システム操作で魔王の能力(一部)を得る

 隠し部屋で見つけたものを並べ、そこでみつけたコンソールを僕はいじっていた。

 ついたときは全裸だったが、今はこの部屋でみつけたウラの普段着をきている。紐をしめるズボン、ポロシャツ、ベスト、全部生成りのシンプルなものだ。絹のような生地でシンプルな分高級という感じがする。容姿がウラの容姿で、つまり銀髪のしなやかな肉体の美少年なのでどこの少女漫画の登場人物かという姿で間違ってもこれで妹や彼女にあいたくない。あいつら、絶対おなかよじれそうになるほど笑うだろう。

 塔の管理権限はないが、管理者不在の今ならここのコンソールでできることがあるかも知れない。と、思ったのだが、できることはかなり少なかった。ほとんどの機能がグレイアウトされ、使用不可になっている。ただ、この塔の最初の主であった死の王のためのコマンドのいくつかと、塔内転移だけは使えるようだ。

 死の王のためのコマンドは、アンデッド、生ける屍の強さを調整したり、数を調整するもの、塔内で死んだ者の力を吸い取って、指定したものに与えるもの、指定した死者を蘇生するものが使えた。吸い取られた死者の屍は崩壊してしまうが、蘇生には魂があればいいのでかなり悪どいことができるんじゃないだろうか。

 とりあえず、玉座の間にころがっている巨大な死体を吸い取って自分に移す。僕がやったのではない。彼はウラの後任だ。そしておそらく複数人が彼と戦って勝利したようだ。

 何がひきつげるかは移し先の器できまるのだろう。結果だけ表示された。

 魔王火炎帝のステータス、経験値、そして特殊魔法の循環式火炎防御の接触と輻射の二種類。この魔法は炎の魔人である火炎帝が同行者を守るために使うものだったみたいだ。「?」マークをタップするとそんな説明がポップした。人間の体は火をまとったり吹いたりするのには向かない。ウラの記憶にある火炎帝の力の大半が引き継がれることはなかった。

 コンソールではコマンド対象にできるもののサーチができる。対象はさっきまで二人いた。玉座の間に大規模な戦闘痕を残して死んでいた魔王と、少し離れた部屋で蘇生魔法を何度もかけられているらしい人間。

 今は一人だ。なぜか対象になったり消えたりしている。コンソールにはユーザー許可呪文とか成功とかそういう文字が出ている。おそらく蘇生しては死ぬの繰り返し。

 助ける義理はないし、必要性もないと思うのだけど、救えるかもしれないなら、とコマンドを試してみようと思った僕は魔王ウラではなく、高校生の浦上大輔なんだろう。

 火炎帝は肉体破壊の呪詛を使えたはずだ。生命活動を終えておしまいではなく、じわじわ体を壊して行く呪詛。もしこの犠牲者がその呪詛をうけているのだとすれば、蘇生されてもすぐ死んでしまうのは理解できる。呪詛の対象は体なので死んでもとけないんだ。細胞がすべて破壊されるか、火炎帝が解除しないかぎり呪いは解けない。

 火炎帝は仲のいい相手ではなかったけど、葬ってやりたかった、見知らぬ人相手では少し気がとがめるが、力を吸収して肉体を消滅させてから蘇生すれば助かるはずだ。

 獲得したのは神聖魔法、呪詛魔法、それにステータス少々。僧侶だったらしい。

 神聖魔法は回復ふくむ強化、呪詛魔法は体力含む弱体化と呪いや毒の弱体化の解除ができる。

 ウラは肉体強化と毒、呪いの魔法はもっていたが、神聖、呪詛の回復関係はもっていなかった。ボスに回復手段を持たせるとそれこそクソゲーになるということだったんだろう。それが今回、一気に解消してしまった。

 ありがとう、見知らぬ僧侶。感謝をこめて蘇生した。

 隠し部屋のコンソールがふっと暗くなった。

 残念、もう使えなくなったようだ。ということは次の魔王がやってきたということだろう。

 荷物をまとめて玉座の間に出てみると、氷の息を吐く竜にまたがった甲冑の巨人がいた。

「ウラか」

 巨人は僕の姿を見て驚いたようだ。僕も彼のことは「知って」いた。火炎帝が炎の魔王ならこれは氷の魔王。

「氷血帝か。火炎帝の後を襲いにきたのか」

「いかにも、貴様の後を引き継いだ火炎帝が敗れたので引き継ぎにきた」

 ダイモンの設定では、そうやって六十四柱の魔王ことごとくを倒し、魔界をやぶるのが暗黒の塔シリーズだったはずだ。シリーズもなにも一作目で終わっているのだけど。

「ウラ、滅んだはずのお主がなぜこここにいる」

「確かに僕は滅んだ。その後、別世界で新しい生を楽しんでいたのに、呼び戻されてしまったらしい」

「なんと」

 表情はわかりにくいが、彼が目を見開くのはわかった。

「呼び戻されただけで、元の地位に戻るわけではないのでな。とりあえず僕を討った魔法使いに会いにいく。彼もここでの戦いからはずれたらしい。何か助けあえるかも知れない」

「それよ。そやつに許しをもらわねばならん。名前がわかれば場所がわかるらしいが、知らぬか」

「ゴウキ。古賢族だ」

「感謝する。場所は、うむ、古賢族の国だな」

 ならば。あの国の首都、大図書館にいけば手がかりがつかめるだろう。

 氷血帝は暑さでぐったりした氷のドラゴンに命じて飛去った。

「ゴウキか」

 古賢族は、古鬼族という今は魔界にしかいない種族から別れた魔法特化の種族で、先祖のせいで背が高く、先祖と異なり理知的な顔をしている。魔力は多いが、ゴウキは特別だった。

 ウラの最後の戦いは「覚えて」いる。魔法使いゴウキに牽制の氷の槍の魔法をはなったところ、逃げ場などないほど埋め尽くす百本を軽く越える石の槍に貫かれたのだ。チート野郎らしく、魔力だけでなくすべてのステータス、魔法の威力も段違いだった。それまでの戦いは「忘れた」が、そのときのウラの気持ちはようやく楽になれるだった。彼とウラはここで現実の数十年、ここでは計り知れないほどの間、自動戦闘をやってきたらしい。レベル上限が九十九なのに、ゴウキのレベルは二千近くあるし、魔力も生命力も非常識な量を誇っている。魔王はかなり高い下駄をはいているが九十九だ、完全に劣っている。

 火炎帝のステータスを奪ったので、今の僕はレベル九十九の魔王程度にはあるがそれでは勝負にならない。魔法がウラのもっていたものをそのまま引き継いでいるので、人間になった弱さを含めてたぶん前のウラといい勝負なんではなかろうか。

 ま、闘う気はないけど彼がその気ならまた一瞬で殺されるだろう。気にしてもしょうがない。

 部屋に戻り、塔のコンソールは復活してないことを確かめた。もし、氷血帝が倒されたら次がくるまでまたコントロールできるのだろうか。

 わからないことはおいて、もう一つのコンソールを確かめることにしてベッドに横になった。

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