第2話 生まれたときからラッキーボーイ

 大祐は1993年の冬の寒いときに兄二人に見守られながら福岡の都市部の総合病院で生まれた。当時は親戚や知り合いなどでもベビーラッシュで彼はその年に生まれた子供の中では生まれたときの体重も身長も小さい方だった。そして、生まれた時間も他の子たちはゴールデンタイムに生まれたが、彼は午前3時とひとりだけ深夜帯に生まれたのだ。


 ただ、当時父親は仕事の繁忙期に差し掛かっており、生まれる前日も「遅くなるから立ち会えるかどうか分からない」と言っていたため、母親は「大祐。お父さんが来るまでお腹の中で待っていて」と心の声を送っていた。


 そして、父親が病院に着いた時間が夜中の12時を少し過ぎた頃だった。そして、そこから約3時間後に大祐が生まれたのだ。当時父親は「何と空気の読める子供なのだろう」と感心していたのだ。


 当時父親は35歳で大手企業の営業部第1課の課長として従事していた。そのため、彼が生まれた時期は納期が立て込み、家に帰ってくる時間は大体11時頃が日常になっていたのだ。そのため、当時幼稚園に通っていた兄は「パパはどこにいるの?」と毎日泣きそうな顔でママに詰め寄り、当時保育園に通っていた兄も「パパと遊びたい!」と毎日寂しい思いをしていたのだ。


 そんなときに大祐が生まれたことで家の中が騒がしくなり、てんやわんやしていたのだ。ただでさえ、上2人の習い事をやらせていた母親も彼らが本当にやりたいことをやらせてきたが、どうも芽が出なかった。


 唯一結果が出たとすると幼稚園から通っていた学習塾だろう。なぜなら、兄二人は学習塾に行っていたおかげで地元の国際高校の附属中学校に合格したことで彼らの中に自信が生まれていたのだ。


 ただ、長男の考祐は進学した当時から国際系の学校に行きたいと思っていたわけではなく、将来英語が役に立つと思ったから進学したというのだ。もちろん、両親が進路を決めたわけではないが、どこか彼の判断に対して不安を持ち始めたのだ。


 その頃、弟である隆祐が受験に向けて頑張っていたのだが、母親は兄と同じ志望動機なら同じ学校への受験をさせることをやめさせたいと思ったのだ。そして、彼が学習塾の先生との面接で「自分の夢は国際系の会社に就職して、国際貢献をしたい」と言ったのだ。その時、彼は国際高校附属中学校に進ませても問題ないと判断したのだ。


 仮に入学できた場合、二人は入れ違いという状態になるが、それだけでも彼らにとっては良い経験になると母親は思っていた。


 そして、隆祐が受験する年になった。今年の志願者数は前年比70人増となり、競争倍率は約2.75倍とかなり倍率が高くなっていた。ちなみに考祐が受験した年は2.25倍だったため、その頃よりも相手が多いことになる。その数字を見た隆祐は日に日に怖じけついてしまった。なぜなら、彼は高倍率の受験を経験したことはなく、同級生が受ける中学校でも最低倍率が2.0倍前後であることからこの中学校がどれだけ人気があるかを裏付けている。


 そして、真ん中の大祐が小学生になり、受験に向けて勉強を始めたが、上二人の兄に比べるとどう考えても成績が伸びず、このままでは附属中学校に合格できる値まで到達出来るかが分からなかった。


 なぜなら、彼は勉強することは好きだったが、理屈があまり好きではなく、毎回先生が「この式を使って問題を解いていきましょう!」と言ってもその式ではなく、暗算で計算するような子供だったため、実際に模試などを受けても正答にたどり着いているが、あまり前向きに考える傾向はあまり見られなかった。


 そして、国語も作文や漢字などは得意でも、古文や漢文など普段から接しているものではないと成績が落ちてしまう。


 その状況は塾でも同じで附属中学校の過去問題をやっても10点中2点と他の子たちに比べると得点率が低く、点を稼げる部分を知識不足で落としてしまうのだ。そして、ケアレスミスで類似する問題を落とすなど本人の中でもどかしい気持ちと悔しい気持ちが入り交じっていた。


 彼はクラスの中でも手のかかる生徒で、何をやらせても合格予想点などに到達する科目はなく、このままでは受験をさせることが正しいのかを先生も両親も模索していた。


 ただ、彼の成績に動きが出てきたのが小学5年生の春にあった全国模試だった。この模試から志望校への合格率などがランクで表示されることになり、彼の受験に対する意識を変えることを望まれていた。


 この時、両親は頭を抱えてしまった。なぜなら、彼が小学5年生の時点で兄たちが取っていた成績よりも低い成績だったため、兄たちの背中を追えるのか不安だったのだ。

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