第10話 舞い降りた天使 #2

第10話 続き #2


[8]ー《緑の国》 情景


〈朝日が昇り、城をまばゆい光が包みこむ様子。〉



[9]ー城 ミリアム王子の部屋 早朝


ミリアム「〈小声で〉ポリー、ねえ、ポリー。起きて」


ポリー「〈眠そうに〉うーん、お早う。ミリアム王子」


ミリアム「どうして、みんながここで眠っているの?あの女の人と、可愛い女の子は誰?姉様に聞きたくて、さっきから起こしているんだけど、姉様はちっとも起きてくれないよ」


ポリー「〈起き上がって〉ミレーネ姫はとても疲れているの。もう少し眠らせてあげようね」


ミリアム「あの子は誰?名前は?天使みたいに可愛いね」


ポリー「なるほど、天使みたい・・・ね。そう、あの子は天使ちゃん!」


ミリアム「え〜〜、使?」


ポリー(心の声)「本当の名前はミリアム王子には言わない方がいいわ」



[10]ー城 王の寝室


王様付きの侍従「お目覚めでございますか?早朝から慌ただしく申し訳ございません」


王様「何があった?」


王様付きの侍従「昨夜、お城の灯りが突然すべて消えました。また、ほぼ同じ頃、侵入者が城に入ったようです。その後すぐに、お城の明かりはすぐ復旧し、侵入者は何も取らずに逃げました。姫様も王子様もご無事でございます」


王様「それは何よりじゃった。それで、その逃げた者はまだ捕まってはおらぬのか」


王様付きの侍従「はい。今も近衛隊が捜索中でございます。ただ、その昨夜の騒ぎの頃に、一つ困った問題が起きまして。大臣達がご説明申し上げたいと、あちらのお部屋でお待ちでございます」



[11]ー城の庭 離れの客室のそば


〈近衛隊があちらこちらで動き回っている。まだ早朝だが、美化班ノエルが誰かを探すかのように、キョロキョロしながら歩いて来る。近衛副隊長ウォーレスの姿を見つけ、木の陰にいったん隠れるノエル。〉


近衛「報告します。残念ながら、まだ何の手掛かりも見つかりません」


近衛副隊長ウォーレス「引き続き、捜索を続けろ」


〈近衛が去り、今度は医女が離れの客室から出て来る。近衛副隊長ウォーレスと少し立ったまま言葉を交わす。その様子を木陰から見ているノエル。そこへ、武官アリと、その仲間達が通りかかる。〉


武官アリ(心の声)「あの木の陰にいるのは、この間、見かけた美化班夏組の女?こんな朝早くから、それもこんな場所に、美化班の新人がなぜいるのだ?」


〈いったん、その場を行き過ぎるアリと、その仲間達。〉


武官アリ「〈少し進んだ所で立ち止まって〉用事を思い出した!先に行っていてくれ」


〈先に行く仲間達。戻る振りをして、うまくノエルがいる木陰の背後に回り込むアリ。ウォーレスの方を気にしているノエルは、アリに気付いていない。医女とウォーレスが話しながら歩き出し、ノエルとアリの耳にも会話が届く。〉


医女「エレナさんは落ち着いていらっしゃいます。昨晩遅くに、ポリー様がお見えになった後、気持ちがたかぶられたのか、少しだけ取り乱されたのですが、今は無事の知らせを静かに待っていらっしゃいます」


近衛副隊長ウォーレス「ポリー様がこの離れに?どうしてエレナさんが城に来ていることをご存知だったのか?」


医女「エレナさんの娘さんとお知り合いだそうです。エレナさんとモカちゃんが、お城に泊まっていることを聞き、本館の客室は白の国のかた達がお使いなので、こちらではとお思いになったそうですよ。でも、〈辺りを見回し小声になり〉モカちゃんがいなくなったことまでは、まだお気づきでないようでした」


〈その様子を木の陰から窺っているノエル。そして、そのノエルを、少し離れてのぞき見ている武官アリ。〉



[12]ー城の庭 離れの客室


〈ベッドに座り、明るくなった窓の外をぼーっと見ている、マーシーとモカの母エレナ。ポリーが届けた焼き菓子の入った袋をぎゅっと抱きしめる。〉



[13]ー【エレナの回想: 昨晩遅く 離れの客室】


〔ウトウトしていたが、女官長ジェインが部屋に入ってきた気配で起きるエレナ。〕


エレナ『ジェインさん!』


女官長ジェイン『目が覚められましたか?今、ポリー様がいらっしゃったのですが、とりあえず私が代わりに伺っておきました。城下町でマーシーさんと会い、エレナさんがお城にいることを知って、遅い時間ですが、ここに寄られたそうですよ。このお菓子を渡して欲しいとのことです』


〔袋を受け取るエレナ。〕


女官長ジェイン『ポリー様からの伝言もお伝えしますわね。“この味がだから、たくさん食べて元気になりました。エレナさんも食べて下さい”と。それから“も思い出しました”とおっしゃっていましたよ。ポリー様は本当にエレナさんの焼き菓子がお好きなのですね』


〔袋から、ゆっくりと林檎味りんごあじの焼き菓子を取り出し、それを見てハッとなるエレナ。〕


エレナ(心の声)『こ、これはモカが好きな林檎味!あの子はこれしか食べない・・・。一番好き??ポリー様は確か・・・。そうよ、胡桃くるみ味がお好きだったはず。・・・と言うことは??』


エレナ『〔急に声がうわずって〕ポリー様が本当に元気になったとおっしゃったのですね??そして、昔のことも!?ああ、ああ!〔安堵の感情も込み上げて来て、泣き出す〕』



[14]ー離れの客室 続き


〈焼き菓子の袋を握り締めているエレナ。〉


【エレナの回想: 6年前 城の厨房に突然、現れて、焼き菓子を見せたポリー。】


エレナ(心の声)「あの日と同じで、姫様とポリー様が内緒で関わっていることが何かあるのですね。モカはだから待って欲しいということなのでしょう。信じますから、どうかモカを無事に帰して下さい〈祈る〉」



[15]ー城の庭 離れの客室のそば 続き


近衛副隊長ウォーレス「今、女官長はどこに?」


医女「さきほど、どちらかへ出られましたが、行き先までは・・・。私と交代した医女がエレナさんには付いていますので大丈夫と思います」


〈医女は会釈して立ち去る。別の護衛に声を掛けるウォーレス。〉


近衛副隊長ウォーレス「ここの警護を引き続き頼む。一度、王様に報告に行って来る」


〈一人歩きかけるウォーレス。そこへ木の陰から出てきたノエルが、ウォーレスの腕をつかみ、木の陰に引っ張りこむ。〉


近衛副隊長ウォーレス「〈驚き〉ノエル!!やっぱり城にいたのか!本当にお前だったとは!!」


ノエル「お久しぶりです。ウォーレスさん」


〈さらに背後の陰から、二人をうかがっている武官アリ。〉


武官アリ(心の声)「?何なんだ、この二人は?〈ますます聞き耳を立てる〉」


近衛副隊長ウォーレス「こんな所を誰かに見つかったら、どうする?その前になぜ城で仕事をしているのだ?今年の夏組に受かっていたということか?あの後、ずっと行方を探したぞ」


ノエル「今、そんなことを、あれこれ説明している暇はないの。私だって、もう二度とウォーレスさんに声を掛けるつもりはなかったし、城内で会っても知らん顔するつもりだった。もう私達の縁は切れたんだから」


近衛副隊長ウォーレス「そのことで話があるんだ」


ノエル「裏切り者の話なんか聞きたくない!」


近衛副隊長ウォーレス「じゃあ、なぜ今、呼び止めた?」


ノエル「近衛副隊長なんでしょ?王様と直接、話せる立場よね。王様に薬の毒見役に名乗りをあげている者がいるとだけ伝えて欲しいの」


〈驚いて、隠れている陰で足を滑らせそうになり、音を立てないよう、木にへばりつく武官アリの滑稽な姿。必死で話の続きを聞いているアリ。〉


近衛副隊長ウォーレス「〈小声で〉なぜ、毒見役のことを!?」


ノエル「知るきっかけがあったとだけ言っておくわ。ウォーレスさんは私の頼みを断るなんて出来ないはず。をあんな目に合わせておいて・・・」


武官アリ(心の声)「!?」


〈驚いて、また滑りそうになり、木にさらにしがみつく武官アリ。〉



#3へ続く

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