第3話:人生の転機

大祐は中学受験を半年後に控え、ラストスパートをかけていた。


 大祐の成績もやっと軌道に乗り始め、彼の新たな門出に向けて進み始めた。


しかし、問題だったのは大祐ではなく、兄の隆祐だ。隆祐は高校3年生だが、現時点で進路が決まっていないという致命的な状態だった。というのも、隆祐の成績は決して悪くないが、最初から推薦を1希望、一般を第2希望として動いてきた。そのため、彼は指定校推薦で東京の大学への進学を希望していたが、同じ大学に希望を出した同級生が5人いて、成績順でいくと隆祐が最下位だった。しかも、その大学からは最大2名という枠しか確保されていない。そのため、仮に志望校の指定校推薦が受けられなくなった場合には共通テストを受けて一般入試を受けなくてはいけなくなるのだ。


 希望を出して2週間後、指定校推薦者選抜会議が開かれ、結果は「指定校推薦者としては認められない」という悲しくも辛い判断でかつ不安が募る文章だった。


 この結果を受けて、彼は勉強を頑張らないと志望校への進学は叶わないことになる。すなわち彼の夢である海外で活躍したいという夢から遠ざかってしまうのだ。


 その夜、父親が珍しく彼を車に乗せて連れ出した。隆祐はいつもと違う父親の姿を見て「お父さんってそういうところがあるのかな・・・」と思ったのだ。しかも、いつも使っているガレージに向かおうとすると父親は普段使っている車が置いてあるガレージではなく、家の横にある広い敷地に建っているガレージに向かった。実は隆祐はこのガレージに来たのは初めてで、このガレージに何があるか知らない。


 ガレージに着いてシャッターを開けるとそこには高級車が3台並んでいた。しかも、丁寧に手入れをされていて、改めて父親は車が好きなのだろうと思ったのだ。


 その中の一台に乗って夜の街にドライブに行った。その車中で父親が「実はこの車はりゅうが高校受験するときに買った車で、まだ3年しか経っていないが、全く色あせないだろ。だから、りゅうが今度受験する事になったときに乗せてようと思って大切に保管してきた車だよ。」と父親が自信を失っていた隆祐の心を何とかしてほぐそうと思っていたのだ。隆祐も「自分も頑張っていくとこういう車に乗れるかな?」とどこか背伸びをしていた心を初めて父親に打ち明けた。というのは、今まで父親が高級車を持っているということは知らなかったため、高級車を買いたいと言って「お父さんでも買えない車だからお父さん以上の人間にならないと買えないぞ!」と言われたことで彼の中で何か火が点いたのだろうか?彼は良い車を買うためにはきちんとした知識等が必要だということを肌で感じていた。


 そして、今回父親が高級車を持っていたということはある意味“サプライズ”のようなものだろう。そして、彼が憧れの高級車の助手席に乗って父親と時間を過ごしているというのも受験が本格化してからは初めてで、他の兄弟のいない車内も初めてだ。今回、父親が普段家族を乗せていない高級車に乗せたのも父親が隆祐に期待している部分なのかもしれない。というのは、父親の考え方に一番近かったのが隆祐だった。それもあって、父親は幼少期から隆祐を大事に育て、他の兄弟たちよりも愛情を人一倍かけて育ててきたのだ。


 少しして父親に隆祐が「なんでお父さんは僕を連れ出したの?」と聞いた。すると、父親が衝撃の話をしたのだ。


 それは、「お父さんは今ある病気で通院している。もちろん、治る見込みはあるけど、完治までの期間は分からない。だから、いつ隆祐の顔を見られなくなるかも分からないし、場合によっては孫を抱くことも難しいかもしれない。」と今までの父親では見たことがないほど真剣な表情で隆祐に告げていたのだ。もちろん、この事を知っているのは母親と隆祐だけで他の兄弟たちは知らない。


 翌日、隆祐が学校に行くと担任の城ノ内先生から朝のホームルームが終わってから呼び出された。内容は「部活の早期引退をして受験に備えて欲しい」という進路に関する話しだった。この時、隆祐の心では“受験までまだ3ヶ月ある”という慢心が生まれていた。そのため、指定校推薦で進学するというプランが崩れたことで今の成績で満足してしまっていたのだろう。


 ただ,彼の中で“指定校推薦”という一つの型枠を取っ払ったときに生まれた自分の伸びしろがあることに気付いた彼は前向きに進んでいくことが出来るようになった。


 実は彼がこの大学を受験したいと思った経緯があった。それは彼がこの高校に入学する前に当時学校で有名な先輩が日本で最難関大学の滑り止めとして受けた大学は今回彼が受験する大学だったのだ。


 その学校はセバスチャン・インターナショナル大学という本校はアメリカのカリフォルニアにあるが、その大学の日本法人が運営している大学だ。この大学は世界に大学を持っていて、交換留学などで異文化交流等を行っていて、卒業生の中には藤倉隆太という社長がいる。この社長は現在、日本に本社はあるが、世界的に有名な社長さんの1人で世界中に友人がいる。この人が手がける事業は軒並み成功を収めるようになっている。


 彼が受験しようとしていたのは国際経済学部だった。この学科はこの大学の中では最も偏差値が低い学部だが、低いといっても偏差値は75とかなり高い。その上、この大学は国内大学の扱いになるため、普通の試験と同じ扱いになる事を考慮すると彼にとってはうってつけの大学なのだ。


 今まで彼が追ってきた国際進出という夢に近づくことが出来るチャンスだと思った。


 指定校推薦に潰された希望があなたの潜在能力を試し、あなたの夢を叶えなさいという神様からのメッセージだったのだろう。


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