいち体でうけとめろってのはおすすめできないし」

「まあ、そのへんは任せちまおう。俺たちはこの情報で報酬をもらうだけだ」

 最初の戦いはこんな感じで、油断とベテランの腕前というのを思い知らされる顛末となった。

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