第10話 仕事部屋
それから風太の仕事部屋は完成した。
全体的に白を基調としたデスクで、モニターは黒だがキーボードも白だしその他周辺機器もすべて白で統一されていた。
まあ七海の受け売りだったが。
「よし、これで家から出ることなく執筆できるな」
風太も好きでファミレスで書いていたわけではなかった。出勤みたいに毎朝決まった時間に家を出るのは得意ではない。また、夏には移動で汗をかいてしまったし、冬は寒くて指がかじかんでしまい執筆に影響もあった。
そのすべての障害がなくなって、執筆に向き合える。
この部屋なら、今まで以上にかける気がした。
「やー、いい部屋だねここ。住み心地抜群だ~」
「なぜおまえがここにいる……」
ちゃんと部屋を与えたはずの七海が、何故だか風太の仕事部屋に入ってきていた。
「いやさあ? どうせ一緒に家にいるなら同じ部屋にいたほうが良いと思わない?」
「いや、思わんが」
どうして一緒の部屋にいる必要があるというのだろう。大体、七海はすでに自分の部屋に遊べる環境を整えていたはずだが。
「大丈夫。邪魔をしようとかは思ってないから」
「ほんとか……?」
「ほんとほんと。なんか誰かが周りにいたほうがこっちも集中して堕落できるって言うか? そんな感じなの」
「そんな感じなのか……?」
風太は疑って七海を見ていたが、七海としては半分本音だった。
というのも、前の部屋にいてはまた家で一人という感じがして、引っ越した意味を感じられなかったのだ。
せっかく風太も家にいるというのに、それではなんとももったいない。
「まあ、俺もファミレスとか周りに適度な雑音が入るくらいがちょうどいいから……いいよ、俺の部屋にいても」
「え、ほんと? やった~じゃあここにパソコン持ってきて配線組んじゃうわ」
「こういうときだけ仕事が早い」
うっきうきで、部屋をはだしでぺたぺたと出ていったかと思うと、そこからよいしょよいしょと何回にも分けて本当に荷物を運んできた。
その様子を、風太は黙って観察してみることにする。
まずは机。女子では持つのが少し大変な横に広い長机を持ってきょろきょろと見渡して、机を風太の机の横に置いた。
「――っておい、横に置くんかい」
「いいじゃん。背中合わせだと味気ないし、ちらちらと生足でも見せておけば風太くんも理性がはじけ飛んで襲ってくるかもしれないし」
「後者の理由については全く意味が分からなかったんだが。お前にも俺にもメリットないんだが」
「よいしょっと」
「つーか、配線どうすんの?」
「後ろから引っ張ってくる」
「二度手間じゃねえか…………」
まあ別に風太としてもそこまでの邪魔というわけでもないから、逆に隣に来るのを嫌がると邪推されかねない。
だから口出しすることもできず、ただひたすらにその引っ越し作業を見ているだけだった。
「あ、そういえば風太もパソコンの中にゲーム入れた?」
その作業中、七海がそんなことを言い出した。
「入れるわけないだろ。仕事用だぞ? つーか大体このパソコン、ゲームなんて動くのか?」
「動く動く。というか動くようなちょっと物のいいやつにしておいた」
「てめえ‼ もっと安いのあったのかよ‼」
パソコンのことは風太には分からないから七海に選んでもらったのだが、どうやら失敗だったと認識する風太。
「いいじゃん。……だって、二人でゲームやりたかったんだもん」
「ゲームってなあ。俺もそんなに時間あるわけじゃないんだが」
「でもどこかの週刊連載抱えてる漫画家も、Ap〇xやってるらしいよ?」
「それは、その人がすごすぎるだけだと思うぞ……」
大体、風太は超が付くほどの小説バカなので、暇さえあれば執筆をしている。
「でも、それって息抜きも大事ってことじゃない? 小説ばっか書いてても視野が狭くなるんだよ」
「う――っ」
完全に口から出まかせの七海だったが、風太には心当たりがあった。前に編集者の長峰にも「先生の小説って面白いんですけど、ちょっと古臭いですよね」と言われてショックを受けたことがある。あれはインプット不足もあるだろうし、ずっと一定のリズムで書き続けているから生まれる弊害でもあると、風太は考えていた。
「ね? だからゲーム入れてみよ! まずは私の最近ハマってるA〇exから……」
「しょ、しょうがないな……」
「やった!」
流されやすい風太は、またしても七海の戦略によって自分の私生活が侵食されていくのだった。
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