第51話 いかにも乙女ゲームらしい展開だ
ダンスパーティーか。
アイザックとふざけて「余興で踊るか?」なんて笑っていたが、そろそろ本格的に誰を誘うか考えなくてはいけない。
女子生徒側として参加する気はさらさらないので、1人で参加することも出来る。
だが見栄えを考えると、誰か適当なご令嬢を誘っておくのがよいだろうか。
考えながら教科書を鞄にしまっていると、教室のドアから数人のご令嬢が私のところへ歩いてくるのが見えた。
バートン様親衛隊の幹部(?)の皆さんである。
真ん中にいるのが親衛隊長で、周りを固める4人が四天王と言った感じだろうか。
親衛隊の隊長ということは、彼女こそ名実ともに「隊長」と呼ばれるに相応しい。
みんな彼女のことを隊長と呼んでやってほしいところである。
彼女たちは美しくお辞儀をして私に挨拶をすると、何やら真剣な表情で切り出した。
「バートン様。わたくしたち『バートン様友の会』から、折り入ってご相談がございます」
親衛隊、正式にはそんな名前だったのか。
宝塚みたいじゃないか。
では、会長か。残念だ。
「ダンスパーティーにどなたかお誘いになるおつもりでしたら、友の会以外の方にしていただきたいのです」
「それは、どうして?」
「無用な争いを避けるためですわ」
凛とした表情で私を見返しながら、会長は答えた。
確か、彼女は侯爵令嬢だったはず。さすがに仕草や姿勢一つとっても洗練されていて品があり、美しい。
「わたくしたちは、みなこうして影でバートン様のことを見守り、時にお言葉を交わすことができれば、時にその微笑みを拝見できれば、それで十分なのです」
「ですが、その中から誰か一人が選ばれてしまったら、今の幸せでは満足できなくなるものが出てしまいます。その者を妬んでしまう者も出るでしょう。わたくしたちはそれを危惧しているのですわ」
四天王のご令嬢も口を開いた。
何というか、みんなとてもちゃんとしている。「本当に私のこと好きなんですか?」と聞きたくなるくらい、冷静で落ち着いていて、隙がない。
普段話しているときはそうでもないと思うので、オンとオフの切り替えがきちんとしているのだろう。そのあたり、非常に貴族らしい。
そしてやはり、我が公爵家の面々はそういう意味では貴族らしくない。お兄様などいつもどんなときもほにゃほにゃの隙だらけである。
話の内容も、なるほど。理解できる。
女の子ばかりの集団をまとめるというのは、その辺いろいろと気を使わないといけないのだろう。
私とて、今そのような無用の争いを起こすのは本意ではない。
そういうのは主人公のために取っておいたほうが良いだろう。
「じゃあ、友の会の全員と踊るのはどうかな?」
「それでも、ファーストダンスはやっぱり特別ですし……」
女心を一生懸命勉強してきた自負がある私だが、このファーストダンスが特別、という感覚はよく分からない。
踊った時間の長さや、密着度の高いダンスをするかどうかの方を重要視しそうなものだが、そうではないらしい。
まぁ、もともとダンス文化のないところで一生を過ごしてしまったので、仕方ないかもしれないな。育ってきた環境が違うから。
一番風呂みたいなものだと思っておこう。一番だと何となく、気分が良い。
「それに、パーティーの時間内に全員と踊るなんて無理ですわ」
「こちら、友の会の名簿です」
四天王の1人が差し出した紙の束を受け取って、私は閉口した。
分量がすさまじい。確かにここに名前が書いてある全員と踊ろうと思ったら、もはやマイムマイムしかない。
「えーと、何故か数人、見覚えのある男子生徒の名前があるようだけど」
「バートン様友の会は、性別などという些末なことは囚われません」
「みな、貴女様のファンなのですから」
それは一理ある。確かに性別を気にするご令嬢は私のことを推さないだろう。
見覚えのある名前は、騎士団候補生のものだ。謎の組織を複数個兼任するな。
「男手が必要なときに率先して手伝ってくださっています」
便利に使われているようだった。
男手が必要なファンクラブの仕事が何かは知らないが。
「我儘なお願いであることは承知しております。ですがどうか、この名簿に名前のないお方からお誘いください」
5人は揃って頭を下げた。女性に頭を下げさせるとは何事か。ナンパ系の風上にも置けないぞ。
頭を上げるよう説得した後、私はどの女の子もエスコートするつもりがないことを彼女たちに伝えた。
「私は誰のものでもないし……みんなに仲良くしてほしいからね」
そう答えると、彼女たちはほっとした表情になり、やっと緊張がゆるんだようだった。
「ありがとうございます。やっぱりバートン様はお優しいですね」
会長はそう言って微笑んでくれるが、残念ながら私はさほどやさしい人間ではない。
特定の女の子を特別扱いすることを避けて誰もエスコートしなかったナンパ系男子が、初めてエスコートを申し込んで特別扱いする女の子。
主人公をその「特別な女の子」だということにした方が、いかにも乙女ゲームらしい展開だと思っただけのことである。
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