眠りウサギはかく語る

ふわぁ。

ねむいねむい。

ああ、ごめん。最近夢見が悪くてね。


ふぅ。よし。じゃあ、僕の話を始めようか。


みんな、正夢とか覚醒夢とか予知夢って聞いたことあるかな。

僕は昔からよく予知夢を見るんだけど。

予知夢っていうのは未来のことを予知した夢のこと。夢が現実になるのが正夢で、現実になることを夢で見るのが予知夢かな。覚醒夢っていうのは夢だっていう自覚がある中で見る夢。

とにかく、僕は予知夢を見やすいってこと。

毎回ってわけじゃないんだけどさ。

いつの頃からか、同じような夢を見るようになったんだよね。



真っ暗な夜。

綺麗な月明かり。

月が写る大きな池。


僕はその池へざばざばと入っていく。

池は浅くて、深いところでも腰までの深さ。

真ん中まで進んで、池の底に沈んでいる物を拾おうと水の中へ腕を伸ばす。

顔まで水に浸かって掴むのは

冷たい水の中で横に倒れ、砂という時間を落とさなくなった

砂時計。



小学校を卒業するまで同じ夢を何十回も見た。

意識はないのに、何故かよく覚えている夢。

意味が分かんなくて、でも見ないようにすることもできなかったからそのままだった。


でも、あるときその夢の意味がわかったんだ。



中学生に上がったくらいの頃だったかな。

大雨が降ったんだ。本当に凄くて、これ、浸水で済むかな?と思いながら眠りについた。

その夜。

僕はいつもの夢を見たんだ。

いつもと違ったのは、その夢に続きがあったこと。


倒れた砂時計を掴んだ瞬間、パッと映像が切り替わった。

不思議なことに、二つの視界を別に見ているのに同じように情報が頭に入ってくるんだ。

だから余計に「これは夢だ」っていう自覚が強くなったんだと思う。


どちらも、雨が物凄い音を立てていた。

それと、なんか、すごい、轟音。

例えようがないんだよ。

でも、物凄い音。


自分は横になっていた。

寝ている…のかな?


視界は真っ黒。多分、目を閉じている。

雨じゃない凄い音は近づいてくる。

どんどん、近づいてくる。


片方の視界が開けた。多分、目を開いた。

急いで床下へ潜った。

床下?

そこには小さな墓が二つあった。

そこをザクザク掘って、小さな小さな骨がいくつか。

それをしわくちゃな手でぎゅっと握った。

凄い音はもう真横だった。

皺枯れた女性の声は最期にこう言った。

「やっと、あんたらのとこに逝けるわ」

女性は、笑っていたと思う。

横から、土砂が体を叩きつけた。



もう一つは、ギリギリまで、というか視界は最期まで真っ黒だった。


凄い音は近づいてくる。

どんどん近づいてくる。

どんどん、どんどん、近づいてくる。

バキバキという木が折れる音も混ざってきた。

凄い音はもう真横だった。

皺枯れた男性の声は最期にこう言った。

「悪かったな、○○」

呼んだ名前は、僕のよく知る同級生のものだった。

男性は、泣いていたと思う。

横から、土砂が体を叩きつけた。



そんな、夢だった。


目が覚めて外を見ると見事な晴天だった。

夢で名前を呼ばれた彼とは学校が同じだった。長年見てきた夢のことも知っていたから、僕はその日の朝、彼にその夢のことを話した。

彼は言う。

「確かに両隣の家に婆さんと爺さんが住んでるけど、まだ辛うじて生きてはいるぜ」


そして、その日の夕方。彼から電話があった。

両隣の家に住んでいた婆さんと爺さんが今日亡くなった、って。



君はどう思う?

僕の見た夢は正夢?予知夢?

僕はその二人の老人には会ったことがないんだ。同級生の両隣の家に老人が一人暮らししていたことも知らなかった。

僕の見た夢は現実だったのか?




いや、違うな。

ごめん。言いたいのはそういうことじゃないんだよ。

こんな夢を見すぎて、夢と現実の区別が曖昧になっちゃうんだ。

見た夢が「その人の夢」なのか、「僕の夢」なのか。区別が着かなくなるときがある。だって、その夢たちの視線は全部僕のものだから。

全部、僕の目で見た現実のように思えちゃうんだ。


実際はね。そのお婆さんとお爺さんは夢で見たみたいに土砂崩れに巻き込まれて亡くなったわけじゃないんだ。

だから、夢と現実は多少違った。

だから、このとき僕はただの「偶然見た夢」なんだって思うことにしたんだ。


本当に土砂崩れが起こるまでは



それから数年後に、今までの大雨とは比較にならないくらいの集中豪雨が数日続いた。同級生の彼が住む区画は地盤が弛くて、とうとう土砂崩れを起こした。

不思議なことに、彼とお爺さんが住んでいた家は無事だったらしいんだけど、さすがにお婆さんの方の家は全壊。もちろん家が無事だった彼も無傷だよ。

問題はその後。

彼は全壊したお婆さんの家の片付けを手伝ったんだ。そうしたら、なんと。床下からいくつかの小さな骨が出てきたんだって。


土砂崩れ

床下

お婆さん


僕はあの夢を思い出した。

全てが繋がった気がした。


お婆さんは先に亡くなった旦那さんと愛犬の骨の一部を床下に埋めていたんだ。

大切な大切な家族。

お婆さんは土砂崩れで亡くなったわけじゃない。でも、きっと。彼女は亡くなる時、あの夢のようにそこにはない骨たちを握りしめてあの言葉を言ったんだと思う。



さて、お爺さんの方なんだけど。

同級生の彼が言うには「雷おやじ」だったらしい。

周囲に対して厳しい。隣に住む彼に対しては更に厳しい。

僕の見た夢が最期の瞬間のイメージなんだったら、どうしてお爺さんは彼の名前を呼んだんだろう。


面白いことに、同級生の彼がお婆さんの家にあった骨を供養するため、これまた同級生の実家の寺へ行った時にそれは判明した。

なんと。その亡くなったお爺さんが彼に取り憑いているらしいんだ。

いや、悪い意味ではないよ。どうやら護ってくれているみたいだ。だから、あの土砂崩れでも無傷でいられたんだ。

本当はね。お爺さんは彼のことが気に入っていたんだ。でも素直になれなくてキツく当たってしまっていた。

だから、あの夢のように僕の同級生の彼に謝ったんじゃないかな。



どっちの夢も、それが本当かはわからない。

だって本人がもういないのだし、会えないんだから。






これはね。

僕が見た夢の話。



誰かが亡くなる瞬間を映した夢を見るようになった、僕の話。

「あの人は、最期に何を思ったんだろう。」




まあ、結局は夢でしか見ていないんだからさ。現実では僕はただのエキストラ。


エキストラはエキストラらしく、精々おとなしく夢を見ながら眠ってでもいましょうかね。


ああ、ねむいねむい。

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両隣のあの家、えきすとらっ! 犬屋小烏本部 @inuya

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