中等部 編

10歳、学校生活スタート!

いよいよ学校生活がスタートした。


私が入学したのは“エンタ・ヴェリーノ”という学校で、これから卒業までの9年間通う事になる。

10歳から15歳までの5年間は自宅から通学する。

この期間は、主に魔法の実技や座学、剣術、武術、経営などの基礎を中心に学んでいく。


基礎を終えると、16歳から19歳までの4年間は学んだ事の応用や、将来に向けて自分たちのやりたい事、得意な事を中心とした授業になる。

さらには、学校の場所まで変わるらしい。

ここからはかなり離れた場所になるようで、大体の生徒は寮に入るみたい。


入学から早1週間。当然ながら私は自宅から学校に通っている。

この1週間は、授業の説明や学校に馴染むまでの期間として午前中までしか授業がなかった。


けれども、今日からは本格的に授業開始!!


魔法はもちろん、色々な事を学べるようになるのは本当に楽しみなんだけど、1つ問題が……。

学校へ行く私を、毎朝寂しげに見送るエレの姿を見るのがつらい……。

ただ、こればかりはどうしようもないんだよなぁ。学校にエレを連れては行けないし。


そういえば、エレに婚約者が決まった事を伝えた時も大変だった。


ふてくされるエレに「(私だけは)本当に結婚はしないし、エレとは変わらず遊べるから~」と、何度も何度も繰り返し説明した。

お父様とお母様の手も借り、最終的にはしぶしぶ納得してもらった……と思う。

ただ、気になる事は言ってたけど……。


「カウイさんには僕からも勘違いしないように伝えておくね」


勘違い? 何を? とは思ったけど、 カウイの事だから婚約を重く受け止めてる可能性はある。

きっとエレはその事を言ってたんだろう。

それにしても、エレの寂しがり屋で甘えっ子なところは全然変わらないなぁ。


来年にはなるけど、エレも学校に通い始めたら友達もできるだろうし、少しは変わるかな?


そんなやり取りを思い返していると、突然、セレスの声が教室中に響き渡った。


「アリアー、お昼食べに行くわよー」

「うん、今行くー。カウイも一緒に行こう」

「う、うん」


この世界に給食という制度はないらしく、生徒は自分たちでお昼を用意する必要がある。

食べる場所は校内であればどこでもいいそうで、学食やカフェテリア、そしてなぜか、カジュアルフレンチ的なレストランまである。

今日は初めてのお昼という事もあり、セレスとカウイと3人でカフェテリアに行ってみようという話になった。


それにしても、初日は「久しぶりの学校だぁー!」なんて浮かれていたけど、あまりにも世界観が違いすぎて、懐かしいーって少しも思えなかったな。

小学校にカフェテリアなんてなかったし、魔法や武術だって習わなかったしね。


今日の授業の事などを話しながらカフェテリアに向かっていると、途中で見知った顔が目に入った。

──ルナだ。


「ルーナー!!」


私が手を振ると、無表情のまま答えが返ってくる。


「聞こえてるよ」


……相変わらず素っ気ないなぁ。

塩対応に苦笑いしつつ、折角だからとルナもお昼に誘う。


「これからカフェテリアに行くんだけど、ルナも一緒に行かない?」

「いいけど」


やったぁ! と喜んだのもつかの間、ふと周りを見れば、他の生徒達の視線がセレスとルナに集まっている。


目立つ2人は完全に注目の的だ。

色んな人からチラチラ見られてるし、セレスとルナが席に座ると、近くの席も一気にうまった。


す、すごい! ヒロインパワー!!

ただ私としては、こんなにも多くの人に見られながら食べるお昼は……はっきり言って落ち着かない!!

そんな私の気持ちをよそに、セレスはずっと話し続けている。


「アリアの髪伸びたわね。ルナと同じく、腰くらいまであるんじゃない? ちゃんとお手入れはしている?」

「う、うん。(メイドの)サラが毎朝セットしてくれてる」


セレスは見られ慣れているのか、全然気にしていない様子。

一般人の私としては、何とか平穏にお昼を過ごしたいんだけど……。



……そうだ!


「明日からはお弁当を持ってきて、外で食べようと思うんだけど、よかったらみんなも一緒にどう?」

「外で食べる? ……あら、楽しそうじゃない。いいわよ! シェフに立派なお弁当を作ってもらうわ!!」

「ぼ、僕もそうする」


ルナはどうかな? と思っていたら、意外にも私の提案に賛成してくれた。


「外なら人も少なそうだし、私もそうする」


良かった。セレスは置いといて、ルナも人に注目されながら食べる事に抵抗があったみたい。

これで明日からは落ち着いて食べる事ができそうだ。


お昼時間も終わりに近づき、クラスへ戻ろうと4人で歩いていると、誰かがこちらに向かって手を振っている。


あっ、エウロだ!

オーンとミネル、マイヤも一緒だ。


「あれ? アリア達も4人で一緒にお昼を食べてたの?」

「うん。エウロは?」

「俺たちも4人で食べてきたんだ。レストランに行ってみたけど、美味しかったよ」


この4人で昼食かぁ。多分だけど、相当目立ってただろうな。


「な、なんですって!? オーンとマイヤが一緒にお昼を?」

「ああ。エウロとお昼を食べに行こうとしたら、偶然マイヤと会ってね。1人だったから声を掛けたんだ」

「で、レストランでミネルと会ったんだよな!」


オーンとマイヤが一緒にお昼を食べたと聞いて、セレスの顔が明らかに引きつってる。


「失礼ですが、オーンは私の婚約者です。2人きりではなかったにせよ、他の女性と一緒にお昼を食べるだなんて、状況次第では評判をおとしかねませんわ」


素直に「一緒に食べたい」って言えばいいのに……。

セレスはこういうところが不器用なんだよなぁ。


「ご、ごめんね。セレスちゃん」

「ごめんね、セレス。僕が誘ったんだ。よかったら、明日からセレスも一緒に食べよう」


マイヤをフォローしつつ、ちゃんとセレスをお昼に誘うオーンはさすがだね!

私たち(カウイとルナ)の事は気にせず、明日からオーンとお昼を食べていいからね! という眼差しでセレスを見つめる。


気づいたセレスがこくりとうなずいたので、私もうなずき返した。


「私たちは明日からお弁当を持ってきて、外で食べようと思ってます。それでもよろしいかしら?」

「へぇ、気分転換にもなっていいね。そうしようかな」


……セレスに全く伝わってなかった。

セレスはオーンと2人でお昼を食べたいんじゃないのかい!

しかも、オーンまで乗り気だし。オーンが一緒なら、外で食べても注目の的になるじゃないかー!!


「俺もそうしよう。ミネルもそうしないか?」

「そうだね。そうするよ」


エウロとミネルもセレスの提案に賛成のようだ。

2人も一緒なら、さらに目立つじゃないかー!!


「私も一緒していいのかな?」

「かまいませんよ」


マイヤが申し訳なさそうに聞いたにも関わらず、セレスは随分と偉そうだなぁ……。


セレスのバカぁ。

自分たちが目立つ存在だって事をもっと自覚してよー!


結局、明日からはみんなでお昼を食べる事になった。

……はぁっ、平穏なお昼を過ごすのは諦めた方がよさそうだ。


改めてクラスに戻るべくみんなで歩いていると、オーンがそっと私の隣に並ぶ。

何か用事でもあるのかと顔を合わせれば、私の様子を窺うように軽く首をかしげてきた。


「アリアは僕と一緒だとイヤ?」

「えっ! なんで?」

「僕が『そうしようかな』って言った時、分かりやすいくらい微妙な顔をしてたから(笑)」


ば、ばれてた!?

……そうだった。私は顔に出てしまうタイプの人間だった。


「ごめん。決してオーンが嫌なわけではなく、平穏なお昼を守りたい私の勝手な都合というか……なんというか……」


しどろもどろになりながらも謝罪の気持ちを伝えると、いきなりオーンが笑い出した。


「あはは。 微妙な顔をした事は認めるんだね。ごめん、ごめん。僕にそんな顔する人を見た事がなかったから、面白くて。謝らなくていいよ」

「いやぁ、感じ悪かったよね。ごめんね」

「……アリアは本当に面白いね。今年の異例とも言えるクラス決めも、アリアの提案だって聞いたけど?」


えっ!? 何の事?


「へっ? そうなの?」

「えっ! 知らなかったの?」


知らない、と言った私に、今度はオーンが驚いてる。

提案? 提案なんてしたっけ? いつだ!?

うーん、思い出せない……。


「そんなに考え込まなくても……。結構すごい事をしたと思うけど、アリアにとっては些細な事だったのかな?」


オーンがまた楽しげに笑い出す。


「思い出せないならいいよ。あっ、それじゃあ、僕とマイヤは次の授業こっちだから行くね」


口元に笑みを残したまま、オーンがみんなに軽く手を振る。

何が面白かったのかは分からないけど、人に注目されながらお昼を食べる事だけは決定したようだ。

はぁ、見られながら食べるのもいずれは慣れるのかな~。


エウロとマイヤ、ミネルとも別れ、同じクラスであるセレスとカウイの3人でクラスへと戻る。

すると、その途中で何かを思い出したのか、カウイが「あっ」と声を上げた。


「ご、ごめん。僕さっきのカフェテリアに忘れ物しちゃったみたい。取りに戻るね」

「うん、分かった。先に戻ってるね」


足早に向かうカウイを見送り、いざ教室に入ろうとした瞬間、同じクラスの男の子がセレスに話し掛けてきた。


「セレスさん。次の授業は外に変更になったそうです。先生が言ってましたよ」

「あら、そうなの? ありがとう。ええと……」

「マ、マルスと申します」

「ありがとう、マルスさん」


マルスと名乗った男の子は、セレスに名前を呼ばれて照れているようだ。

そして、マルスの視界に私は微塵も入っていない!!


幼なじみがみんな優しくてすっかり忘れていたけど、本来の私の扱いってこんな感じなんだな。

他の人たちの視界に私は入っていないと思えば、ある意味、気は楽かも……って、みんな移動し始めてる!


私たちも急がなきゃ! って……場所が変更になったのをカウイは知らないんだった!


「セレス、先に移動してて。私カウイに伝えてくる!」

「わかったわ。カウイとアリアの荷物は私が持って行くわね」

「あぁー、ありがとう。セレス、気が利くね!」


得意げな顔をしたセレスに手を振り、私はカウイのいるカフェテリアへと向かった。

入学早々、波乱の幕開けになるとも知らずに……。

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