第9話:受験、そして。
悠生も大祐も自分の夢を叶えるために受験を受けることを心に決めていた。しかし、彼らに立ちはだかる関門として“受験資格認定試験”が待っていた。これは本国以外の受験生に課される試験で、必要な英語力と知識力が問われる。そして、その結果で本試験に進めるかどうかを判断されるのだ。
しかし、二人はある不安を抱えていた。それは以前に受けた認定試験の模試で合格基準点はクリアしていたが、志望大学の判定は悠生がB、大祐がD判定だった。つまり、悠生は認定試験に合格して、本試験をパスできる可能性がまだ残っていたが、大祐の場合は認定試験に合格しても、本試験に合格できる確率が低いということだ。
模試から3ヶ月が経ち、少しずつ点数などは良くなってきたが、話しによると問題レベルが今年はあがっており、仮に模試と同じような点数が取れるという保証はないし、試験には独特の雰囲気があり、毎回点数が低くなる傾向があるというのだ。つまり、ある程度の成績を収めていないとかなり難しいということだ。
そんな不安をよそに他の受験生たちは着々と試験に向けて準備していた。そして、先生からも受験に向けて気合いを入れられていたため学年全体の意識が高まっていた。そして、約1年半と言う時間を要した全員の進路が決まり、先生も安堵した。
しかし、先生たちの中にはまだ油断を出来ないと思っている先生もいた。実は昨年の卒業生の中に浪人している人が複数人いる。浪人生になったのも“志望校を不合格になったからもう一度チャレンジする”という学生もいたが、他の理由を持っている人もいた。
例えば、海外進学をしたいと思ったが家庭の事情で国内大学に進学するために浪人せざるを得ない状態になってしまったという卒業生の場合は海外の大学に出願する直前に父親が病気になり、海外の大学に進学出来るだけの所得を得られる見込みがなくなったことで海外進学を断念せざるを得なくなったのだ。もちろん先生たちはこのようになることを当初予想していなかった。そして、次年度のパンフレットにも“海外進学率90%以上”という見出しで進学情報を出す予定になっていたため、差し替えが必要になる事態になってしまったのだ。
こういう事態を想定していた先生は今年も同様の状況を避けるために奨学金や補助金の申請をしておくように生徒たちに呼びかけていた。理由としてこれまで海外の進学に向けて頑張っていた学生の中に奨学金を申請していて進学が叶ったという学生もいたことから先生なりの提言だったのだ。
海外大学の認定試験まで残り3ヶ月になって大祐と悠生を含めた卒業生はみな無事に卒業した。来月から国内の大学に進学する人、浪人して再び志望校を受け直す人、海外の大学に進む予定の人とみんながそれぞれの夢に向かって歩き出した。そして、寂しくならないようにクラス毎にチャットグループを作りみんなでアカウントを交換した。
その後も定期的に他のクラスメートたちが応援メッセージやキャンパスライフなどを投稿してくれて海外進学コースの仲間たちが大学という所はこのような感じなのかとイメージを作りやすい環境を作っていた。
その頃、第1回の認定試験が行われていて、大祐のクラスからも受けていた。この認定試験は医学部と歯学部など医療関係の海外大学を受験する受験生が対象で合格率30%という決して簡単な数字ではなかったが、挑戦する事で他の視点が見えてくると思ったのだ。
この試験で次の試験に進めるかどうかが決まる。ただ、1人不安に思っていた同級生がいた。その子は森岡隆之介と言って代々医者の家系で、祖父は3つの総合病院・5つの小規模病院・3つの介護施設などを運営する医療法人の代表であり政治家など有名な人も通院などで訪れる公官庁がたくさんあるエリアに建っている総合病院の院長だ。そして、彼の父親は祖父の医療法人の提携病院である森岡総合病院の院長であり、同じ敷地内にある住居型介護施設の施設長でもある。
その影響もあり、“子供たちは全員が医者になるべきだ”という周囲からの先入観からすごいプレッシャーになっていた。
そして、彼の兄である慎之介は海外の難関医療系大学へ進学し、現地で中規模病院を開業して、来年日本に一時帰国をすることになっている。そして、妹たちは総合医だけではなく麻酔医なども同時になりたいというのだ。正直、一般医と麻酔医などの特別医を同時に取得出来たという人を聞いたことがない。まして、医学部の現役学生でさえ同時取得をすることは針の糸を通すよりも難しく、ほとんどが挫折してしまうのだ。
その挑戦に刺激を受けた隆之介は兄に続いて海外の大学の医学部を受験することを決意したのだ。もちろん、兄のようになりたいと思っていた事も影響しているが、1番はこれまで6年間英語を使う環境にいたため、英語で大学も学習したいと思ったこと、同じ夢を持った友人たちがも彼が海外の大学を志望した理由になっている。
実は彼が高校在学中に研修で行ったアメリカで複数の医者志望の学生と出会ったことも彼が医師として働くという決心を固めたきっかけでもある。その学生は今年、大学を受験し、志望校に合格するとキャンパスが近いため、再会することができる可能性があるのだ。
崩れし城は輝く NOTTI @masa_notti
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