10歳、婚約者が決まっちゃいました!?
カウロさんの言葉で、必然的にみんなの視線がエウロへと集まった。
「こ、この中から婚約者!? 俺にはまだ早いよ!」
いきなり話題を振られたエウロは、困ったように声を上擦らせている。
「あら? 私の娘じゃ不服?」
マイヤのお母さんであるケイアさんが冗談まじりにエウロをからかう。
「お母様! エウロくんが困ってるじゃない。エウロくんなら学校で、私よりもっと素敵な女の子に出会えるから……」
珍しい。いつもおっとりしているマイヤが随分と慌てている。
「い、いや。マイヤが嫌とかじゃなくて……」
ケイアさんとマイヤのやり取りにエウロがますます焦っている。
「婚約者がいればサウロみたいな学校生活を送らなくていいかもよー?」
追い打ちをかけるように、アネモイさんがニヤニヤしながらエウロに告げる。
完全に遊ばれている状況に少しだけ同情していると、突如、エウロとオーン、ミネルの動きが止まった。
急にどうしたんだろう?
オーンの横にいるカウイだけは、あたふたしながらも変わらずにみんなの様子を見つめている。
「アネモイさんの話は一理ある。仮にでも婚約者がいれば学業に集中できる」
「俺も思った。サウロ兄様の話を聞いてたから……。兄様のように毎日女の子が揉める学校生活なんてイヤだ!」
えっ? まさかのミネルが乗り気? さらにはエウロも??
……まぁ、分からなくもない。
以前ミネルの手紙に『お父様の知り合いの娘がずっと僕に付きまとってきて大変だった。女はうんざりだ』って書かれていた事があった。
ミネルも黙っていればモテる顔してるし、エウロだって話しやすい上に顔もイケメンだ。
しかも、2人揃って身分の高いお家柄ときたら……そりゃ、女の子も放っておかないか。
……そう考えると、女の子除けとして肩書だけでもいいから婚約者が欲しい、と思うのは仕方ないのかも。
そういえば、手紙で思い出したけど『お前は女じゃないから安心しろ』とも書いてあったな。本当に一言多いんだよな、ミネルは。
アネモイさんの話を聞いて、ミネルとエウロはすっかり乗り気になってきたらしい。
もしや、このまま話が進むのでは……? とドキドキしていると、その流れを打ち消すようにオーンが口を開いた。
「そうだね。ただ、その為に婚約者を頼むのは失礼だから……現実的な話ではないかな?」
そうそう。さすがです、オーン。
極めて常識的な発言に、さすがに婚約話はなくなるだろうと思っていたら、今度は別なところから声が上がる。
「婚約者のお話、いいじゃありませんか。私は賛成ですわ! ルナだって、マイヤだって、男性に言い寄られて、毎回断るのは大変でしょう?」
「……確かに」
「セレスちゃん、私なんて言い寄られないよ」
セ、セレス!? いきなり何言ってるの!?
セレスの一言で、またしても“婚約者を作った方がいいかも”という流れになってきている……!
あんたが婚約者を作るきっかけだったのかい!!
それにさらっと私の名前を入れないところがセレスらしいよ。
確かに私なら男の人に言い寄られる心配はないだろうな。
場の雰囲気が明らかに婚約者を作る事に対して肯定的になってきたタイミングで、アネモイさんが一つ、提案を持ち掛けてきた。
「みんな乗り気なら婚約すれば? 私は大賛成よ! もし大きくなった時、別に好きな人が出来たなら“婚約解消”すればいいだけよー」
「そうだな。婚約したからといって絶対に結婚するのではなく、自分たちの気持ちを優先させるならいいんじゃないか?」
カウロさんもアネモイさんに同意を示す。
気軽な婚約を提案するとは………この夫婦は楽観的な性格みたい。
「ふふ、そこから意識して恋愛に発展するかもしれないしね」
ホーラさんは恋愛の話が好きなのかな? 心底楽しそうだ。
「そういう条件なら、今後の事を考えると婚約者がいた方が助かるな。でも、どうやって婚約者を決める?」
「そうだね」
親たちの話に納得したのか、ミネルとエウロの中ではもう婚約者を作る事で決まったようだ。
「うーん……」
オーンはまだ悩んでいるみたい。
この国の第一王子ともなれば、ミネルとエウロ以上に女の子からのアプローチがあるはず……。
顔よし、性格よし、何をしても完璧な王子なら、女の子達が群がってくるのは間違いないだろう。
オーンとしては、仮という形でもいいから婚約者を作りたいという気持ちはあるんだろうけど、自分の立場を考えると難しいのかも。
婚約者を作るという事は“王妃”になるかもしれない人を作るって事だもんね。ミネル、エウロと違って、責任重大だよね。
悩んでいるオーンにお父さんであるサールさんが声を掛ける。
「オーン。お前のことだから、立場上、気軽に婚約者を決められないと思っているんだろう。私としては、お嬢さん方も納得しているようなら、立場を気にせず、婚約者を作っても構わないと思っているぞ。お前には楽しい学校生活を過ごしてほしい。私自身、学校生活での9年間は何ものにも代えがたい大切な思い出だからな。卒業すれば、きっと忙しい日々がやってくる。だからこそ、学校にいる間だけは自分らしく、自由に過ごしてほしいと思っているんだ」
「お父様……ありがとうございます。そういう事なら、僕からもお願いしたいです」
サールさんの一言で、オーンも婚約者を作る気になったみたい。
ただ、気になる事でもあるのか、困ったように眉じりを下げている。
「でも、僕たちが選ぶのは失礼だと思うし……。女性陣で決めてもらうというのも、きっと難しいお願いだよね 」
「大丈夫ですわ! 今から女の子同士で平等に話し合って決めますわ!!」
セ、セレス……。
私には分かるよ。オーンと婚約したいんだね。必死な気持ちが伝わってくるよ。
「俺は決めてもらって構わないよ」
「僕も構わないよ」
エウロとミネルはセレスに任せる事にしたらしい。
「カウイはどうしたい?」
今まで意見を言っていなかったカウイに、オーンが話を振る。
「ぼ、僕はみんなにまかせるよ」
「では、お願いしようか」
オーンからの“お願い”に、セレスが胸を張って答える。
「はい! 分かりましたわ。メーテさん、別な部屋を貸してくださいますか?」
「え、えぇ。よければ、隣の部屋を使って」
「ありがとうございます。アリア! マイヤ! ルナ! 行くわよ!!」
大人たちはずっと盛り上がっているし、セレスはセレスで気合入りまくってるなぁ。
もはや他人事のように眺めていると、隣の部屋に向かってセレスがそそくさと移動し始める。
私たちもセレスの後へ続くようにして広間を出た。
隣の部屋へと場所を移した瞬間、すぐさまセレスが仕切り始める。
「ここは平等に、どなたの婚約者になりたいか言っていきましょう。同じ方を選んだ場合は話し合いで決める。他に名前が挙がらなければ、その場で決定よ」
「私は誰でもいいわ」
返答が早い! どうやらルナは本当に誰でもいいらしい。
4人の中で好きな人はいないって事かな?
「みんな素敵な人たちだから、私が選ぶなんて……できないよ」
マイヤは謙虚だなぁ。本来、そのセリフは私が言うべきセリフなのに。
まだ何も言っていない私にも、セレスはきちんと確認を取ってくれる。
「アリアは?」
「私は(脇役なので)誰でもいいよ」
「そう、では私から発表します!」
オーンを選ぶだろうな。
「オーンよ」
やはり!期待を裏切らない!!
「みなさん、誰でもいいなら決定でいいかしら?」
「いいよー」
「アリア! もっときちんと返事をしなさい」
セレス、そのセリフは“おかん”のようだよ……。
だって、あまりにも予想通りの名前だったからさ。そりゃ、気軽な返事にもなるよ。
「オーンくんなんだね。うん、わかったよ」
マイヤも問題ないみたいだし、ルナもうなずいているから、オーンとセレスの婚約はこれで決定!?
セレスは満足そうだ。良かったね、セレス。
これでオーンがセレスを意識してくれると嬉しいな。
「さて、次よ! 本当に誰でもいいなら勝手に私が指名するけど……」
余韻に浸る間もなく、セレスが再び仕切り始めた。
人の婚約者を勝手に指名するって、さすがセレスだな。
すると、つい先ほどまで関心を示していなかったルナがそっと手を挙げた。
みんなの視線も自然とルナの方へ集まる。
「私はお母さまと兄さまが《知恵の魔法》を使うからミネルにする」
ルナってお兄さんがいたんだ!
自己紹介の時に何も言ってなかったから知らなかった。
さらにルナのお母さんであるリュアさんは《知恵の魔法》を使うんだ!
ルナは《緑の魔法》を使うって前にセレスから聞いた事がある。
ルナのお父さんであるアルセイさんも《緑の魔法》。
兄妹で使う魔法が違うのかぁ。
自分の家族と同じ魔法を使えるミネルを選ぶなんて、家族が大切なんだなぁ。
その理由だけで、ルナを好きになったかも。
ん? ……という事は、ミネルとルナの婚約も決定したのかな!?
「マイヤとアリアはどうするの?」
セレスが私とマイヤに聞いてはくれたけど、困ったな。
私の事はお気になさらず~とも言いづらいしな。
「アリアちゃんはカウイくんと仲がいいって聞いたよ? 仲のいいカウイくんは?」
マイヤは私とカウイが仲良くなったのを知っているんだ。
誰かから聞いたのかな?
仲のいいカウイを薦めてくれるなんて……すばらしい気遣い!
「そうだね。そうしようかな」
私の「そうしようかな」の一言でカウイと私、エウロとマイヤの婚約が決まった! ……のかな?
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