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気が付くと王を選定する
いつの間にか、無くなっており、他国に持ち出されていたのです。
その国の人達は、王を選定する剣に、もはや興味が無かったので誰も気にしなかったのも悪かったのでしょう。
いや、『誰も抜けない』と思い込み、そこにあり続けると思い込んでいた……。
魔道具技師のみが、行方を捜していました。その危険性を知っていたからです。
国中を探し回りました。ですが、見つからずにいます。
店主が、静かに答えます。
「王を選定する剣を持ち出したのは、冒険者ですね。転生者でもあります。岩をハンマーで細かく割り、剣の周りの岩を風化させて、岩を取り除く方法を取りました。彼らの前世の知識なのかな? かなり邪道な方法ですよね」
──ダン
老年の魔道具技師が、机を叩きました。
「そんな方法で、あの剣を……。あれは、儂等が命をかけて作った物だと言うのに!」
老年の魔道具技師は、ワナワナと震えています。
「取り返しに行くのですか?」
「……あの剣に『恩恵』を与えてしまった。一国の軍隊を以てしても、冒険者から取り返すのは難しいだろう。
それと、あの剣にはもはや何の意味もない。
儂等は、どうすれば先王の意思を継げるかを考えねばならん。
いや、内乱を納められる人なり方法を見つけるのが先か……」
店主が何かをテーブルに置きました。
「この紙は何だ?」
「この時間に、この場所に来る人を味方に付けてください。そうすれば、内乱は終わって新しい国王が定まるでしょう」
老年の魔道具技師が、紙を開きます。紙と店主を交互に見出しました。
「どんな人物なのだ? いや、この者が新国王になるのか?」
「聞かない方が良いでしょう。それと王を選定する剣は、あなたの元に帰って来ますよ。ですが、新国王に譲ろうとは考えないでください。鞘を作り封印が良いかな? もしくは、国難に会った時に国王様に渡すのが良いでしょうね」
老年の魔道具技師が、ため息を付きます。
「そなたは、誰が新国王になるのか知っているのか?」
「ええ、知ってはいます。そして、それを捻じ曲げる方法もあります。ですが、今回は、早めに内戦が終わる方法を提示したいと思いました」
「……そうか。これが儂に必要な事だと言うのだな。いや、儂に残された最後の仕事になるのか」
「『最後の仕事』を決めるのは、早計ですね。死ぬ寸前まで、仕事があるから生きるという考え方もあります。そして、仕事がなくなったので、命数が尽きたという考えも……」
「そうか、この歳になっても、まだ役割があると言うのだな。……嬉しい限りだ」
店主は、笑顔を崩しません。そして、答えませんでした。
老年の魔道具技師は、中身の詰まった袋をテーブルに起きました。
そして、立ち上がり、店を出ようとしました。
「世話になった。いや、愚痴を聞いて貰えただけでも気が楽になったよ……」
「諦めないでくださいね。あなたの作った『恩恵』は確かに国を豊かにする物です。でも、扱い方を間違ったので内戦が起きてしまいました。正しい物を正しい位置に戻してください」
「儂は、正しくない物を作り上げたのではないのか? だから、今の状況があると思うのだが……」
店の店主は、首を左右に振りました。
「正邪の判断は、人それぞれです。結果論でしか話は出来ません。
今は、『邪』と思われるかもしれませんが、後の世の人達が『正』と捕らえられるように行動を起こすのも、作り上げた人の役目だと、僕は思います。
いえ、言いすぎですね。物に正邪などありません。道具は使う人次第です。魔道具技師ならば、その事をご存じのはずです」
老年の魔道具技師は、一瞬動揺を見せましたが、帽子を深く被り一礼して店を出ました。
その顔には、一筋の涙が流れていました。
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