第98話 友達の家にお中元とか送るタイプ
その後、戻って来た神父様と交代して懺悔室を出たものの、ディープな話を聞いたせいか私もリリアもすっかり消耗してしまっていて、お祈りのお披露目が終わったところで早々に切り上げることになった。
まったく、散々な結果である。
ちなみに、リリアは神父様に内関のツボを教えていた。彼女も神父様の胃が心配になったらしい。やさしい子である。
次の日、朝食の席でお兄様と一緒になったものの、一方的に気まずくなってしまった。
さわりだけとはいえ、お兄様が悩みを抱えていると知ってしまったことが非常に後ろめたい。
「お兄様」
「うん? どうしたの、リジー」
「私もクリストファーも、頑張って嫁に行きますので」
「うん、えーと。クリストファーはお嫁には行かないかなぁ」
お兄様は困ったように笑っていた。クリストファーは私の顔を凝視してパンを取り落としている。
「姉上、お嫁に行く当てがあるんですか!?」
「それは、ないけれど」
そこまで驚愕しなくてもいいだろう。失礼な弟である。
腹いせにクリストファーが机に落としたパンを代わりに食べてしまうことにした。
クリストファーと侍女長の非難ありげな視線は黙殺する。
「あ、あぁ! そういえば、昨日の星詠祭、リジーも行ったんだってね? 僕もクリストファーと一緒に、お父様の名代で行ってきたんだ。エド……王太子殿下と、ロベルト殿下も来ていたよ」
明らかに気を使って話題を変えようとしてくれたお兄様だが、残念ながら話題は変わっていない。
しかしお兄様の言いかけた殿下への呼び方に、私はふと引っかかりを覚えた。
「お兄様。いつから王太子殿下のことをそのように?」
「え?」
お兄様は目を丸くする。ふくふくの頬に浮かんだ青い瞳は、青空を閉じ込めたようだ。
「いつだろう。結構前からだけれど……補佐役としてだけじゃなく、良き友人になれたら、って、お父様や殿下からも言われていて」
思ったよりお兄様と殿下が仲良くなっていた。
不安だ。
お兄様が殿下から悪影響を受けるんじゃないかと心配になってくる。
顔面はたいそうお綺麗だが、結構面倒くさいところのある上司だし、お貴族様らしく「良い性格」をしている。
そうでなくとも、間近であの顔を見慣れてしまったらたいていのご令嬢が霞んで見えてしまいそうで、そういう意味での悪影響もあるかもしれない。
「友人と言えば。リジー、ちゃんとギルフォード君にお礼を言っておいてね」
「アイザックに?」
何故、アイザックに礼を言う話になるのだろう? それも、お兄様が?
私が首を傾げていると、お兄様がテーブルに置かれたジャムの瓶を見せてきた。
「去年から、時々領地の名産品を贈ってくれるんだ。リジーにお世話になっているからって。これもそうだよ」
アイザック、友達の家にお中元とか送るタイプらしかった。
いや、彼自身はあまり人付き合いが得意な方ではなさそうだから、さすがは新進気鋭の宰相様を擁する伯爵家、といったところだろうか。
「お母様も、以前もらった茶葉がとても美味しかったと言っていたし、このジャムは僕もとても気に入ってるんだ」
お兄様は幸せそうな顔で、ジャムをたっぷりと塗ったパンにかぶりつく。
見ている方が幸せになるような笑顔だった。いつのまにか、気まずさはどこかへ消えている。
アイザックには、重々礼を言っておこう。
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