魔王の凱旋

@HighTaka

「爆発しろ」と見知らぬ非モテに突き飛ばされた

  もう何度名前を変え、外見を変え、性別も変えただろうか。

 同胞もすっかりみなくなった。みな、成功してここを旅だっていったのだ。

 詩もだめだった、歌でもだめだった、物語はどれもそれだけの力を持ち得なかった。

 才能がないのだろうか。この世界の者が神とよぶあれ、我々の親と言えるあれはもういない。その残した中でも私はとびっきりできが悪いのだろうか。

 そして千九百八十年と人々の呼ぶ年、私はパソコンに出会った。

 最初の作品はかなりうまくいったのだと思う。だが、草創期のそれではできることが少なかった。

 その後、いくつも成功作を出して私はついに一人前になることができたが、最初の作品のためにがんばりすぎた設定がどうにももったいなかった。おまけに、作りの甘さからチートをされたのが未だに変な影響を残している。

 この物語にはいくつも着地点がある。そのどれかに導きたいと思ったわたしは二人の登場人物を選んだ。

 一人はチートを通じて世界に干渉する縁をもった老人。もう一人は不完全な世界を完成させるために前世を植え付けた不安な子供。

 彼らがいればこの世界は着地点につけるだろう。

 後事を分身にまかせて私はこの世界を去り、あるべきところで分身よりの報告を待った。


 僕の名前は浦上大輔。いわゆるぼっちゃん学校に通う男子高校生だ。父が事業家で、母は文筆家、祖父母も教科書に乗るほどではないが文化人や経済人が多く、成績はもちろん、身体のきれがよく、おかげでスポーツはまあそつなくこなせ、さらにそのおかげで一目おかれているという正直ライトノベルの主人公には向かない人間だと思う。

 おまけに彼女もちだ。同じ学校の中三で妹の友達。三人の共通点が家庭用ゲーム機での格闘ゲームで、最近はオンラインゲームもちょっとやっている。その中でメッセージのやり取りをやったり、一緒にお茶やってるうちに仲良くなってしまった。もちろん妹は知っているし、いつのまにか両方の両親の公認になっていた。

 あぁ、つまり非公式だが婚約状態というわけで、これをうらやましいといわれたことは何度もあるが、いいのかな、と思うところもある。本人は必死に隠しているつもりの彼女の本当の姿はいろいろ知っているが気にならない。ただ、このまま流されて行っていいのかな。どっかでもっと劇的な出会いがあったりしたらどうなんだろうという妄想もちょっとある。

 それでも他になにもなければこのまま流れて行って、何十年かあとに死んで行くんだろうなと思っていた。

 実は、人に言えない痛い秘密がある。

 前世もちなのだ。とあるきっかけでそのことを思い出さなかったら、僕はいまでも内気で勉強だけのぱっとしない人間だったろう。そう、中学一年のときまでそうだった。あのままなら、今はいじめの的にもなって引きこもってたかもしれない。

 きっかけは、祖父が若い頃に買ったパソコン雑誌だった。何十年も前、地味にカルト的に人気のあったそのゲームの特集記事に僕の前世がのっていたんだ。

 これは痛すぎて本当にいえない。変化の魔王、魔法戦士ウラ。ソロゲームのそのゲームでキャラのクラスに対して苦戦必至のステータス、コンボを用意してまついやなラスボスで、その秘密は万能書庫オラクルを仕込んだ白銀の兜と、相手の攻撃に応じて防壁をはる杖にあった。

 攻略は持久戦でじっくりけずれる僧侶が有利で、短期決戦しないときびしい魔法使いが上級者むけということになっている。回復手段のとぼしい魔法使いはボスがなでていればだいたいすぐに終わるからだ。

 魔法はさすがに使えないが、動体視力がよくなった上に、体を動かすほうも前世の記憶に近い動きだとかなりよく動いた。なので、前世を思い出してから運動は苦手でもなくなり、もともとくそまじめで勉強はできるほうだったので、自信もついて内気でもなくなっていた。

 ちなみに彼女にもそんなうわっつらでないところを見抜かれており、ぐいぐい問いつめられたらしい妹の白状により僕たちはまだ見せ合った事もない場所のほくろまで知る仲になってしまった。

 いらないことをしゃべった妹は僕にも彼女にも頬をひっぱられたらしい。

 そんな仲の彼女にも、この前世のことはさすがに話せない。ましてや妹には無理だ。

 秘密をかかえたまま平穏に日々はすぎていく。そんな風に思っていたが、まさか信号待ちの交差点で後ろから衝動的につきとばしにくるやつがいるとは。

「爆発しろ」

 本当にそんなこと言うやついるんだ。それとも、なんかお約束?


 記憶はそこで途切れた。


 気がつくと真っ白な空間。

「死んだ? 」

 死んだのなら、こんなふうに意識が働いているわけがない。

「どこだここ」

「夢の中だよ」

 よくとおる男の低音の声。ふりむくと、緑色のモアイ像がうかんでいた。

 あまりのシュールさにしばし言葉を失うほどだ。

「ダイモン? 」

 その名前は自然に出てきた。こいつはダイモン、僕の前世とそのすむ世界を作り上げた神とも悪魔ともよぶべきもの。ゲームでは、たしかチュートリアルの説明アイコンであったと思う。

「夢の中、ということは前世の記憶か」

「そうともいえるし、そうでないともいえる。あまり時間はないので、君を巡る状況を説明しよう」

「僕はどうなったのだ。死んだのか」

「死んではいないよ。今は集中治療室で機械につながれているが、これは念のための処置だ。明日には退院できるだろう。ただし、そのときの君がいまここにいる君とは限らない」

「どういうことだ」

「君の記憶を引き継ぎ、君だと思い込んでる別人だと思ってくれ。つまり、君が自分の因果に決着をつけることができず、あの世界にとらわれたままになった場合はね」

「なにが、きっかけだ」

「君の帰還をのぞんだ者たちがいる。魔王ウラは君にとっては過去でも、あの世界の魔界のものたちにとっては特別だからね。何しろ、最初に人界にくさびをうちこみ、各地に呪いをまいて侵食に成功している」

「僕はシステム側だったし、システム側のあんたとスタッフの設定したことには逆らえなかっただけだぞ」

「だが、あのころは疑いもせずにやっただろう。そのつけを払うときがきた」

「勝手な」

「その言葉は甘んじて受けよう。時間がないので、必要なことだけつたえる」

 ダイモンはふよふよ震えて早口になった。

「このあと、君は魔法使いゴウキのことを思い出す。こっちの世界にのこった君の鏡像を自動化して何万回も倒したチート使いだ。鏡像の記憶を君は引き継ぐことになる。だが、君は姿はウラのものだが、浦上大輔としてあの世界に降り立つことになる。すまないがレベルは一だ。だが、君はシステム側で、ウラのできたことの一部が使える。それをうまく使ってくれ」

 ダイモンの震えはどんどん早くなっている。

「ゴウキはもう君の敵ではない。彼には彼の使命があり、いずれ魔界にいく。彼についていくのが解決の近道だろう。君の解決すべき因縁はもう人界にはない」

 魔界のことは知ってる気がする。だが、いってみないと思い出せないと思う。ゲームの中では存在はしていてもでてこなかった場所だから。

「最後に、君は塔の玉座の間にでると思うが、君だけのはいれるところにささやかだがプレゼントをおいておいた。失ったもののかわりをしてくれるだろう」

 モアイの姿がかすみはじめたと思うと、ぱあっと視界が拓けた。

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