王を選定する剣と占い屋

信仙夜祭

1

 そのお店の場所は、誰にも知られていませんでした。

 でも、確かに存在します。

 本当に必要となった人の前にだけ現れる、不思議なお店……。



 ──コンコン


「開いていますよ。ようこそいらっしゃいました」


 一人の老年の男性が、ドアを開けて店に入って来ました。杖をついています。


「ここは、占い屋で合っているのか? 遠い異国より来たものでな……。全ての店が見慣れなく、分からないのだ」


「はい! 占い屋カンロにようこそおいでくださいました」


 店の主人は、頭を下げて一礼した。


「そうか、本当にあったとはな……。相談があって来た。まあ、占い屋に来る理由など、相談しかないが」


「……王を選定するつるぎの件ですね?」


 笑顔の主人と、驚く依頼主。


「立ち話も何なので、お座りください。お茶をお入れしますね」





 その国の国王様は、年老いて次の国王を決めなければなりませんでした。しかし、実子がいません。

 悩んだ挙句、国王様は、国の魔道具技師達に依頼を出しました。


『この国を最も栄えさせる者』を探し出す魔道具の作成です。

 魔道具技師達は、数年を要し一本の剣を作り出しました。目の前の依頼主は、その魔道具技師の一人です。


「この剣を岩に刺してください。そして、引き抜けた者が次期国王に最も相応しい者になります」


 それが、集められた魔道具技師達の答えでした。

 その場にいた、王族貴族は、とても嫌な目で魔道具技師達を見ています。


 国王様は、魔法に精通していました。運命操作魔法、選定時の極大のデバフ効果による膂力の無効化、何より剣の所持者に『恩恵』を与える絶大なバフ効果。その国の魔法技術が全てが詰まったと言っても良いほどの魔道具を見て、国王様は頷きました。

 異国より伝わる伝説を、魔道具にて再現した物ですが、魔道具技師達も自慢の一品に自信を持っています。


 王城の門近くに、大きな岩が運ばれて、国王様自らが、剣を岩に突き刺しました。

 そして、その国に布告が行われました。


『この剣を抜いた者に次期国王の座を与える』っと。


 国民は列を作って挑んで行きました。

 まずは、王族貴族、そして、富豪といった権力者からです。

 でも、剣はビクともしませんでした。


 時間はかかりましたが、平民が挑戦する番が回って来ました。皆、自分こそがと息巻いています。

 しかし、誰も剣を抜けませんでした。

 国王様と魔道具技師達は焦り始めます。残っているのは、農奴か盗賊等の罪人のみです。


 国王様が、魔道具技師達を密かに集めて、密談を始めました。


「条件が厳しすぎたのではないのか?」


「いえ……。運命操作魔法ですので、条件の緩和など出来ません。ですが、必ず剣を抜ける者は、何処かにおります」


「仮にの話になるが、盗賊が剣を抜いたら、盗賊に国を渡せと言うのか?」


「……あの剣が選んだのであれば、やむなしかと。誰が選ばれても就任当初は混乱が起きることは、予想されておりました。それでも、実行に踏み切ったのは、国王様です」


「……そうであったな。議論し尽くした内容であった」


 国王様は、大きく肩を落としました。

 国を託せる人材が、もしかしたら農奴か罪人になるかもしれない。

 こんなことなら、家臣の中から選ぶべきであったのではないか……と。


 ですが、一度布告をしてしまった以上、取り下げることも出来ませんでした。

 そして、農奴と盗賊が挑戦しましたが、やはり剣は抜けませんでした。

 国民全員が抜けなかったのです。


 国王様は、ホッと胸を撫で下ろしました。

 そして、諦めたむねの布告を出しました。


 次の年に国王様が亡くなりました。

 王族貴族は、次期国王の座を狙って戦争を始めました。地方領主は、独立を宣言して独立自治を始めました。

 国は荒れに荒れて、大勢の死者が出てしまっています。


 魔道具技師達は、その国から逃げました。

 これも話し合っていた、最悪の結末の一つであったので、全員が無事に他国に逃れています。


『我々の仕事は、まだ終わっていない。必ずや剣を抜ける者を見つけよう』


 そう誓い合って別れました。



「その話は、聞いたことがあります。隣国ではないですね。随分と遠くからおこしになられたのですね」


「……うむ。儂は魔道具技師の一人だ。先王の意思を継ぎたいと思っているのだが、何が悪かったのかが分からなく、そなたに助言を求めに来た」


 店主の笑顔は、崩れません。


「まず、『運命操作魔法』の条件ですね。『この国を最も栄えさせる者』が国王の座に相応しいとは、私は思いません」


「始めから、間違っていたのか……」


「国王の座、……いえ、家を継ぐ者というのは、必ずしも優れている必要はないのですよ。家長を支える人が多い人ほど、家を繁栄させてくれます。一番重要なのは、人としての魅力、もしくは、器の大きさでしょうか?」


「……分かり切っていることを、改めて言われると辛いものがあるな。やはり、魔道具による人選など意味はなかったのだ。我々は、何と無駄な時間を費やしたことか……」


 依頼主は、両手で顔を覆いました。泣き出しそうです。

 人生をかけて取り組んだ魔道具を、自ら否定したのですから。


「一応聞きますが、王を選定する剣は今どうなっていますか?」


「……異国の旅人に盗まれたそうだ」

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