第52話 1年目のダンスパーティー
「えーと?」
私がダンスパーティーの会場に向かうと、入り口に何やら人だかりが出来ていた。
遠巻きにしながら、なんとか避けて会場に入ろうとしたところで、人だかりのうちの1人に見つかってしまった。
その次の瞬間、海が割れるように人だかりが割れた。
人だかりの中心にいたのは。
ため息が出るほど美しい顔の令嬢3名だった。
ただし全員、女性にしてはやけにガタイがいい。
そしてその全員に、私は見覚えがあった。
真ん中の令嬢は鳶色の髪で、若草色の瞳。3人の中で一番背が高く、スタイルが抜群だ。
オフショルダーの深い藍色のドレスはウエストがくびれていながらウエストから下はすとんと落ちるエンパイアラインで、がっちりした体型を見事にカバーしている。
肩にかけた黒のレースのショールのおかげで、広めの肩幅もそれほど目立たない。
髪はすっきりと結い上げられ、大ぶりの髪飾りがきらきらと輝いていた。
大きく空いた胸元には谷間(胸筋)が垣間見え、これまた大きな宝石を使った首飾りが躍る。
化粧と華やかな顔立ちも相まって、ダイナマイトな迫力美人の様相であった。
左の令嬢は、一番背が低く華奢だった。銀糸の髪をゆるく編み、右側に垂らしている。
生花と小さな宝石つきの髪飾りが編み込まれていて、もともとの中性的な顔立ちが存分に生かされた、清楚で愛らしい仕上がりだ。
紫紺の瞳を縁取る長い睫毛を控えめに伏せれば、まるで妖精の国から抜け出たようだ。
王道の白を基調にしたプリンセスラインのドレスには、繊細なレースがふんだんに使われていて古めかしさを感じさせない。
化粧もアクセサリーも繊細で上品なものがセレクトされており、消えてしまいそうな儚さ漂う深窓のご令嬢と言った仕上がりである。
右の令嬢はすらりとして手足が長い、スレンダーな体系だ。眼鏡の奥には赤褐色の瞳が揺れている。
藍色のつややかな髪を黒曜石のバレッタでハーフアップにしている。今ご令嬢たちに最も流行っている髪型だ。
黒地に刺繍が施された生地を使ったマーメイドラインのドレスは、露出が少ないかわりに身体の線が出るとてもぴったりとした作りで、折れそうなくらいに細い腰を際立たせている。
黒のシースルーのロンググローブはどこか知的な印象だ。
装飾品はほとんど身に付けていないが、一色でまとめ上げることでモデル体型を際立たせている。
きりりと引かれたアイラインが現代的で、どこかモード系の雰囲気すら漂っていた。
つまるところ、ロベルトと王太子殿下とアイザックだった。
理由は不明だが、異常なほどクオリティの高い女装をした3人がそこにいたのだ。これは人だかりも出来るだろう。
というか、今日のダンスパーティーはいつからハロウィンパーティーになったんだ?
仮装パーティーだなんて、誰も教えてくれなかった。
学園内ではほとんど接点がない他の2人はともかく、アイザックは教えてくれたって良いではないか。
憤慨しながら私たちを遠巻きに取り囲んでいる人だかりを見渡すが、3人のほかには特に変わった服装の者はいなかった。皆普通に正装をしている。
強いて言えば私は騎士団の制服を着ているので、どちらかといえば3人のお仲間だと思われていそうではあるが。
ダンスパーティーに浮かれた仮装仲間だと思われては堪らないので、私は一度咳払いをして、戸惑いを隠さず3人に話しかけた。
「これは、どういった趣向でしょう。私が知らないだけで、今日は仮装パーティーだったのかな?」
おどけてみせるが、誰も笑ってくれなかった。
「俺は……」
何となく切羽詰まったような様子で、ロベルトが話し出した。
頼む。妙なことを口走ってくれるな。
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