凍えるほどにあなたをください
@chauchau
馬鹿な男
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけれど」
「そいつは俺にとっちゃ最高の褒め言葉」
「救いようのない馬鹿みたいね」
ガハハ、と豪快に笑う男を女が見下ろしていた。
整っている。いや、整い過ぎている女の身形は美しいという言葉で語ることの出来ないほどであった。一方で、胡坐をかいたままの男はといえば、およそ身形という言葉と縁がない見た目であり、伸び放題の髭面と暑苦しい風体が合わさって、ヒトというよりはゴリラのほうが近いとも言えた。
「理解に苦しむわ」
「世界のすべてを理解できると思うのは傲慢というものさ。……、どう? 今の俺、カッコ良かったっしょ?」
「三点」
「五点満点中?」
「百点満点中」
氷のほうがまだ温かみを持つ冷たい視線を浴びながら、それでも男は笑うのを止めはしない。心底、なによりも嬉しくて、なによりも幸せそうであった。
「忠告したわよね」
「されたな」
「死にたがり?」
「まさか」
自慢の筋肉でポージングを決めたため、暑苦しさが上昇する。少なくとも、室温は上がってしまった錯覚を女は覚えた。
「矛盾しているとは思わない?」
「俺は矛が勝つと思う」
「そんなことは聞いていないのよ」
膝を抱え込んで女がしゃがむ。
二人の視線が絡み合う。
「怖くないの」
「何を怖がるってんだ」
女の指が、男の唇を撫でる。
見た目通りのごつごつとした唇を、愛おしく。
「惚れた女が目の前にいる」
動きに合わせて、女の指も。
「最高じゃねえか」
笑う男の唇が、
「馬鹿な男」
塞がれる。
凍えるほどにあなたをください @chauchau
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます