セレスの小話 その弐

──セレスはどうしたら良いのか迷っていた。



あぁ、困ったわ。

もうすぐクラスを決める試験が始まるのに、アリアはいまだに魔法を使えない。


アリアの試験日は5日後。

……間に合わなかったわ。


私の試験日は……アリアから2日遅れて7日後だったはず。

このままだと、確実にクラスが離れてしまう!


聞いた話によると、入学後は4クラスに分かれるみたいね。


Aクラスは、すでに魔法を使いこなしている人が入れるクラス。毎年、10人いるかいないかというくらい人数は少ない。

当日によっぽどの失敗をしない限り、私はこのクラスに入るでしょうね。

というか、アリアとカウイ以外はみんな、このクラスに違いないわ。


Bクラスは、魔法は使えるけれど、まだ使い始めたばかり、または使いこなせていないレベル。


Cクラスは、魔法は使えないけれど適性があり、1年以内には使えるようになるだろうと見込めるレベル。


Dクラスは、魔法が使えるか使えないかすら分からないレベル。


私から見るにアリアはDクラス。

あの子、この私が直々に教えたのにも関わらず、全く使えないのよねぇ。


なんとかして、クラスが一緒になる方法はないものかしら?

私が試験当日に休んだとしても……魔法が使える事は知られているから、最悪でもBクラス。

どちらにしても離れるわね。


はっ!!

アリアの試験を私が代わりに受ければいいんじゃないかしら?

アリアになりすまして受ければ……アリアはAクラス確実!

ふふふ、さすが私ね! 名案だわ!!

そうと決まれば、アリアに伝えに行くわよー!!



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名案だと思ったのに。


アリアったら「いや、普通に考えて無理でしょ。絶対にバレるよ。セレスどうしたの?」ですって。

あの子、私と同じクラスになりたくないのかしら!?

はっ! 婚約者が出来て、カウイ優先になったのかしら?


くっ、悔しいわ!

私はアリアの“大切な友人”で、アリア優先に考えてるのに……。


こうなったら、本当にカウイ優先になってしまったのか、再度確認しに行くわよー!!



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「カウイ優先? どうしてそういう考えになったの? セレス、なんかテンパってない? 冷静な判断が出来てないよ。仮にセレスが私の代わりに試験を受けたとしても、学校に通い始めたら、私が魔法を使えない事はそっこーバレるよ。私だけならまだしも、セレスが関わってる事もバレたら、セレスだって、ただじゃすまなくなっちゃうよ? 私それだけはイヤだよ」


私とした事が……こんな簡単な事にも気がつかないなんて。冷静さに欠けていたようね。

アリアは私の事を思って言ってくれてたのに。


「こんな私は親友失格よ。あやうく、アリアを犯罪者にしてしまうとこだったわ!」

「は、犯罪者!? セレスは極端だなぁ。私と同じクラスになりたくて言ってくれたんだよね? ありがとう。私はセレスのぶっ飛んでるところも面白くて好きだよ」


……“ぶっ飛んでる”はなぜ言われたのか分からないけど、相変わらず、私の事は好きみたいね。

良かったわ。

そういえば、アリアが面白い事を言ってたわね。


「なんで魔法のレベルでクラス分けするのかな? 普段の授業に差はないって聞いたよ。それなら魔法の授業の時だけ、魔法のレベルに分けて授業をすればいいと思わない? 偏りがあるクラスより、武術に長けてる人、剣術に長けてる人、勉強ができる人、魔法が使える人を平等に分けた方がみんなのレベルも上がっていくんじゃないかなぁ?」


なんでその方がレベルが上がるのかしら?

不思議に思って、アリアに理由を聞いてみたのよね。


「セレスが私に魔法の訓練をつけてくれたように得意な人が不得意な人に教えたら、不得意な人のレベルが上がると思うんだよね。得意な人も教える事によって理解を深められるし、お互いにいい刺激になって、成長していけると思うんだけどな」


魔法のレベルでクラスが決まるのが当たり前だと思っていたから、アリアの話は目からうろこだったわ。

アリアはこんな話もしていたわね。


「いつだったかなぁ? 前にその話をお父様にしたんだ。そしたら『アリアの考えは面白いね。今の話を提案してみてもいいかな?』って言ってた。提案ってどこに? って思ってたんだけど、私のお父様やセレスのお父様たちって、まつりごとにも関わってるんだね」


提案……?

確かにお父様はまつりごとに関わっている──


……はっ!!

そうよ! 私のお父様は学校の運営にも関わっていたわー!!

最初からお父様に頼んでアリアと同じクラスにしてもらえば良かったんだわー!!



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あぁ、怖かったわ。ふ、普段怒らないお父様にめちゃくちゃ怒られたわ。

お父様も怒ったりするのね。「それは公私混同だ!」なんて、反論のしようもなかったわ。

……ただ、お父様が意味深な事を言っていたわね。


「私はクラス決めには関わらないけど、アリアとクラスが離れるかどうかはまだ分からないと思うよ」


どうしてかしら?

どう考えても完璧に魔法を使いこなせる私と全く魔法を使えないアリア。

クラスが離れるのは決まっているのに。


とにかく、もうここまでね。私がやれるべき事は全てやったわ。

5日後の試験で奇跡が起きて、突如アリアが魔法を使いこなせるようになっている事を期待するしかないわね。



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な、な、なんでこんな事が起きたのかしらー!??


運命の日。

入学の喜びよりも、クラス決めへの不安を抱えたまま学校へ行ってみると、驚くべき事が起こっていたわ。

予想通り、私はAクラス。そして、アリアとカウイも同じAクラスに!?

しかも、それだけじゃないわ! 一緒のクラスだと思っていた子達が、なんと別のクラスに!!


Bクラスには、ミネルが。

Cクラスには、オーンとマイヤが。

Dクラスには、エウロとルナが。


な、何が起きてるの!?

周りの子達もみんな驚いているわ。


「皆さん、大変驚かれた事でしょう。実は今年から、クラス分けのルールを変更しました。魔法のレベルに関係なく、皆さんが伸び伸びと学べる場を作る為です」


異例のクラス分けにざわつく生徒を落ち着かせる為、校長先生が理由を丁寧に説明している。

なぜ急にこんな事が起きたのかは分からないけど、き、奇跡だわ! 奇跡が起きたんだわー!!


「アリアー! 一緒のクラスよ!!」

「うん、やったね! セレス! これから1年間よろしくね!」

「しょ、しょうがないわね。私が色々と面倒みてあげるわ!!」


もしかして、お父様が言っていたのはこの事だったのかしら?

今は確かめようもないけれど、まずはこの奇跡を喜ばなくては! まさか、アリアと同じクラスになれるなんて!!

これで学校生活も楽しく……あら? ちょっと待って。何か重大な事を忘れているような……?

いえ、きっと大した事ではないわね。気の所為に違いないわ。

私が一人、満足げにうなずいていると、アリアが少しだけ複雑そうに話し掛けてきたの。


「私はセレスと同じクラスになれて嬉しいけど、セレスはオーンとクラスが離れて残念だったね」



……はっ!!!

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