第4話 高校生活は薔薇色で

 その日から、数日が過ぎた頃、優治が桜木小春プロフィールと書かれた一枚の紙を渡してきた。


「優治、これは?」


「前にすれ違った女子生徒のプロフィールだそうだ」


「成程…いやどうやって集めたんだよこんな情報」


「影無に頼んだら、ラーメン一杯で引き受けてくれた」

影無お前ってやつは…ラーメン一杯で釣れるのか


「因みにあいつからの伝言でこの事は他言無用、もし言ったら…まあこの先は言わなくてもいいだろう」

うん、正直そこから先は聞きたくない。ここ法治国家だよね?あいつ何者?


「取り敢えず話を戻すぞ。プロフィールの最近起こった出来事の所を見てくれ」


「スリーサイズじゃなくて?」


「そんなもん見て何になるんだよ。あいつもそこまで調べなくて良かったのに…」

いやいや優治、大切な情報だろう。そんな事を考えていると優治がこちらを睨んでくる。


「その紙は読んだらすぐに回収して影無に処分してもらうからな」

な、なんだってー!とはさすがの俺でも思わないよ。早く処分したい。


「まあ、話は戻すがそのプロフィールの最近起こった出来事の所に、ずっと好きだった幼馴染の冬木雪芽に三日前に振られたって書かれてるんだよ」


「成程そこで俺が出ていきかの…」彼女と良い感じになると言いたかったが、優治が話を続けたため俺の話は中断され優治は何食わぬ顔で話を続ける。


「だが、実際の所は冬木の方も彼女の事が好きなのではないかと言う情報が影無から届いている。そこで俺たちが目指すのはこの二人をくっつけるって所じゃないか?」


 え、それだと俺ギャルゲーの友人キャラじゃない?意味なくない?


「安心しろ。お前が桜木とくっつく事なんて空から美少女が降ってくるくらいありえないから。」


 いや…うん。自分でもそのくらいわかってるからちょっとくらい夢みせてくれても良くない?


「ま、その方法についてはまだ目途がたってないんだがな」


「その冬木ってやつも桜木の事が好きだったんじゃないのか?なんでわざわざ振ったんだ?」


「ふむ、それも影無情報になるが冬木と言う生徒は運動神経、テストの点数どちらもそこまで低いわけでは無いらしいんだが、如何せん自分に対する自信がないそうだ。恐らく今回に関しても自分と桜木が釣り合うのかと言う不安を抱えているんじゃないか?」


成程。納得は出来ないし、共感も出来ないが、事情は理解した。


「適当に励ますとかじゃダメなのか?」


「どうだろうな、正直ただ励ますだけで自信を持ってくれるならそれに越したことは無いんだがな。影無が友人に成りすまして励ましてみて効果なしって言ってるからな」


「あいつそんな事までしてるのか…」

友人に成りすますって絶対一般人がもっていい技術じゃないだろ。ただ、今はそんな事はどうでもいい。重要なのは励ましはあまり意味が無いってことだ。


「なら、恋敵とかが現れたらどうだ?」


「残念ながらそれでもあいつが桜木さんに告白するとは思えないな…」


「その心は」


「その心っていうか、桜木さんが美少女である以上モテるのは自明の理なわけで。それであいつが焦ってないっていうのが何よりの証拠だよな」


「成程な。なら例えばだが、もし、もしの話ではあるが桜木さんの事が好きな男子が冬木の背中を押したらあいつは動くと思うか?」

俺のその提案に優治は少し考えた後


「それなら、可能性はあるかもな。ただ、どこにそんな都合のいい奴がいるんだ」

その言葉に俺はにやりと笑い


「それなら、目の前にいるだろう。儚き通りすがりの美少女に一目惚れした一人の童貞が」


 その言葉に優治もまたにやりと笑った。


「成程な、確かにそれなら何とかなるんじゃないか?」


☆☆☆


 俺は校舎裏に冬木雪芽を呼び出していた。当然、冬木は突然呼び出されて困惑していたがそんな中でも恐る恐る俺に話しかけてきた。


「えっと、僕に何か用?」


 その言葉に待ってましたと俺は口を開く


「俺はこの前桜木さんに告白したんだ。」


 冬木は急な話の展開に一瞬呆けた顔をしたが、話の内容を理解すると話の続きを促してきた。


「そっか、それで小春はなんて答えたの?」


「…振られたよ。私は冬木の事が好きだからあなたの想いには答えられないってな」


 当然そんな事実は存在しない。もし、小春さんに振られるとしても普通自分の好きな人をわざわざ振った相手に言うことは無いだろう。しかし、冬木はその言葉を聞きあからさまに安心した態度を示した。


「そっか、それで僕に何か用かな?小春が僕の事が好きだから八つ当たりに来たって事は無いよね?」


 途轍もなく腹の立つ言い草であり、正直、桜木さんのこと関係なく殴りたくなったがそこはぐっと抑える。


「別にそんなつもりはない。ただ、なんでお前が桜木さんの告白を断ったか知りたいだけだ」


「成程、そう言う事。なら、答えは簡単だよ。正直、小春には僕よりも相応しい人がいると思っただけさ…何をやっても目立った成績を出せない僕よりもね」


 正直、野郎が幼馴染とかと比べて劣等感を感じている話なんてクリスマスとかのリア充イベント以上にどうでもいいが、今回はこの話に乗っておく


「そうか、確かにな。知ってるか?お前に振られた後から一ノ瀬先輩と桜木さんいい感じらしいぜ?」


 当然、そんな話は存在しない。一ノ瀬先輩が桜木という生徒を認知しているかも怪しいところだ。まあ、あの人なら全校生徒覚えていそうでもあるが…。


「そ、それで?わざわざ僕にそれを教えに来たのか?嫌がらせの為に」


 本当に失礼な奴だ。俺だってそんなに暇じゃない。


「そんな訳無いだろう。ただ、これがお前にとって最後のチャンスだって言いたかっただけだ。」


「最後のチャンス…」


「ああ、最後だ。一ノ瀬先輩に告白されたらきっと桜木だって満更でもないだろう。」


 先ほども言ったが当然そんな事はない。というか、あの人が誰かと付き合っている姿など想像できない。


「そ、それならいいさ。生徒会長はとても良くできた人だと聞くしね。」


 そう言う冬木の顔はどこからどう見ても強がっているようにしか見えない。


「お前は本当にそう思ってるのか?一ノ瀬先輩と付き合って心の底から桜木さんが幸せになれると本気で思ってるのか?いや、それだけじゃない。桜木さんに振られた俺たちだって、告白されたお前だって誰も幸せになんかなれないだろう」


 その言葉に冬木は大きく目を見開いた。冷静になればこの話の流れ的には一ノ瀬先輩だけ幸せになってるが、ここでそんなチャチャは入れない。


「誰も、小春も幸せになれない。なら僕は一体どうすれば…」


「そんなの決まってるだろう?お前が告白しろよ。彼女もそれを待っている。」


「で、でも僕は一回小春を振ってるし、何よりも僕なんかが小春に釣り合うかな?」


「少なくとも、彼女はそう思っているからお前に告白したんじゃないか?」


 俺がそう言うと、冬木は少し悔しそうにしながら


「そっか、そうだよね。僕はそんな事にも気付いていなかったのか。ねえ、もしもっと早く気付いていたら僕が小春と付き合えてたのかな?」


「さあな、もしもの話なんて俺には分からないよ。ただ、話によると一ノ瀬先輩が桜木に告白するのは今日の五時屋上らしい。つまり、これからだな、もしかしたら急いでいけば間に合ううんじゃないか?」


 そう言い俺は四時五十分を指している自分の時計を冬木に見せる。そして、それを見ると冬木は何かを覚悟した顔をして俺に話しかけてきた。


「ごめん。僕、急用が出来た。行ってきていいかな?」


「好きにしたらどうだ。俺は話したいことは話し終えたしな」

 

 そう言うと冬木は全力で屋上に駆け出した。

それから数分後校舎全体に響く大きさで冬木の告白が聞こえてきて、屋上に隠れていた影無からの情報で二人が結ばれたことを聞かされた。


 因みに種明かしをしてしまえば、桜木が屋上にいたのも冬木の友人に変装した影無が冬木から話があるという偽の情報を桜木に流してもらったからである。あの時は偽の情報であったがこうして事実に変わったからまあいいだろう。終わり良ければすべて良しって言葉もあるくらいだしな。


 そんなどうでもいい事を考えていたら、優治の奴が話しかけてきた。恐らく俺と冬木のやり取りを隠れて聞いていたのだろう。


「汚れ役、いや踏み台役か?お疲れ様」


「それはどうも、盗み聞きはどうかと思うがな」


「そいつは悪かった…。なあ願一つ聞きたいんだが、何でわざわざあの役を引き受けたんだ?正直、お前の役回りは完全に引き立て役だと思うんだがな」

優治の言葉は最もであり、特に冬木の野郎に腹が立たなかったと言ったら嘘になるが


 それでも


「まあ、流石に泣いてる女の子見てそのまま放置は出来ないからな」

 俺がそう言うと


「…ホント、お前らしいよ。お前はひねくれてるけど、誰よりもお節介なところがあるからな。…だから、俺も多少強引な手を使ってでも誘ったんだからな」


最後の方優治が何ていったか聞き取れなかったが、正直今の俺からすればどうでも良かった。何故なら今の俺は心の底から




「薔薇色の青春を送りたい。」



そう願っていたから―――。

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