第141話 強くなったものだな

 休日だと言うのに、部屋に飛び込んできた侍女長によって朝っぱらから叩き起こされた。

 ランニングとシャワーの後の二度寝という休日にしか許されない至福の時間を邪魔され、非常に機嫌が悪い。


 最低限の身支度を済ませて、来客が待っている玄関に向かう。


「……ロベルト」

「おはようございます、隊長!」


 玄関ホールに着くと、ロベルトが一目散に駆け寄って来た。輝かんばかりの笑顔である。朝から元気だ。

 

 侍女長によるとサロンに案内しようとしたが「ここでいい」と言われたらしい。

 逆に迷惑だから素直にサロンで待っていてほしい。玄関口で待つ王族があるか。


「今日、俺に稽古をつけてください!」

「稽古?」


 そのために私を叩き起こしたのか? こいつは。

 ちょっと一回話し合いが必要かもしれない。肉体言語で。


 まぁ、今週も訓練場には顔を出そうと思っていたので、ちょうどいい。


「分かった、訓練場に行くとしよう。すぐに支度をするから、サロンで待っていろ」

「いえ」

「今日はプライベートレッスンをお願いしたいのです!」

「は?」

「マンツーマンで!」

「はぁ」


 勢い込んで距離を詰めて来るロベルト。

 まだ目が覚めきっていないので、ちょっとエクスクラメーションマークの多さしか頭に入ってこない。

 つまり、話し合えばいいということか? 肉体言語で。それなら望むところだが。


「お前はいつも元気だな」

「はい! 隊長のおかげです!」


 皮肉交じりで言えば、邪気のない爽やかな笑顔で元気な返事が返って来た。

 勢いにつられて笑ってしまう。


「分かったよ。庭で相手をしてやるから、サロンで待っていてくれ」

「はい!」


 実際に稽古を始めてみれば、時間は驚くほどあっという間に過ぎていった。

 ロベルトも強くなったものだなとしみじみしてしまう。まだまだ、それこそ10年くらいは、負ける気はないのだが。


 昼食時に差し掛かってもまだまだやる気のようだったので、侍女長に「ロベルトご飯食べて行くって」と言ったらロベルトの見ていないところでめちゃくちゃ怒られた。

 飲み会の帰りに急に部下を連れて帰ってきたお父さんばりに怒られた。


 いろいろ言われたが要約すると「先に言え!」だそうだ。それはもう、ロベルトがアポ無しで来たのが悪い。

 以前王太子に限った私も悪かったかもしれない。訂正しよう。王族は、アポなしで来てはいけない。

 全国の王族の皆さんにはぜひこのことを覚えて帰って欲しい。


 侍女長が夕食の準備に気を揉み始めた頃、ロベルトは満足した表情で暇乞いをすると、足取りも軽く帰って行った。

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