第9章 謎の少年~後編~囚われし者
『ーー憎いよ、妖怪のおまえが』
◆
……暗闇。
眠たくて目を閉ざしたわけじゃないのに。
真っ暗。
ーーなんだっけ。
どうしてこんな暗闇にいるんだろう。
目を開ける。
瞬きを繰り返して、焦点をあわせる。
誰かの足。
誰の?
「きさ……らぎくん?」
目の前にいたのは如月くんだった。
「やっと起きたね」
屈託のない表情で私の寝起きを向かえる。
どうしてここに?
「シキにはお手柔らかに連れてきてって言っておいたんだけど……」
結構手荒な真似されちゃったんだね。
そう、悪びれた様子もなく笑ってすませる。……それより、どうして如月くんが? 如月くんが彼に私をここへ連れてくるように頼んだの? どうして?
会う約束をしていたんだから、何もこんなことしなくても。
私はすぐにあの時のことを思い出した。あの時私はルカのような漆黒な彼に気絶させられたんだ。それでここまで連れてこられた。
でも、おかしい。
だって如月くんは妖怪が見えないんじゃ……見えなくなったんじゃーーないの?
「如月くん……」
「ん?」
「妖怪が、見えるの?」
嘘だと言ってほしい。私をここへ連れてきた彼と繋がりがあるなんて。
だってそうでなければ如月くんは、如月くんは私に嘘をついたことになる。
「見えるよ」
何ら気まずさも見せずにそう答えた彼は、最初からバラすつもりだったのだろうか。
こうやって。
でも、どうして。
「どうしてこんなことするの?」
私に、妖怪がもう見えなくなったと嘘をついて、わざわざ妖怪に頼んで私をここへ連れてきたのか……分からない。
如月くんは視線下げた。
「どうしてーーか」
そして……。
「妖怪を抹消するため、かな」
「抹消……?」
妖怪を消しさろうとでもしているの?
「妖怪なんていないほうがいい。君も、そう思ってるんでしょ?」
如月くんの瞳と表情に影が落ちる。
「何も考えない動物以下の無能なイキモノ。そんなものいったって意味ないって」
「そんなこと……」
「ないって言える?」
私は如月くんの思っているような人間じゃない。私は妖怪のことが見えるようになってまだそんなに経っていないんだ。
君の思っているように、私は前々から妖怪のことが見えていたわけじゃない。
だから、君の気持ちが分からない。
幼い頃、妖怪にどんなことをされていたかは天邪鬼に聞いた。それは天邪鬼が知っていることだけで、如月くんはもっと妖怪に酷いことをされたのかもしれない。
だけど……私には分からないんだ。
「その右目にあるハウラの力の欠片、僕がもらってあげるよ」
「えっ……」
「それさえなければ危険な目に合うこともなくなる。それにあいつだって、立花さんの傍にいる理由もなくなるでしょ?」
木に寄りかかって地に座っているような状態の私の前に、腰を下ろし私の顔を窺ってくる如月くんの言葉。
氷力石のこととか、ハウラのこととか、どうしてこんなにも詳しいんだろう。妖怪の間では有名な話だってレオに聞いたことがあるけど、人間の如月くんがこんなに……。
「どうして、知っているの?」
氷力石が私の右目にあること。
それに、あいつって誰?
心の中でもう一つの質問をすると、如月くんは立ち上がった。
まるでこの事を聞いてくると分かっていたかのように、彼は単調に話す。
「昨日、君ん所の護衛役に言われたんだよ。立花さんには手を出すなって」
護衛役……?
「見えないフリをしていたせいか、何か疑われたんだろうね」
はっと閃く。
それってもしかしてあの時ーーキクリを迎えに学校に行こうとしていた時。狼のことがあって心配してくれたレオも一緒について来ることになったんだ。
それで二人で談笑をしていると道端で如月くんに会った。
ーーってことは、如月くんはレオのことを言っていることになる。
そういえばあの時、レオがおかしかったような。如月くんの去る背中を見ていて。
「はじめそう言われて意味不明だったけど、いろいろ推測してみて分かったんだ。君が氷力石を持っているって」
「それだけのことで……」
「シキと一度会ったよね。その時にシキが氷力石の気配を感じたって言っていたの思い出してさ、ビンゴだって思ったわけ」
私の前にしゃがみ込み、私の様子を窺う。
シキってあの妖怪のことを言っているのかな。私をここへ連れて来た彼のことを。
“危険な目に合うこともなくなる”
如月くんがいろいろ説明する中で、この言葉が印象的に残っていた。
如月くんは私が危険な目に合っていると思っているんだ。
私が妖怪から危害を加えられていると思って言ってくれているのかもしれない。
「でも私、そんな危険な目にーー」
「シキ」
如月くんが彼の名と思われる名を口にすると、木の影から彼が現れた。
目の前にいた如月くんが立ちあがり、一歩下がると同時に彼は狼の姿となる。
やっぱり、あの時の狼だ。
何の目的があってか私の傍まで来る。
そして顔を近づけてきて、右目を……。
右目を食べようとしている!?
今日までそんなに危険な目にあったことないのに、まさに今がそうだ。
「いやっ」
恐怖で彼のことをーー狼の姿をした彼のことを押し飛ばし、走り出した。
森の中。一目から避けた所。
早くこの森から抜け出さないと。
必死に逃げてようとしているのにふらつく身体のせいで上手く走れない。
「……っ」
肩に何かが触れる。思いっきり引っ張られる感触。
何が起こっているのか分からないまま、背中に激痛だけが走る。目を開ければ、そこには人の姿をしたあの狼がいた。
私を見下ろしている。
彼は私の上に馬乗りをした状態のまま、鞘から出した普通の剣より半分くらいの長さの剣を私の真横にーー地面に刺した。
そして逃げられないようにと、もう一本の剣を私の服に刺す。
「逃げたって同じだ」
ーーいや……いやだ。
怖い。金色に輝く目が。
漆黒の髪から覗く金色の瞳が。
殺意を感じるわけではないのに、これから右目を取られてしまうんだって恐怖が、勝手に、彼の瞳に殺意を見せる。
自然と思い浮かぶのはあの二人。
(助けてーールカ! レオ!)
私はこんな時でも頼ることしかできない。こんな時だからこそなのかもしれないけど。
「あーりゃ。人間を襲っている欲求不満な輩(ヤカラ)がいるわ」
どこからともなく聞こえてきた声。
誰?
私の上にいる人の姿をしている狼の視線をたどると、そこにいたのは……。
ーーえ。
木の上にいたのは私の知っているヒト。ルーファスだった。
彼、ルーファスは木の上から飛び降りる。途中、虎の姿に戻ったルーファスは私の上に被さるように着地した。
いつの間にか離れた、金色の瞳をした彼。
また……助けてくれた。
「お前は?」
虎の姿から人の姿に戻ったルーファスに、金色の瞳の彼が問う。
「んなもん聞いてどーする」
「同じ側の者がどうして人間なんかを助けるのか、聞きたいだけだ」
自潮気味に返したルーファスは、彼の言葉に目を閉じて笑む。
「同じ側の者ねー。
ホント面倒くさいね、妖怪ってもんは」
まるで馬鹿にしているようだ。
ルーファス自身も妖怪なのに。
(ーーわっ)
どうしてルーファスは私の背中と膝裏に手を回すのか不思議に思って見ていると、言い終えると共に持ち上げられた。
……またこの格好。またお姫様抱っこ。
いつしか、レオにこんなふうに持ち上げられたのを思い出す。
「いいか。俺は前まで普通の動物だったんだ、それが死ねない体になっただけのこと。お前もそうだろ?」
見上げると真剣な表情。羞恥を味わうところだがルーファスの言うことに聞き入った。何かもどかしさとイラつきを感じる声。
「俺には妖怪なんてそんなもん、ただの名前ってだけにすぎない」
ーーあれ?
「ルーファス?」
いきなり俯き加減になった彼の名を呼ぶと、少し驚いているような彼と目が合う。
でもすぐに、大丈夫だというかのような弱い笑みを向けられた。
「だから……。まあ、難しい話はここまでにしといて」
視線をゆるっと横に向けながら話を続けるルーファス。私を持つ両腕に力が入ったかと思うと顔を近づけてきて小声で言った。
「逃げるぞ」
逃げるって?
このまま?
そう思っているうちにルーファスは私を抱えたまま彼に背を向ける。そして木の上へ飛ぼうとしてた時だろうか。
「あぶなっ」
背後からきたであろう剣が、目の前の木に突き刺さる。ルーファスが間一髪で避けたから当たらなかったもの。
「マジで刺そうとしてたのかよ、あいつ……怖っ」
さっき私に使った剣の一つ。
彼の手にはもう一つ剣がある。
「ルーファス、私を降ろして」
「はあ? んなことできるかよ」
「でも、でもこのままじゃーー」
関係のないルーファスまで……。
「そうする必死はないよ」
「……レオ」
突如どこからか現れたレオ。
風が髪を靡かせる。
その横にはルカもいた。
どうして私がここにいるってこと……。
「お助け参上ってところか」
◆
ルーファスが呟いたところに、顔だけ向けてくるレオ。
「トラシマくん、リオちゃんのことよろしくね」
(トラシマくんって……、どんなネーミングセンスだ)
「いや、俺の名前はルーファスだ」
一応突っ込っむルーファスだが。
(俺自身がトラで、シマシマな服を着ているからトラシマくんか)
一応納得するルーファスだった。
「レオ」
里桜が彼の名を呼ぶと、レオは大丈夫という笑みをする。
それを最後にその場を後にした。
里桜を抱き上げ木の上を走るルーファス。レオたちのいる後ろを見ながらに呟く。
「とんだ奴に狙われてるもんだ」
それから里桜はルーファスに連れられて家に戻ることになり。
「あ、窓空いてる」
「不用心だなって……ああ、あの二人か」
全開に空いている二階の窓から家の中へ入った。
「ーーで、俺がお前の存在を知ったのは」
里桜の部屋。
床の上であぐらをかき、腕を組んでルーファスは話を始める。
『やべえ。やべえよ』
木の上を渡っているとどこからか焦っているような声が聞こえてきたんだ。
で、見てみたら道の真ん中でちっさい赤鬼が頭を抱えて何か悩んでいてよ。
一応話しかけてみたら。
『どーした?』
『アイツが、リオが妖に攫われた』
お前が攫われたとか言ってて。
『マジか』
目を見開いた。
同じ名前のやつかと思いはしたけど、ほおっとく訳にもいかなくて。
『どこ行った?』
『たぶん森の奥だ』
『そうか』
『助けてくれるのか?』
『ああ。お前のためにじゃないからな』
◇
「お前を探し出した」
話し終えたルーファス。
「天邪鬼が……」
「ああ、相当焦ってたぞ」
天邪鬼に会わせたい人がいるって呼び出したのに、心配させてしまった。
今天邪鬼はずっとそこにいるのかな。
その時、ふわっと風が吹く。
現れたのはレオだった。窓から入ってきたようだ。後に続いてルカも。
レオは私に早急に近づいてきて、両手で私の顔を固定し持ち上げた。
「良かった。目は無事?」
(ーーえ)
近い。顔が近い。
綺麗な水色の瞳に真っ直ぐ見つめられて、固まってしまう。
「だ、だいじょうぶだよ」
「そーそ、俺が守ってやったおかげでな」
腕を組みながら得意げに言う彼。
「ありがとう。ルーファス」
「僕からも礼を言うよ」
「オトコから礼なんて貰っても嬉しくねーけど。ま、受け取ってやるよ」
嬉しくないとか言いつつも、ルーファスは穏やかな表情をしている。
もしあの時ルーファスが助けに来てくれなかったらと考えると、怖い。
天邪鬼とルーファスが会っていなければ、私の所にルーファスは来なかった。
伝えてくれた天邪鬼のおかげとも言える。
「そういえばレノは?」
ルーファスだけここにいて、レノがいないなんておかしい。
いつも一緒にいるのかと思っていたけど。ルカとレオみたいに。
「ああ、あいつはーー」
『神社にいる』
ーー……
ルーファスの言っていた、神社にいるとはおじいの神社の事だった。
おじいの神社の前につくと、レノとクウの二人の姿があった。
クウとレノはほうきを持ち、落ち葉の掃き掃除をしている。
「あいつ、あのキツネ様にこき使われてんだよ。俺にも手伝えとか言ってきたから逃げたんだけど正解だったな」
おかげでお前を助けられた、と横目をやってくるルーファス。
その顔は大人を感じさせるが、一瞬にして破顔する。クウの叫び声によって。
「あ、お前! さっきはよくも逃げやがったな」
「うわっ、やべ」
ルーファスは仰け反るようにして大げさに拒否反応を示し、クウはこれみよがしにほうきを持ちながら迫ってくる。
「クウ、ちょっと待って」
それを遮るようにルーファスの前に立ち、クウの勢いを止めた。
「リオ……」
はた、と固まるクウ。
薄緑色に輝く瞳に見つめられる。
「リオではないか」
なぜかがしっと両肩を掴まれた。
クウは女性なのに、男性を感じさせられる部分がある。今回は食欲に関して。
「リオが来たらこの落ち葉を使ってサツマイモとやらを焼こうと雄介が言ってたからな、どういうものかと楽しみにしてたんだ」
山済みになった落ち葉の元で説明をするクウは、本当にとても楽しそうだ。
「ギン、コン。雄介を呼んできてくれ」
神社の床掃除をしていた二匹は、クウの命令により了解しましたと駆け出して行った。
「……というかお前たちは、何しに来たんだ?」
私の背後に向けられるクウの視線。
そこにはルカとレオの二人。
「リオちゃんの護衛、かな」
「何かあったのか?」
「まあね」
あえて全てを言わないレオ。
心配させまいとしているのだろう。
そこへおじいが登場。
「おお、里桜来たか。みんなも勢ぞろいで」
「雄介! リオは来たぞ。落ち葉も山済みにした。準備は万端だ。
サツマイモとやらを焼かないのか?」
「じゃあ、焼くとするかの」
よしっ、と喜ぶクウはもう人間の食べ物を好んでしまったようだ。
クウが人間の食べ物を好むようになったきっかけは、前に私があげた栗かな。
秋の味覚。今回も秋の味覚だ。
寒くなってきて、もうそろそろ秋の季節は終わってしまうけど。
「そういえば、ルーファスたちはどうしてここにいるの?」
「あー、俺たちか」
何だか歯切れの悪いルーファス。
ルーファスとレノと別れたのは確かクウの暴走が止められてから。
あの時別れたのにどうしてここに二人がいるのか。ここにいて悪いとかそんなんじゃなくて、ただ単に気になっただけなのに。
「君と別れて月日が経った後、よく考えてみたら特に行く場所がないと分かってこの神社に戻ってきたんだ」
「そうしたらここにいるおっさんがよ、だったらここにおれば良いではないかとか言ってきたんだよ」
断る理由もなくてな、と半笑いしているルーファスを横目で見るレノ。
またルーファスは何かやらかしたのだろうか。今の言葉の中でレノが突っかかるような事を言ってしまったとか。
「ルーファス、君はまだそんな呼び方をするのか」
「ああ、じいさんの方が良いか?」
「どっちもよくない」
……まだじじいおっさん争いしてたんだ。良い方にランクアップして『じじい』が『じいさん』になってるけど。
「二人共、わしはここにおるぞ」
急に後ろから声をかけてきたおじい。その手にはざる山盛りにあるさつまいも。
持ってくるの早いな。
「……」
「ふんっ、バカが」
おじいに気を使って黙ったレノを、ルーファスは面白げに罵倒する。
横目同士でばちっと合う目。結構な迫力。
これでも一応仲良いんだよね……? じゃなきゃ一緒にいないだろうし。
「ルーファス、貴様に食わせるイモはない」
焼きあがった芋の前でクウは腕を組み、仁王立ちするかの如くルーファスの前に立ちはだかる。ついでに、綺麗に輝く薄緑色の目で見定めるように睨みつけている。
「はっ、仲間外れかよ」
「当たり前だろう、落ち葉集めする時も逃げやがって。何もしていないヤツに食わせるイモは……」
ーーナイ
そう言おうとしたのだろう、その前にルーファスの体を煙が包み込み、虎となった彼は一瞬にして焼きたてのサツマイモを奪った。
「へへ、もーらい」
「あ。くそ」
「つーか、あっちィー」
「ふん、バカか」
そしてまた人間の姿となったルーファス。手元には熱々のサツマイモ。
分かりきっていた反応だろう。
そんな賑やかな二人を見ていた私たち。
隣に座っているレオに伺う。
「レオは食べないの?」
「どうしようかな」
レオに前に訊いたことがあった。人間の食べ物、食べたいと思うわないのかと。
その時の答えは曖昧だった。
食べてみたいとは思わないけど、食べたくないと拒絶してるわけでもない、と。
つまり、どっちでも良いという事だよね。
「ルカは、どうする?」
その場に立っているルカに訊く。
「俺は……」
「お前は食え」
突然横から現れたクウが、ルカの口の中に芋を突っ込んだ。
ルカのすごい驚いている顔、初めて見た。
「お前は食べ物の美味しさを知って、もっと感情というものをもて」
そんなクウの発言に私たちは顔を見合わせて笑ってしまう。
が、標的はレオにまで。
「お前もだ。そんなひょろひょろした体でリオが守れるか」
あはは、とから笑いしたレオは。
「というわけみたいだから、頂くね」
焼き芋を食べることにした。
「待て、クウコ。焼き芋は皮を剥いて食うのじゃぞ」
「そうなのか?」
おじいのちょっとした教え。
はた、とルカのことを見るクウ。
その手の先には、クウが持っている皮付きの焼き芋。未だに口の中。
「すまん! まさか皮を剥いてから食べる食べ物とは知らなくて」
「……」
謝罪するクウに対して沈黙のルカ。
怒っているのか怒っていないのか分からない。この中途半端な顔、本当に不可思議。
「ルカ、大丈夫?」
「ああ」
「熱くない?」
「少し、熱い」
指で唇を拭うようにしている。
クールにしてるけど、本当はすごく熱いのだろう。気をつけて食べなきゃ。
「ところで里桜、どうしたんじゃ?」
「え?」
「いや、何かあったからここに来たんじゃないかと思ってな」
おじい、鋭いな。
さすがは家族、か。
「……本当は仲良かった二人がどこかで食い違って、それがもしこの先一生交わえないものだったらーーって考えて」
天邪鬼と黒髪の少年、いや、如月透くん。あの二人は食い違っている。
天邪鬼は、如月くんが一人で寂しいんじゃないかと思い同じ妖怪に如月くんの事を言いふらした。そうすれば如月くんを構う者が現れると思って。
でもそれは妖怪に如月くんを襲わせる一手となってしまった。それを恨んで如月くんは妖怪のことを、天邪鬼のことを嫌いになってしまったんだ。と思う。
これも、勘違いから始まるすれ違い、なのかもしれない。
「それって、なんか前までのルカとネコミミくんとの関係に似てるね」
「ルカと、ネコくんの?」
まさかレオまでそう思っているとは思っていなかった。
「どちらも素直なコじゃない場合、少し手を加えてあげれば元の関係に戻れるんじゃないかな」
……そっか。そうだよね。
あの時のように仲裁に入れば。
「お前、良いこと言うな」
私の左隣に座っているルーファスが、横から話に入ってくる。
私を間に挟むような状態で、右隣に座っているレオは、そう?と返した。
「私、じゃあさっそく」
「リオちゃん」
「……?」
「今日はダメだよ」
焼芋も食べ終わり、天邪鬼と如月くんの元へ行こうと立ち上がるとレオに止められた。
「どうして?」
レオが言ったのに。手を加えてあげればあの二人の関係は元に戻るかもしれないと。
それにまだ何も言っていないのに。
「いくらなんでも今日は駄目だ。またあいつが狙ってくるかもしれない。ほとぼりが冷めてからお得意のお節介をしてやれ」
「お節介って……」
久しぶりに長々と話すルカの発言。それには重さがあるが、どうも受け止められない。
「うちのお姫様は手のかかるやつだなって」
「少なくとも、君のじゃないけどね」
「お。なんだ、ヤキモチか?」
またしても話の間に入ってきたルーファスとレオの掛け合い。
「やき餅……? なんだそれは。
美味しいのか?」
その間に入ってくる、食欲旺盛のクウ。
「こっちのお嬢様は食い意地がはってすごいな。花より団子、ってか」
「ダンゴ?」
「ははっ」
団子という単語にも反応するクウにルーファスは笑っている。
みんなも穏やかにしているし。
なんか……楽しいな。
やることもなく、立ったついでに落ち葉掃除をしようと少し離れた所に行く。
サツマイモを焼くために使われた落ち葉の山は、半分の大きさになっていた。
「ネコくんもここに居れば良かったのに」
「おれが、何だって?」
え……。
なんとなく呟いた言葉。
「ネコくん!?」
「リオ、久しぶり」
まさか後ろにいるとは思わなくてぎょっと振り向いた。途端、後ろからぎゅーっと抱きしめられたこの状況。
「元気そうだね」
ネコくんが言うほど久しぶりではない気がするけど、そう言った。
「ルカとはーー仲良くしてる?」
「うーん、まあまあかな」
「まあまあ……?」
個人的な話かと思って慎重に聞いたけど、あっさりと答えるネコくん。
それもまあまあだなんて。
「だってずっと昔。お互い違う動物だったから話なんてできなかったし、いつも一緒にいてもただ一緒にいるだけみたいな」
淡々と話すネコくん。関心がないようにみえるけど、もしそうなら悲しいな。
ルカとぎくしゃくした関係は戻った。けれどそれが親しい仲じゃなくて、ただの知人みたいな関係だったら。
私のしたことは意味なかったのかな。
「でもまあ、拒否られていた時より今のがずっとマシだけど」
「……そう、なんだ」
それが聞ければ、良いか。
「そこのませ猫。リオを離せ、ってな」
「……誰?」
いきなり後ろから現れたルーファス。ネコくんは軽蔑して見ている。
「さあ、一体誰だろうなー?」
いつも以上のおふざけ。
これはルーファスのネコくんが受けた第一印象は良いものとは言えないだろう。
「ルーファス、子供をいじめるな」
「……子供?」
レノも現れ、ルーファスのおふざけを注意するが、ネコくんはぴくっと反応する。
「ああごめんな、ついいじめたくなっちまってよ、子供を」
たぶん、ネコくんは子供と言われるのが好きではないんだ。それを分かっていてわざとルーファスは発している。
「ねえ、このヒトたち誰?」
ネコくんが私を抱きしめながら怪訝そうに訊く。さっきよりオーラが黒くなっている。
これはあまり癇に障るようなことを言わないようにしないと。
えーと。
「お友達?」
そういえば、私とルーファスたちの関係って何だろう。
「お友達って」
変な回答をしちゃったのか、ルーファスに笑われた。確かによく考えてみれば人間と妖怪が友達なんておかしいけど。
ーー私たちの関係って何なんだろう。
「僕はレノだ」
ネコくんがこのヒトたち誰、と聞いていたからかレノが自己紹介をする。
「俺はルーファス。よろしくな」
「……」
続けてルーファスが自己紹介するが、何も発さないネコくん。
「なんか言えよ」
痺れを切らすルーファス。
それでも黙っているネコくん。
ぼそっと一言。
「このヒト、苦手」
「ああ? なんか言ったか?」
「別に」
ネコくん、この短時間で相当ルーファスの事苦手になったな。
「それよりリオ、良い匂いする」
「いい匂い?」
てか早くリオを離せよ、とルーファスが言っているが、聞く耳持たないらしい。
「……あ、焼き芋かな」
「焼き芋?」
さっき食べたばかりだからまだ臭うのかも。
「人間の食べ物、俺たちも食ったんだ。お前も食べてみたいか?」
「いらない」
「ま、もうねーけどな」
ルーファスは本当意地悪。
「ほら」
「え?」
いつの間にか近くに来ていたルカ。
「半分、やる」
差し出す手には焼き芋。ネコくんはそれを受け取った。
「……ありがと」
「ああ」
静かなやり取り。
「なんか、微笑ましっ」
空気を読まず、ルーファスが思った事を口にする。私もそう思ったけど、抑えたのに。
「どこかの誰かさんも、このヒトのように分け合うって言葉を知ってくれていたらな」
「それは一体誰のことだ?」
「さあな」
唯一黙っているレノに向けて発したルーファス。剣のある言い方ではなかったのに、レノは少しイラついている様子。
……ルカやレオ。ルーファスとレノ。そしてクウとコンとギン。それに加えネコくん。
忘れずにおじいも。
勢ぞろいして賑やかになった。
でも、何か物足りなかった。
天邪鬼と如月くんがここにいないことを。
いないのが当たり前なはずなのに、足りなかった。……早く分かり合ってほしいな。
「今日は、天邪鬼に会ってもいいよね?」
今週の休みの日は外に出るな、ということで昨日ーー日曜日はずっと家の中にいた。
遊びに来てくれたネコくんやコンとギンが構ってくれて暇はしなかったけど。
なんか……な。
「いいよ」
登校前。鞄を持ったままふと振り返り、レオに許しをもらった。
許し、って言うほど重いものではないけど。監禁されていたわけでもないし。
行ってきます、と言って家から出た。
タッ、タッ、タッ。
とこちらに向かってくるあれは天邪鬼。
道路脇を走りながら森の中を見ている。一体何をしているんだろう。
「天邪鬼。何してるの」
目の前まで来た所で声をかけると天邪鬼は止まる。そして私を見て恐い顔を一層恐くした。つまり、驚愕しているようだ。
「お、オマエ!」
見開かれた目。
少し、恐い。
「どうしてオマエが? あいつから逃げたのか? いつ?」
ああそっか。
天邪鬼でもこんな反応するんだ。
「助けてもらったんだ。一昨日、外出禁止されたから天邪鬼に言えなかったけど」
「ああ、あいつか……」
天邪鬼はホッとした様子。
「もしかして心配してくれた?」
「は、はああ? 誰が?」
誤魔化す必要ないのに。
「今何してたの? 走ってたみたいだけど」
「ら、ランニングだ」
「天邪鬼のは、ジョギングしているように見えるけどね」
歩幅が小さいから。
「どういう意味だ?」
理由を言ったら天邪鬼は絶対に怒るから、言わずにおいた。
「天邪鬼に話したいことがあるんだけど、歩きながらでいいかな?」
学校だからと鞄を少し持ち上げる。
すると天邪鬼は不思議そうな顔をしながらも了解してくれた。
「お、おう?」
***
「ーーというわけで、天邪鬼の知っている少年はあの男の子だったわけで……。
如月くんはもう」
「妖怪が嫌い、か」
全てを話した。私を襲ったあの狼は如月くんと面識があったこと。木の下で一度出くわした如月くんは天邪鬼ことを瞳に映さなかったけど、本当は妖怪が見えること。
そして、如月くんはもう天邪鬼がーー妖怪のことが嫌いなこと。
たぶん如月くんは妖怪の誰よりも、天邪鬼のことを憎んでいる。
なんとなく、目で分かったんだ。
自分を裏切った天邪鬼のことを、本当は恨んだりしたくないけど恨むしかほかなくて。
でも天邪鬼はそういうことをしようとしたわけじゃない。
ただ、如月くんのことを思って……。
違うのに。
「天邪鬼。気にしてる?」
「別に気にしてねえよ。オレがしたことが原因だし……。そもそも最初からあいつは」
そう言っているわりには寂しそうだよ、とは言わず静かに聞き流した。.
教室。如月くんの姿を見つけるや否や、彼の元へと向かう。
「如月くん」
席替えをして変わった席。列は変わらず、後ろから二番目の席で窓際ではなく通路側。その席に佇んでいる彼。
あんな事をしておいてどんな顔をするかと思いきや、私を見て数秒無表情だった顔をいきなりふっと緩ませた。
「どうしたの? 立花さん」
愛想笑い。悪魔でもあの時ことはなかったことにするつもりか。
まあ、私にはそんなことどうだっていい。
「放課後。会ってほしいヒトがいるんだけど。分かるよね」
あの日、天邪鬼と会うって約束したのにあの狼の事があって結局如月くんは天邪鬼と会うことはしなかった。
いや、最初から会うつもりなんてなかったんだ。口実に私をおびき寄せたにすぎない。
彼は分かっている。
私が如月くんに会わせたいヒトが誰か。
「悪いけど、今日から日直だからこの一週間は無理」
「……そっ、か」
それじゃあ仕方ない、のかな。
日直は一週間ごとに班が変わってやる仕事。他の生徒が全員帰るまで待って、教室の鍵を閉めるまでが班のメンバーの役目。
帰る時間が少し遅まるだけで、一緒に下校して天邪鬼に会わせる事は可能。だけど、短時間でいろいろ考えてそこは引いておいた。
自分の席について考える。席替えしたはずなのに私の席は変わらなかった。
天邪鬼と仲直りしてほしいと思っている。
けど、第三者の私が無理に仲直りさせるわけにもいかない。
ただ、仲裁の中に入るのはいい範囲だと思っている。
でもそれでは傍観者みたいで嫌だ。
天邪鬼はああ見えて傷ついているから。
分かりあってほしい。
天邪鬼は如月くんを嫌な目にあわせようとしてあんな事をしたわけじゃないと。
天邪鬼は名前の通り素直ではないから、このままじゃ……。
一生分かり合えないかもしれない。
二人がそれでいいならいいのかな。
そう、思ってきてしまう。
(あー、もう考えるのやめた)
机に伏せ、外界からシャットアウトした。
◆
机に伏せ、空を見上げる里桜。
それを真っ直ぐ見据える如月。
(仲裁にでも入るつもりか)
特にこれといった感情はない。
もやもやする何かがあるだけ。
***
お疲れ様でした、と先生の前に六人集まって解散の挨拶をする。
如月の面倒に思っていた日直は終わった。
後は帰るだけ。
班のメンバーと先生以外、誰もいない教室を見て思う。
里桜は意外にも呆気なく身を引いたと。
あんな必死になっていたのにもう興味が失せたか、と鞄を持って教室から出た。
(……最悪)
家に帰るためいつもの道を歩く如月の視線にあるもの。いるものは天邪鬼。
そのまま通り過ぎようとした時。
「どうしてリオに手を出した?」
(は?)
天邪鬼の言ってきたことが意味不明すぎて、如月は足を止める。
「オレを恨んでいるならオレに当たればいいだろ。なのに」
(なに、こいつ)
天邪鬼を一切見ず、静かに聞いている如月はイラつきを増す。
どうせ自分の事は大抵里桜が天邪鬼に話しただろうと予測はしていた。
けれど、第一声がこれなんて。
「勘違いしているみたいだけど、僕は彼女を狙ったんじゃなくて彼女の持っている氷力石を狙ったんだよ」
「氷力石? そんなのあいつが持ってるわけないだろ」
どうやら彼女は話していないみたいだ。自分の目にある氷力石のことを。
どうして話していないのか分からないが、それではどうやっても話が噛み合わない。
「君は、何も分かっていないね」
自嘲気味の笑みを浮かべると、如月は歩みを進めた。それはすぐに無表情になる。
本当に……何も分かっていない。
◇
「んー……」
ベッドに寄りかかりながら、さきほどから唸っている。
そんな私を気にかけてくれるレオ。
「どうしたの? さっきから。それと溜め息ばかりだけど」
癒しである白兎が、ベッドの上から覗く。
「何か、もうどうしようって」
曖昧なことを言いながら、上の空で天井角を見上げる。
「天邪鬼は妖怪だけど私の友達で。
でもその友達が仲のいい友達と喧嘩した場合すぐに仲直りさせようとするはずなのに、今回は違うなって」
私の友達である若葉と幼馴染の斗真。
前に喧嘩したことがあった。
喧嘩というほど大げさなものではないが、若葉が斗真のことを避けるという今までにないことが起こって。
理由を聞いてみたら斗真は分からないで、若葉は知らないわよで……。
とにかくいろいろ説得するよう話して、仲直り的なとこまで持っていった。
今でも避けていた理由は分からないけど。
「やっぱり妖怪と人間は違うのかな……」
人同士だと相手のことをよく分かっていなくても簡単に首を突っ込もうとする。だけどそこに妖怪が関わると、過去に何があったのか分からないから簡単に首を突っ込めない。
「話合えば、妖怪も人間も変わらないのかもしれないけどね」
レオの声は私の心に響かないうちに消えた。.
「行ってきまーす」
今日は何だかやる気十分。
家から出て学校へ向かった。
それからはちゃんと授業も受け、長い一日の学校は終わる。
いつものように家へ……。
「天邪鬼ーー」
帰らない。
◆
日直を終わらせて帰る如月。
今日も里桜は潔く帰った。
……と、思ったのに。
木の陰から出てきた。
それも天邪鬼と。
「如月くん、やっぱりちゃんと話し合ってほしいんだけど」
控えめに言ってくる里桜。その横ーー足元には、そっぽを向いている天邪鬼。
「僕には話すことなんて何もないけど」
でしゃばりかもしれないと思いながら言ってくるの、迷惑。
なんて思いながら軽くあしらう如月。
「天邪鬼にはあるんだよ。ね、天邪鬼」
里桜はそう言って足元にいる天邪鬼を見下ろす。だがーー。
「は? なんでオレが」
「だって私に話してくれたじゃん、あの時はわざとやったんじゃないって。それをそのまま話せば……」
素直ではない天邪鬼。
「無理に話し合わせようとさせようとしなくてもいいんじゃない? そいつ自身、僕と話す気ないみたいだし」
「でも……」
「鬱陶しいよ」
ひやっとくる一言を如月は言い放った。
それも無表情で。
いつも穏やかな表情をしているのに一瞬無表情を見せる時がある。
そういう時は空気が凍りつくほど怖い。
「もう僕に近づかないで。そこにいる彼女から聞いたでしょ、僕は妖怪が嫌いだって」
天邪鬼に浴びせられる言葉。
「君も、近づかないでくれるかな」
それは里桜にへと。
◇
如月くんは言いたいことだけを言って、じゃあと私たちを通り過ぎる。
なんか……なんか、虚しい。
***
天邪鬼はどうして話さないの?
妖怪に如月くんの存在を教えたのは如月くんのためであって、如月くんを傷つけようとしたわけじゃないと。
ただ、妖怪とも遊べたら一人じゃなくなるだろうとしたことだって。
全て話せば何かは必ず伝わるはずなのに。
「何でもないよ……」
ベッドの上から覗く白兎ーーレオの姿が微かに視界に入って、そう答えていた。
それから二日間は天邪鬼と話すこともせず、如月くんに声をかけることもしないでただただ学校に通って授業を受けていた。
◆
あの日から三日。
特に何事もなく過ごしている。
たまに里桜の後ろ姿を見たりしながら。
***
今日で日直も終わり。
後は帰るだけ。
鞄を手に取り、教室を出た。.
(……)
前と同じところで天邪鬼の姿を発見する如月。だが、何も言わず黙ったまま横を通り過ぎる。それは天邪鬼も一緒。
一度合った目。
ここに里桜がいれば、『どうして二人共話そうとしないの?』とか言うだろうなと思いながら如月は足を止めない。
そして五歩ほど進んだ時。
風が舞う。
(なっ……)
視界がぐらつく。バタッという音とともに背中や肘に痛みを感じた如月。
目の前には金色の瞳をした、人の姿に化けている妖狼ーーシキ。
全身真っ黒で、暗黒を漂わせるシキは真っ直ぐと如月の事を見下ろす。
その鋭く輝いた目で。
「……何しにきた」
意図の掴めない行動をとるシキを見上げる。いや、如月には何か心当たりがあった。
「お前の命を貰う約束だ」
その言葉に驚くことはせず。如月はあの日、約束した事を思い返す。
*
『氷力石を手に入れたら、この辺にいる妖怪共を消滅させろ』
『対価は?』
『僕の命だろうと魂だろうとくれてやる』
『もし、失敗したら?』
『失敗しても構わない。とにかく何でもいいから妖怪を消してくれ』
*
あの時はここに戻ってきたばかりで、気が立っていた。
だからあんな約束をしてしまった。
そんな言い訳は通用しないだろうと、如月はシキを見上げたまま押し黙る。
「……でも、お前は氷力石を手に入れていない。妖怪を消し去ろうとしたもことないんだろ? だったら失敗したことにはーー」
「そこまで聞いていない。俺はただ、どちらにしろ失敗してもお前は対価をくれるものだと思っていた。それは今でも変わらない」
右手にずっと持っていた剣を、シキはゆっくりと前に動かす。普通の剣より短いそれは、如月へと向けられ……ーーなかった。
「どうして庇う?」
シキの手が止まった原因。
それは天邪鬼。
小さな体で庇うように如月の前に立つ光景は、無意味すぎて笑えてしまうだろう。
でも、シキの手は止まった。
それは間違いない。
「こいつはオレの友達なんだ」
……一応、前まではな。
と付け足す天邪鬼は悪魔でも真剣。
「よく分からねえけど、絶対に傷つけさせねえ」
(赤鬼……)
ずっと素直になれなかった天邪鬼が、こんなにも自分の気持ちを正直に出している。
そんな天邪鬼の行動に心打たれた如月は、その赤くて小さな背を見ながら久しぶりに彼の名を心の中で呼んだ。
「お前が代わりに死のうと?」
天邪鬼へ向けられる刃。
「だめだ!」
庇うように天邪鬼を自分自身で覆う如月。
地に膝をつけながらも必死に天邪鬼を守ろうとしている姿。
自分のことより相手のことを考えて。
「こいつは僕の……」
そこまで言って留まる言葉。
その先に繋ぐ言葉は一体何か。
「ーーそうか。だったらこれ以上自分に嘘つくな」
剣をしまう音。
「え……」
思ってもみないことを言われ、如月は下げていた顔を上げるが。
シキは颯爽に森の中へ帰って行った。.
◇
そして土日を挟んでの学校。
里桜は下を向きながら登校していた。
最初に視界に入ったのは誰かの足。
そして天邪鬼。
「よっ」
片手を挙げて挨拶。
天邪鬼と一緒にいる人って……。
目線を高く持っていき、その人の顔を見たところで固まる。
「き、如月くん!?」
ありえもしない人物。
「え、な、なんで一緒に」
身長の高低差がありすぎな如月くんと、天邪鬼とを見比べる。
「一応、前までの友達だったから」
ーーそう微笑む如月くんが、少しだけ眩しかった。仲直りした理由は分からないけど、心がほんのりと暖かくなって。もう秋が終わってしまうなんて思えなかった。
◆
静かな森の中。
シキともう一人の人物がいた。
「芝居うったね」
その声は明るくて元気な男の声で。
「何であんなことすんの?」
シキにタメ口を聞くほど親しいーー。
「無視ですか」
関係でもなかった。
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