第4話 名勝負

「『旋風』『天地』『爆裂』」


 繰り出される技はどれも十代の少女が放つとは思えぬ激しさをもってドラゴンを叩く。


 怒涛の攻めだ。ルドの記憶にあるシーラは本が好きな大人しい少女だが、眼鏡を外して刻印を開放した今のシーラはまるで別人。放たれる技はジルド戦技というだけあってジルドの技の面影がある。……ジルド。ユギルの色香に負けて俺を裏切ったとはいえ、いい奴だった。もう二度とあいつと話せないのかと思うと自然と頬を涙が伝う。


「GAAAA!!」


 ドラゴンがブレスを吐いた。黒いブレス。かなりの高温だ。助けが必要か? 自然と体に力が入る。


「ジルド戦技『旋風極大』」


 必要なかった。助けは。シーラは魔力を纏った鋭い蹴りで風を起こして炎を散らした。ドラゴンのブレスを。全くもってお見事。これで十代。将来彼女がどんな風に成長するのか今から楽しみだ。しかし、だからこそ気になった。あの刻印……。


「やるわね、貴方」

「GA! AA! AA!!」

「ふふ。ありがと。意外と優しいんだね。もしも貴方がルド君の命を脅かす存在でなければ、ねぇ私達、いい友達になれたかな?」


 いや、全然脅かしてないぞ、そのドラゴンは。俺の命を。だから思う存分友達になってくれて構わない。構わないのだが……はて? 今ドラゴンと意思疎通してたような……。人間にそんな能力があっただろうか? それともこれが噂の拳で語るというやつなのか? 何にしろ凄い。やはり人間は素晴らしい。


「GuAA!! AA! AA!!」

「そうだね。余計な言葉だったね。戦おうか。どちらかの命が燃え尽きるまで」


 そうしてシーラとドラゴンは戦いを再開する。それにしても眼鏡を外したシーラは言うことが芝居かかってて格好いい。俺もあんな風に喋りたい。今度練習しておこう。


「ジルド戦技一の秘技『絶対貫通』」

「GAAAA!!」

「くっ、これを弾くの? でも、私は……私は負けない! ルド君……ラァ~ヴ! ラヴラヴラヴラヴラヴラヴ!!」


 凄い拳のラッシュだ。ドラゴンの方も豪雨の如く降り注ぐ攻撃に耐える為に体を魔力で硬化した。互角だ。シーラとドラゴンの力は。まさに一進一退の名勝負。見守る俺の手にも汗が浮かぶ。


 行け! そこだシーラ。頑張れ! ドラゴンもナイスファイトだ。そのままシーラを殺さないレベルで頑張れ! あっ、だめだ。尻尾は反則だ。お、落ち着けシーラ。躱せる。お前ならその動きにも対応できるはずだ。……よし、いいぞ。それだ! そう、凄い! 凄いぞ! お前はやっぱり天才だ。


 両者の戦いを見ていると時間を忘れる。実際どれくらい経っただろうか? 生身を得たばかりで時間の感覚を取り戻せてないが一時間は有に超えていると思う。最初こそシーラは俺の方を焦った瞳で何度も確認してきたが、その度に俺が傷は完治してますアピールをしたおかげで今では没頭している。ドラゴンとの戦いに。


「……そろそろ着るか?」


 俺は地面に畳んで置いてある服を見る。全裸。今の俺はまごう事なき全裸だ。傷の治りを教えるのにこれが最も効率的な格好だと判断したからだ。シーラに完治が伝わった以上、もう全裸でいる必要はない。そう思うが、気持ちいい。自然の中に我が身一つで立つのは。この開放感。これもまた肉体を持つ者の特権だ。もう少しこれでいよう。生まれたままの姿で、自然と共に。


「ハァハァ……凄い、ね。貴方。ドラゴンってもっと力押しのイメージがあったけど全然違った。本当に凄いよ」

「GA! A! AAA!!」

「そうだね。次に会う時は友達になれるといいね」

「GuAAA!!」


 決着がつく。それを予感させる魔力の高まり。もう両者に余力はない。決める気だ。次の一撃で。だが……だがいいのか? これで本当に。


「ジルド戦技終の秘技『マテリアル・完全開放』」

「GAAAAA!!」


 勿体ない。そう強く感じた。だから俺はーー

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