第5話 2.5次元とはこういうものかもしれない

 そして迎えたパーティー当日。


 しばらくは婚約者としてロベルトの隣に立ち、挨拶に来た人にお辞儀をするマシーンと化していた。

 喋ってボロが出てもいけないので、会話はロベルトやお父様に任せて基本的に無言でにこにこしておく。

 ロベルトとの会話も「ごきげんよう」程度で、ほとんど黙っていたので非常に息が詰まった。口が利けなくなってしまうかと思った。


 することもないので、婚約者殿の顔をぼんやりと眺めていたのだが、同じ次元になってみると何というか、二次元のキャラのはずなのに三次元だな、と感じた。いや、当然なのだが。

 隣にいるロベルトは、確かにゲームの中の立ち絵で見たロベルトの面影がある。つまらなそうでいてどこか偉そうな態度も、鳶色の髪のオールバックも、私の知るロベルトとよく似ていた。

 そしてさすが攻略対象、目つきは悪いが、作り物のようにきれいな顔だ。


 だが、二次元的というより、外国人の子役を見ているかのような印象を受ける。ちゃんと3Dなのだ。

 次元が同じになってしまうと妙な現実味があって、同じ次元に実在している者なのだという実感がある。

 外国人の子役が「子ども時代のロベルト」を演じたら、こういう感じになるだろう。なるほど、2.5次元とはこういうものかもしれない、と変なところで謎の「分かり」を得てしまった。


 挨拶ラッシュがひと段落したところで、さっさと抜け出してしまうことにした。お花を摘みにいくような振りをして、そっとロベルトの隣から離れ、着飾った貴族たちの中に紛れ込む。

 コルセットが苦しくないからと言って、窮屈なことには変わりない。がっつりと食事を楽しむ気にはなれず、軽食やお菓子もそこそこに、窓からバルコニーに出た。


 誰も見ていないことを確認して、手すりにのぼり、そっと庭へと飛び降りる。少しでもロベルトとの身長差をごまかすために、今日はぺたんこの靴だ。手すりに上るのは簡単だった。

 しばらく庭に隠れていよう。何か聞かれたら、「お庭の花が素敵だったので見ていました」とかなんとか言っておけば良いだろう。


 庭の芝生に着地して顔を上げると、目が合った。


 眼鏡の男の子が、こちらを見ていた。

 複数人の男の子に取り囲まれて座り込んでいる。皆、年は私と同じか、1つ2つ上くらいだろう。


 周りの男の子たちは眼鏡の子を囲むように立っているので、まだこちらには気づいていない。ほとんど音を立てずに着地したのだから、当然と言えば当然だ。

 全員身なりがよいので、今日のパーティーに参加した令息だろう。だが、眼鏡の子だけは顔と服が少々汚れていた。


 こちらを見つめる眼鏡の令息の顔に、見覚えがあった。

 はて。誰だったか。


「お前、いい子ちゃんぶってて生意気なんだよ」

「宰相の息子だからって調子に乗りやがって」


 宰相の息子という言葉で、ピンと来た。道理で見覚えがあるはずだ。

 私を見つめる眼鏡の令息の名は、アイザック・ギルフォード。


 ロベルト同様、「Royal LOVERS」の攻略対象の1人だ。

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