第5話 ジョーカー


 週が明けて徳香はいつも通りぎりぎりの時間に会社に到着し、忙しく仕事をしていた。


 お昼になると、いつものように紗矢と休憩室に行きご飯を食べる。



 仕事や芸能人やアニメなどの話を二人でそれぞれに主張する。


 ただ、誰が聞いているか分からないので、人のうわさ話は慎重にしていた。


 ふと、徳香がスマホのカードを見ると、知らない内にカードが1枚増えている。



 そのカードを見たとき、徳香は一瞬心が凍り付いた。



 南野光輝みなみのこうき



 半年前に別れた彼氏の名前だ。


 高校2年の時から7年間ずっと付き合っていた。


 光輝はバスケ部で身長が高く、優しく、顔も悪くはなかった。


 今は大手メーカーに勤めていて、社宅のある八王子に住んでいる。


 光輝のことは愛していた。


 一生のうちにこんなに人を愛することはもうないだろうというくらい。


 徳香を一生幸せにしてくれると思っていた。


 

 それでも、2人の間に終わりの時が訪れた。



 光輝が浮気していた。


 それも、高校の後輩で徳香も知っている女の子だ。


 今考えると本気なのは後輩で徳香のほうが浮気だったのかもしれない。


 LINEも電話も全てブロックして光輝の方から徳香に連絡することはできないはずだった。


 手紙でも書けば別かもしれないが。



 少しずつ失恋の傷が癒えてきた時に、徳香が作ってもいない光輝のカードが出来ていることに驚愕した。



 ステータスを見ると、全ての値の所にアンダーバーが表示されている。



 もしかしたら、やり直せるってこと??


 午後の仕事が終わって帰宅したが、なにをしていたのか全く覚えていなかった。



 アパートに帰ってから高校の時の共通の友人にラインを送ってみる。


 お久しぶり、と送ると30分くらいして返事が返ってきた。


 井上直人いのうえなおと、光輝の親友だ。


 徳香じゃん!と軽い感じの返事が返ってきた。


 徳香ですよーと返す。


 どうした?やっぱり俺と付き合っていれば良かったとか?


 違いますー


 そっか、光輝のことだろ?


 うん


 相当落ちこんでいたぞあいつ、まあ、自業自得だけど


 それでさ


 ん?


 光輝って今どうしているかなって


 あー、あいつ今誰とも付き合ってないんだよな


 そっか


 よりをもどしたいとか?


 ううん、なんかありがとう


 そっか、なにかあったらまた連絡してくれよ


 じゃあね


 またな




 そっか、光輝別れたんだ・・・・。


 徳香の瞳から涙がひとすじ零れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る