第118話 栄光の決勝戦(前編)
翌日。ついにやってきた、大会15日目。全国高等学校野球選手権大会、女子の部。決勝戦は、8月31日という、まさに夏休みの最後の1日に行われることになった。
「甲子園が終われば夏が終わる」というイメージを抱く人も多い。
その「夏の最後」の決勝戦が、まさにこの試合になった。
先攻は、大阪府代表、大阪応印高校で三塁側。後攻は武州中川高校で一塁側。
そのどちらのスタンドも超満員だった。
見ると、我が校側には、校長、渡辺先生はもちろん、男子硬式野球部の連中や、OBの羽生田、辻の姿もあった。
多くの応援、そして多数のマスコミ注目のこの試合。
スタメンにもう迷いはなかった。
1番(一) 吉竹
2番(二) 田辺
3番(中) 笘篠
4番(三) 清原
5番(遊) 石毛
6番(捕) 伊東
7番(左) 平野
8番(右) 佐々木
9番(投) 潮崎
勝っても負けても、泣いても笑っても、これが「彼女たち」にとって「最後の夏」の戦いになる。
俺としても悔いは残したくない。
万全の体勢で、潮崎をマウンドに送り込む。
そのエース、潮崎。
昨夜のことは、俺と彼女以外は、誰も知らない。
あの「約束」は果たして、彼女に「効いた」のか。
表情だけは、清々しいくらいに晴れやかに見えた。
吉竹が、いつものように円陣を組むが、さすがに決勝戦となると、気迫が違った。
「いいですか、みなさん。この決勝戦は何としても勝ちますよ。私たちの全力を見せましょう!」
その気合いの入った声に、皆が一様に気合いの籠った声で応えていた。
潮崎は、円陣を組んだ後、俺の方を見て、軽くウィンクまでしてきたから、少しだけドキっとしていたが、俺はあえて気づかないフリをしていた。
一女子高生に構っている場合ではなかった。
「プレイボール!」
長きに渡る甲子園への道、最終章の幕開けだ。
しかも、潮崎はいつも以上に「球が走って」いた。
いきなり1番、2番、3番の新井を全て「打たせて取る」ピッチングで、いずれもショートゴロ、セカンドゴロ、ファーストゴロに抑えて帰ってきた。
いい時の潮崎のピッチングは、「三振」より「打たせて取る」ことの方が多いし、元々彼女は軟投派だから、その方が合っている。
対して、1回裏。
マウンドに上がったのが、あの村田琴乃という選手だ。
かつて、プリンセストーナメントで、1年生ながら最後まで投げ切った、無尽蔵のスタミナと、1年生離れした、度胸の持ち主で、最速125キロのストレートと鋭く変化するフォークボールが武器だ。
そして、いきなり歓声が轟いていた。
「ストライーク! バッターアウト!」
「おおっ!」
1番、吉竹に投げた最速125キロのストレート。最後には追い込んでから、急激に変化するフォークボールを披露し、三球三振。
2年生になって、さらに磨きがかかっていた。恐るべき相手だった。
続く2番、田辺はセカンドゴロ。3番の笘篠もショートゴロ。同じくこちらも三者凡退。
ところが、2回表。
潮崎にとって「誤算」が生まれてしまう。
4番の門田真綾が打席に立つ。大柄な体格で、身長が172センチもあり、鋭い眼光を放っていたが、特徴的なのが、その打ち方だった。
一本足打法だった。
ただでさえ難しい一本足打法。体のバランスが良くないと打てない。
だが、右投右打のこの3年生の4番は、抜群の野球センスと、天才的な「内角打ち」の技術をすでに持っており、プロのスカウト上位に入っていた。
早い話、「格が違う」レベルだった。
確かに潮崎の制球技術は素晴らしいし、あの低速や高速のシンカー、緩急をつけたピッチングには、一目を置かれていた。
だが。
初球の内角球を打ち返した門田の打球が、あっという間にレフト頭上を破る。2ベースヒットだった。
迎えるは5番、村田。
3番、新井。4番、門田、そして5番、村田。
このクリーンナップこそが、大阪応印の一番怖い「パワー」だった。今大会、データ上でも、ほとんどこの三人から打点が生まれている。
入りは慎重に、外に逃げるカーブを放るも、見送られてボール。
2球目。内角低めのフォーク。ギリギリでストライク。
3球目。早くも見極めていたのか。
低速シンカーを狙い打ちし、気がつけばあっという間に右中間を破っていた。
あっさりと先制点が、大阪応印に転がり込む。早くも0-1。
だが、試合はまだ序盤。
しかし2回も3回も、我が校は、村田に手も足も出ず。特にストレートと同じ軌道を描いて、急激に落ちて来るフォークボールが曲者だった。
1点ビハインドのまま、3回を終える。
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