第1話①

 …物語を描きたかった。暗くて冷たい深海みたいで、それでいて藍色に透き通る宝石の様な物語を。この世の鋭利な光なんて全て吸い込んで、私を包み込む深く温かい闇───そんな物語を、私はずっと描きたかったのだ。


「───でさぁ、その時カレシがぁ……って、透花とーかってば聞いてる?」


「……え。あ、聞いてる聞いてる!」


「ウッソだぁ〜!今エッロい顔してたもん」


「し、してないし!」


 意識を現実へと戻すと、じっとりした夏の教室にいた。友人と話をしていても、授業を聞いていても、一人でいる時も───私は「自分の世界」へ入り浸ってしまう。


 軽い空想癖の様なものだ。治しても良いが、そしたら私の日常はきっと今よりも退屈なモノとなるに違いない。


 現実と空想のどちらが大事かなんて分かってる。この身が埃臭ほこりくさい現実世界の住人である以上、私は死ぬまで、この埃の匂いを吸って生きていくしかないのだ。



「透花のぽや〜ってした感じ、私は好きだけど」


「ふーん、じゃあもう二人で付き合っちゃえば。どーせっ、あたしは仲間はずれでーす」


「だってー透花。私と付き合う?」


「うん…え?えっ!?」


「なんちて。うっそー♡」


彩葉さいはぁ…あんた真顔で冗談言うのやめなさいよ。言ったあたしまでビックリしたじゃん…」


 いつも眠そうな雰囲気を纏った彩葉と、花火みたいな華やかさの少女・茜。対照的な二人だけど、絶妙に雰囲気が噛み合うので決して不仲な訳ではない。むしろ、誰が見ても仲はかなり良い。





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