第5話 キス
「よし。そこまでだ」
俺は飛び出した。今まさに必殺の一撃を放とうとしているシーラとドラゴンの間に。
「えっ!?」
と、シーラが目を見開いた。でも止まれない。当然だ。シーラの使った『マテリアル・完全開放』は肉体の限界を超えた力を引き出すもの。一歩間違えれば自滅するが瞬間的に爆発的な力を発揮できる諸刃の刃。シーラは既に
「ルド君よけてぇええええ!!」
断末魔のような悲鳴が上がる。シーラから。俺はそんな彼女を優しく抱き止めた。その際、生じるあらゆるエネルギーが彼女を傷つけないよう完璧に制御する。
「え? あれ? こ、これって……え?」
俺の腕の中で不思議そうに赤い目を瞬くシーラ。あれ? これって……ハグだ。期せずして俺はシーラをハグしている。何か感動だ。
「GAAAA!!」
背後から特大のブレスが迫る。シーラが咄嗟に俺の盾になろうと動こうとするが俺のハグロック(今命名)からは逃げられない。せっかくの機会だ。もうちょっと抱きしめていたかった。
「ル、ルド君! 後ろ!!」
叫ぶシーラ。俺は指を鳴らした。
パチン! と。
それで消える。もはやマッチ一本分の熱量すら存在しない。どこにも。
「へ? ……えっ!? これ……ルド君? 今何やって……。そ、それに何でまだ全裸なの? か、風邪ひいちゃうよ?」
「GA!?」
シーラとドラゴンがそれぞれ驚愕の面持ちで俺を見る。
「真剣勝負の邪魔をしてすまないな。だがこのまま二人が潰しあうのはあまりにも勿体無いので止めさせてもらった」
「えっと、それって、ど、どういう意味なのかな?」
「誤解しないでほしいのだが、勝負を止めた一番の理由はシーラが心配だったからだ。そこはまず知っておいて欲しい」
「え!? う、うん。あ、ありがとう、ルド君。……えへへ」
「GA?」
「ん? いや、ナイスファイトだとは思ったが、流石に会ったばかりのドラゴンの心配をするほど俺はお人好しではないぞ」
「gu」
なんだ? 落ち込んだぞ。まさか心配して欲しかったのか? 会ったばかりの俺に? 意外と図々しいなこのドラゴン。
「変な話だけど私は貴方を殺さずに済んで嬉しいよ」
シーラが優しい笑みを向けるとドラゴンは嬉しそうに身震いして顔を近づけてきた。シーラはごく自然とそんなドラゴンの鼻先を撫でる。
か、感動だ。こんなことが出来るだなんて。無理だ。少なくとも俺には。俺の敵と言えば悪魔だが、あんな奴らと仲良くなれるか? 不可能だ。そんな奇跡みたいなことができる自信はない。これっぽっちも。あいつらが嬉しそうに顔を近づけてきたら、即顔面パチンをお見舞いするだろう。でもシーラは……人間は可能なのだ。敵と仲良くなることが。やはり人間は素晴らしい。
「結婚しよう。シーラ」
「うん。……え? ふぇええええ!? え? あの、る、ルド君? 今、な、な、な、なんて言った……のかな?」
「結婚しようと言った。嫌か?」
「う、ううん。い、いやじゃないよ。全然! でも、あの、きゅ、急だったから、お、驚いちゃって」
確かに急だ。シーラの見せた奇跡。それをこれからも間近で、肉眼で、リアルタイムで視聴したいと思った。その為に必要なものは何か? ルドの知識が閃いたのだ。結婚せよと。結婚すれば常に男女は一緒だ。……なんだ、自分でも突飛な考えと思っていたが全然突飛ではなかったな。むしろ論理的に考えれば辿り着く、当然の帰結と言えた。
「そ、それにベルザ様はどうするの?」
ベルザ? 誰だそれは? 何故急にその名前が出てくる。脈絡がないぞ、まったく。……いや、待て。なんか思い出しそうだ。脳のこの辺りまで何かがきてる。ベルザ、ベルザ……あ、だめだ。引っ込んだ。まぁそのうち思い出すだろう。
「ベルザのことは一先ずおいておけ。今は俺とシーラの話だろう」
「ルド君……私のこと好きなの? ちなみに私はルド君のことが好き。ルド君のためならどんなことでも出来る。それくらいルド君のことが好き。ルド君は? ルド君は私のこと好き? 好きじゃなくてもいいよ。でも好きって言って。そしたらどんな命令にも従うから。私をどれだけ利用してもいいから。ねぇお願いルド君。私のこと愛してるって言って」
「何を言ってるんだシーラ。嘘をつく必要なんてない。愛してると言って欲しいだと? そんなもの心の底から言えるぞ。愛してる! 俺はシーラを愛してる!」
「私もルド君を愛してる! しよう。ルド君! 結婚を!!」
「おおっ、なってくれるかシーラ。俺の伴侶に」
「なるよ。ルド君。私ルド君のお嫁さんになる!!」
「シーラ」
「ルド君」
互いの手をとって見つめ合う。そして俺とシーラは幸せなキスをした。
「Gu!」
ドラゴンもそんなオレ達を祝福してくれる。幸先の良いスタートだ。とても。人類を守れる。そんな確信が胸の内から沸々と湧き起こってきた。
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