第86話 持つべきものは友達……いや、親友だな!
「この際、覆面でもして参加するか?」
「すぐにバレませんか?」
「大会本部をジャックするのは?」
「なるほど。昨年と同じなら、会場がこの向きで、大会本部はここですね」
「ああ、それなら後ろの建物から裏に回って撹乱しよう」
「逃さないよう前方を包囲した方が良いですね」
「いや、生徒よりも審判役の騎士に注意した方がいい」
「お前たち、何をしているんだ」
とある日。
剣術の授業の間暇を持て余した私とロベルトは、どうやったら剣術大会に参加できるかの作戦を練っていた。
私とロベルトが膝を突き合わせてこそこそ話しているところに、剣術の授業から戻ってきたアイザックの声が割り込んでくる。
さすがに運営側のアイザックにバレるとまずいので、二人で顔を見合わせ、適当に笑って誤魔化した。
「おかえり、アイザック。ここから見ていたけど、君、酷いやられようだったなぁ」
私の言葉に、アイザックの眉間の皺が深くなった。
ダンスは相当うまくなったが、剣術の方はまだまだである。
教えている身としては、一回戦くらいは突破してほしいところなのだが。
「ギルフォード、俺が稽古をつけようか?」
「結構だ。先生役はバートンで間に合っている」
「隊長が、先生?」
「ああ、時々練習に付き合ってやっているんだ」
私が答えると、ロベルトが悲しそうな瞳で縋りついてきた。
私よりも背があるくせに、こういう時だけ何故か上目遣いに見えるから、不思議である。
「そんな! 隊長! 一番弟子は俺ですよね!?」
「お前、私の弟子だったのか?」
いや、関係性としては師弟が近いとは思っていたのだが。
弟子にするとか言った覚えはない。
もっと言えば、隊を率いているつもりもない。
縋りついてくるロベルトを引きはがそうと苦心していると、アイザックの眉間の皺が一層深くなった。そしてわざとらしくため息をつく。
「誰かさんに勉強を教えなくていいのであれば、僕も剣術の稽古に集中できるのだが」
「あーあー、悪かったよ、アイザック。見捨てないでくれ。な?」
じろりとこちらを睨んだアイザックに、両手を合わせて「頼むよ」のポーズをしておく。
剣術大会もだが、そのすぐ後には中間テストだ。リリアにギャップを感じてもらえるような点数を取るためにも、彼の機嫌を損ねるのはまずい。
私が下手に出たことで溜飲が下がったのか、アイザックはふっと眉間の皺を緩めた。
そして私とロベルトに向き直り、告げる。
「剣術大会のことだが、エキシビションマッチをすることになった」
「え?」
「お前とロベルト殿下とで、大会前に余興として一戦、やっていい」
「!」
その言葉に、私とロベルトは顔を見合わせる。ロベルトの目が、爛々と輝いていた。きっと今は私も似たような顔をしているに違いない。
2人して期待に満ちた目でアイザックを見つめていると、アイザックはどこか照れくさそうに目を逸らした。
「お前たちをただ出場させないだけでは、ろくでもないことをしでかしそうだからな。それよりは適度に発散させた方がいいだろうということで、掛け合っただけだ」
完全にお見通しだった。
いや、それでもいい。エキシビションでも何でも、見せ場がもらえただけで十分だ。
持つべきものは友達……いや、親友だな!
「ありがとう、アイザック! 君が女の子だったらキスしてるところだ!」
「は!?」
「俺からも礼を言うぞ、ギルフォード! 俺もキスしたほうがいいか?」
「別にお前のためじゃ、痛っ!? 叩くな! こら、バートンもだ! いっ!? いい加減にしないと怒るぞ!?」
ばしばしアイザックの背中を叩いていたら、結構本気で怒られそうになったので慌ててやめた。
女子の目がないとつい、男子の部活みたいになってしまっていけない。
リリア、早く着替えから戻ってこないだろうか。
「そうと決まれば、こうしてはいられません!」
立ち上がったロベルトが、ものすごい勢いで荷物をまとめ始めた。
「俺、武者修行に行ってきます!」
そう言うが早いか、ロベルトは教室を飛び出していく。
「武者修行……? この後の授業は……?」
「あいつ、試験勉強は大丈夫なのか……?」
私とアイザックは、呆然としたまま教室に取り残された。
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