点滴と輪廻と死因
犬丸寛太
第1話点滴と輪廻と死因
えー、アタクシめはこうして元気に寄席を開いておりますが、生前は点滴を打っている時間の方が長い、そんな人生でありました。
そんなもんだからここへやってきて開口一番に閻魔大王様にこう申し上げました。
「次の輪廻の先は点滴の無いようにしてほしい。」
すると閻魔様は合点といった調子でこう申されました。
「では、虎はどうか。虎は地上で一番強い生き物であって、天敵は無いぞ。」
なるほどなるほど確かに虎は一等強い生き物だ。悪くはない。しかし、一辺人間に生まれちまうと欲が出るもんでアタシはもう一度人間として生まれ変わりたい。それにどうやら閻魔様は勘違いをしておられるようようで、点滴と天敵、音は同じだけれど意味が全く違う。しかし、小心者なアタクシの事ですから正面切って閻魔様の間違いを正そうなんて事はできません。ですからこう申し上げました。
「閻魔様、閻魔様。虎も良いですがアタクシは人に生まれ変わりたいんです。次はもっとうまくやりますから。」
すると閻魔様、今度はよくよく承知した様子でこう申されました。
「なるほど、なるほど、ではオランウータンなどはどうか。森の人と呼ばれ、力も強く頭も良い。」
ふむ、これじゃあ埒が開かない。ええいままよとアタクシ正直に申し上げました。
「閻魔様、閻魔様、先ほどから閻魔様は勘違いをしておられます。アタクシの言ったテンテキは点滴、人は人間の事でございます。次の輪廻の先はまどろっこしい事の無いよう、丈夫な人間の体でお願いします。もう点滴でもってちまちまなんてのは飽きました。」
そこで閻魔様はアタクシの事を承知してくださったご様子で真っ赤な顔をアタクシも良く知っている鬼灯のように膨らませて判決をくださいました。
それがどうにも口惜しくてこうして皆様に愚痴を吐いている次第でございます。
え、アタクシの死因ですか?
ええ、ええお答えいたしましょう。
アタクシ、これでも生前は医者をやっておりまして、他人様に使う前にまずは自分で新しい薬を試そうとしたんですが、濃さを間違えてしまいましてね。
ええ、その通り、アタクシの死因は試飲でございます。
何?落ちがつまらない?確かに会場しーんとしていらっしゃるご様子。
されども、されどもご安心ください。きちんと落ちは用意してありますとも。
これからアタクシ、
地獄へ落ちます。
お後がよろしいようで。
点滴と輪廻と死因 犬丸寛太 @kotaro3
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