第122話 私は何か悪いことをしたのだろうか

 ぶっ倒れた私は教師のもとに担ぎこまれ、バートン公爵家に強制送還されたらしい。

 結局まともに星の観測会に参加できなかったし、目が覚めてみれば体中痛いし重いしでベッドから動けなかった。寝込んだ。

 踏んだり蹴ったりである。まぁ実際踏まれたり蹴られたりした結果がこれなのだが。


 医者に見てもらったところ普通に骨が折れていた。

 肋骨の何本かと鎖骨と左腕がぽっきりいってしまっていたようで、絶対安静を言いつけられた。

 他の臓器に損傷を与える可能性があるとかなんとか、絶対に大人しくしているようにと散々医者から脅かされた。


 そんなことをしなくても私はちゃんと安静にしているつもりだったのだが、あまりにダメだと言われると逆にやりたくなってくるから不思議である。

 痛いのは嫌なのでやらないが。


 領地に行っていた両親の代わりにお兄様が飛んで帰ってきたらしく、目が覚めて早々ものすごく怒られた。

 お兄様は怒るときも泣くので困ってしまう。ものすごく罪悪感をかきたてられる。勘弁してほしい。


 長いお説教を大人しく聞いていると、両親も帰ってきてまた泣かれたし怒られた。

 さんざん怒られた挙句、お母様には「さすがに羆には勝てないのね」とどこか安心したように呟かれた。

 次は勝ちます、と言うとお父様とお兄様にまた怒られた。そういうことではなかったらしい。


 どうも家族から信用のない私は、お兄様の監視下で絶対安静・面会謝絶状態となった。

 お兄様がいないときは両親かクリストファー、侍女長の誰かが見張りに立つという徹底っぷりである。

 ここまでくると監視というより軟禁じみている。もはや罪人扱いと言った方がしっくり来るくらいだ。

 私は何か悪いことをしたのだろうかと思えてくる。


 全治2ヶ月とか言われたが、2ヶ月もこんな生活を続けていたら身体が鈍ってしまう。

 腕が動くようになったら、リハビリだ何だと言ってベッドから出してもらおう。


 本当は聖女の力で治してもらえたら話が早いのだが……友情エンドに進もうとしている身で、それはさすがに虫が良すぎる話だ。

 死ぬわけでなし、己の力で治すとしよう。


 ベッドに縛り付けられている間、暇つぶしにクリストファーにチェスを教わったが、盤を割る方が向いているということが分かっただけだった。

 だいたい、一番強い駒がクイーンというところからして納得がいかない。キングの駒は「プリンセス」に改名すべきだ。


 たいていの時間を、溜まりに溜まったご令嬢からの手紙を読んだり、見舞いの贈り物へのお礼状を執事見習いに口述筆記させたりして過ごした。


 ちなみに、学園のご令嬢からの手紙は卒業式等の特別なときを除き、直接の手渡しは禁止されている。

 原則として友の会経由で1週間分程度がまとめて届けられることになっており、中身も友の会の検閲があるので、過激な内容は書けない。


 私からの返事は個別には行わず、月に1回、会報に載る「バートン様のお言葉」で手紙の内容に触れたりすることになっていた。

 よく考えられた制度だ。友の会様々である。


 手紙か。

 思いついた私は、執事見習いに便箋とペンを持ってくるよう頼んだ。


 幸いにして、私がエリザベス・バートンになったときから――つまり7歳時点から――私の字は癖のない、読みやすい字だ。

 時候の挨拶文はさんざん手紙を読んだので、嫌でも覚えている。


 書き終わった手紙の最後に署名をする。封蝋を押す段になって、気づいた。

 そういえば、自分の手で書いた手紙を出すのは初めてかもしれない。

 私は2通の手紙を執事見習いに託すと、また溜まった手紙の開封作業に戻った。


 どちらの手紙も、すぐに返事が来た。

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