第14話 ~アメリカンな吹き替え風味を添えて~

 体育座りで地べたに座っている男の子たちの真ん中、少し開いたスペースに立って、周りを見下ろす。

 この世界でも体育座りなんだな、と変なところが気になった。


 私がじっと黙っている間、お行儀のなっていないらしい子息たちは、こちらを見て何やらひそひそと囁きあっている。

 貴族令息といえど、思ったよりもずっと子どもっぽい連中だと感じた。見た目もそうだし、内面も。

 みんな腕が細っこいし、膝小僧などちゅるんちゅるんのつやつやだ。かさぶたも、痣も、傷跡もない。


 そして顔がよい少年の多いこと、多いこと。さすが乙女ゲームの世界。

 攻略対象たちはこの激戦の中を勝ち抜いた、選りすぐりの顔面たちなのだ。そりゃあ、顔がよいはずである。


 お兄様がそのぐらいの年頃だったときと比べるのはあまりに令息たちが気の毒な気もするが、1つ下のクリストファーと比べても幼く感じる。

 うちの義弟は見た目こそ幼いが、中身はもう少ししっかりしている。


 カルシウムのおかげでたいていの令息よりは背が高かったが、体つきは他の教官たちのようなゴリマッチョではなく引き締まった細マッチョだ。

 個人的にはもっとバンプアップしたい。だが、私が重視すべきは自分の楽しさではなく女子ウケだ。泣く泣く我慢している。


 そのため、見た目でナメられる可能性はあった。真面目に話を聞かない者が出るのも想定内である。

 こういうのは、初めが肝心だ。同じぐらいの年頃の男の子たちを見回し、ゆっくりと息を吸う。


「そのだらしがない口を閉じろ、蛆虫ども!」


 シーンと、場が静まり返った。

 お育ちが良いお坊ちゃんたちは、きっと今まで面と向かって蛆虫呼ばわりされたことがないのだろう、呆然としている。

 私も他人様を蛆虫呼ばわりしたのは初めてだ。


 ナメられないためにどうすればよいか考えた結果、辿り着いたのがこちら。

 名付けて鬼軍曹作戦 ~アメリカンな吹き替え風味を添えて~ である。座っている令息たちをわざと、あからさまに見下して、鼻で笑う。


「どいつもこいつもションベン臭い。か細い腕にお綺麗な剣と靴。一目で分かるぞ、貴様らは使いようのない蛆虫以下のゴミだ! 騎士団候補生? ハッ、クソのほうがマシな冗談だな、寝言は寝て言え!」

「貴様! よくもそんな口を!」


 吐き捨てるように告げると、顔を真っ赤にした令息が立ち上がった。

 はて。どこかで見覚えがあるような。しかし、前髪が邪魔ではっきりとは分からない。

 何なんだ、そのうっとうしい前髪は。剣術の練習をする気がないのか。


 プライドの高いお貴族様のご令息だ。こんな言い方をすれば、1人や2人文句を言ってくる者が出るだろう。

 だが、ここで引き下がってはいけない。むしろ、力の差を見せ付けるチャンスである。

 私はあえて挑発するように、人差し指でクイクイと宙を引っかいた。


「文句があるならかかってこい! ただし、私に負けたら通常メニューに加えて腕立て100回だ!」

「上等だ!」


 挑発に乗って飛び掛ってきたところを2秒で伸した。

 ナメられないようにとあえて手加減しなかったが、やりすぎたかもしれない。ふっ飛ばした令息が地面に落下し、つぶれた蛙のような声を出した。


 その後も通常メニューに取り掛かるまでに噛み付いてきた令息を数人伸したが、徐々に異を唱えるものも、私のことを下に見た態度を取るものもいなくなっていった。

 しかし約束は約束なので、連帯責任ということで全員に追加メニューを課してやった。


 息も絶え絶えといった令息たちを尻目に、何故か合流してきたグリード教官たちが嬉々として同じメニューをこなしている。

 何故貴方たちまで令息側にいるのか。妙にイキイキしているのは何故だ。それ以前に貴方たちの担当の令息はどうした。

 しかし鬼軍曹として、ここで態度を崩すわけには行かない。最初が肝心だ。


「まだまだ余裕があるようだな! 追加でダッシュ20本!」


 私の声に、令息たちは悲鳴をあげ、教官たちは歓声をあげた。

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