うたかたの夏で。

あいせ

 ───〝神様はいると思いますか〟。


 からっぽの教室で、大学ノートの切れ端を拾った。一見すれば素朴で粗末な疑問文…けれどそれは不思議な事に、誰かが答えを求めたのではなく、誰かが救いを求めて縋る声に聞こえたのだ。


「…いるわけないじゃん」


 …だって、神様そんなものに祈ったら終わりだ。それは自力の放棄、自ら希望に蓋をするようなものなんだから。そしたらもう、二度と光がそこから漏れ出す事はない…なにより祈るだけで救われるのなら、一体誰が苦労するというのか。祈るなんて簡単だ、子供でもできる。



 教室の窓は閉じきっていて、風はなく蒸していた。雲ひとつ無い快晴がひたすら青い。


 廊下を反響して聞こえてくるこの合唱曲は、私も歌ったことがある。しかし、この歌を夏に歌うのはどうしてだろう。


「───あ」


 遠くでボールを打つ音がした。高く上がったそれは一瞬窓に映りこんだが、切れ端に目をやった私には知る由もなかった。


「…これ、私の字か」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る