第8話 光と闇の対決 #1

シーズン1 第8話 光と闇の対決 #1


[1]ー《緑の国》城 サイモン王子の客室


薬師ゴーシャ魔王グレラントが運んで来た入眠を促す薬草茶がテーブルの上にある。〉


従者レックス「では、まず私から。も兼ねて頂きます」


サイモン王子「〈笑って〉レックスは、まったく……」


従者レックス「〈飲み干し〉これは中々美味しいですよ、王子様」


サイモン王子「〈飲んで〉本当だ。よく眠れそうだ。ケインは飲まないのか?その辺りに茶器があるだろう?」


〈少し離れた所に立つ剣士ケイン。〉


剣士ケイン「私は護衛ですので、眠りは常に浅くしております」


サイモン王子「なるほど」


従者レックス「ケイン殿。では、すみませんが、後は任せましたよ」



[2]ー城下町から城へ向かう道 夜


ポリー「あーあ、久しぶりの我が家でくつろぎ過ぎたわ。こんなに遅くなって、やっぱり馬車を頼めば良かったかな。〈首を振り〉ダメ、ダメ。身体を怠けさせては! ん?こんな時間に前を誰か歩いている。城に向かっているみたいね。〈人影に目を凝らしながら〉女の人かしら?」


〈ポリーより少し前を歩いているマーシー。少しオドオドしている感じ。〉


マーシー「月明かりの下、暗くはないと言っても、この辺は人通りはないし、やっぱり何か不気味……。父さんに送って来てもらえば良かったかな。でも、子ども達が手を焼かせていたら伯母さんに悪いわ。父さんが早く行ってあげたのは正解よね〈ブツブツ独り言を言っている〉」


〈その時ヒタヒタと後ろから足音がする。〉


マーシー「えっ、怖い!どうしよう。〈自分に向かって〉いい?マーシー、振り向いたら駄目よ。“顔なしお化け”なんかいたら、失神してしまう!とにかく逃げるの!」


〈一目散に走り出すが、追いかけられて袖を掴まれる。〉


マーシー「きゃあ〜〜」


ポリー「〈顔を見て〉えっ、マーシー?」


マーシー「ポリー様!」



[3]ー城 サイモン王子の客室


〈爆睡しているサイモン王子と従者レックス。黒装束に着替えてそっと部屋を出る剣士ケイン。手には顔を隠す頭巾と大きな布袋。まず城の庭に出て周りを見回し、頭巾を被り、袋は腰の紐にはさみ込む。ふところにも何か隠し持っている様子。〉



[4]ー城 離れの客室


〈マーシーの母で、以前、厨房班で働いていたエレナと、その三歳になる娘のモカがいる。熱で失明したモカは、秘薬の毒見役として連れて来られているが、エレナ達は真相を知らない。女官長ジェインは城の中で、王からこの真相を知らされている、数少ない人々の中の一人。〉


女官長ジェイン「明日の朝、娘さんに薬をお持ち致します。今夜はこちらで一晩お休み下さい。何かお困りのことがありましたら、外に護衛がおりますから、お申し付け下さいね。エレナさん、心配しないで。大丈夫ですよ」


エレナ「ええ。あの、実は、上の娘がこの間からお城で働いているのです」


女官長ジェイン「厨房班のマーシーさんですね」


エレナ「ジェインさん、ご存知でしたか。お世話になっております。あの、娘に私達がここにいることを知らせて頂けますか」


女官長ジェイン「実は、マーシーさんは今日、用事で一晩、帰省しているのですよ。すれ違いになってしまわれましたね」


エレナ「えっ、そうなのですか?」


女官長ジェイン「明日の朝、お伝えしますわ。服薬の後、お会い出来ると良いですね」


エレナ「有難うございます!宜しくお願いします」


〈女官長ジェインは外に出る。〉


女官長ジェイン「〈護衛に〉頼んだわよ」


〈護衛は頭を下げ、女官長ジェインは城の本館に戻る。物陰からジェインが立ち去るのを確認した剣士ケイン。目にも止まらぬ早業はやわざで、表にいた護衛の1人をまず失神させる。そして裏に回る。〉


別の護衛「お前は誰――〈ケインによる一撃で気絶する〉」


〈離れの客室に忍び足で入るケイン。物陰で、手にした布に薬を染み込ませ、そのままエレナとモカが寝ている部屋に入る。気配を感じ、振り返ろうとするエレナ。〉


エレナ「ジェインさん、まだ何――」


〈後ろから口に布を当てられ、眠ってしまうエレナ。目は見えないが変な気配を察するモカ。〉


モカ「ママ!ママ――〈泣きかけるが、同じく口に布を当てられる〉」


〈眠ってしまったモカ。剣士ケインは、腰にはさんでいた布袋を取り、広げてモカを入れ、背負い出て行く。〉



[5]ー城下町から城への道


ポリー「妹さんにそんな大変なことが?ミレーネ姫の眼を治す薬師が妹さんも担当するということかな?」


マーシー「ポリー様もそこまではご存知ないのですね」


ポリー「私も今日1日、母の店の手伝いでお城を離れていたから。とにかく、お城へ着いたら、すぐ確かめるわね」


マーシー「有難うございます」


ポリー「これぐらいお安い御用よ。マーシーの妹は、つまり元・厨房班のエレナさんの娘でしょ?実は小さい頃、エレナさんに助けられた恩があるんだ。内緒だけどね」


マーシー「そうなんですか?」


ポリー「そうなのよ、ふふ。あっ、〈道の横の崖を指差し〉ねえ、マーシー、こういう所を登るのは得意?」


〈今、二人がいるのは下の道。左横に、木々が鬱蒼うっそうと生えた低い崖があり、そこに目立たない、一部朽ちたような木の階段がある。そこを上がると上の道に出る。上の道は城のへい沿いの道なので、かなり距離は縮まる。〉


ポリー「実は、お城の前に出る近道なの。ここを上がれば正門がすぐよ」


マーシー「子どもの頃はしょっちゅう、こういう森や山で遊んでいましたから大丈夫と思います」


ポリー「月の光で森も真っ暗じゃなさそうね。行ってしまおう!」



[6]ー城 書架室


〈ジュリアスが入って来る。〉


ジュリアス「ミレーネ、待たせてしまったね。武官昇級試験の説明会がこんなに長引くとは思わなかったよ。試験の結果で、これから二年間の序列が決まるから、皆、話が終わった後、教官に質問攻めですごい迫力だ。圧倒されたよ。こんなに遅い時間になってしまったけれど、まだ少し話は出来そうかな?」


ミレーネ「ええ。薬が完成して、明日、服薬する予定ですと、さきほど聞かされたの。そのことを考えると落ち着かなくて。どうせ、すぐ眠れそうにないですわ」


ジュリアス「ジェインに眠りを誘うお茶を頼もうか」


ミレーネ「後でね。そう言えば、今日開店したナタリー叔母様のお店も、色々な種類のハーブ茶や薬草茶を扱っているのでしょう?目が治ったら行ってみたいわ。城下町を歩く自信も持てそうですもの」


ジュリアス「目が治ることが一番良いけれど、今のままでも、いつだって行けるよ。母の店なんだから堂々と行けばいい。いや、本当は他の場所だって。今まで控えめ過ぎたぐらいだよ。自分もポリーも、ミレーネと一緒に何処でも出掛けるから」


ミレーネ「有難う、ジュリアス。そう勇気づけてくれて。そうね、これからはお城の外の世界にも、もっと積極的になるよう努力してみますわ」


ジュリアス「じゃあ、もう遅いから、薬師の部屋での確認の続きを急いでしてしまおう」



[7]ー城の庭 大木の陰


〈潜んでいる剣士ケイン。動きたいが、巡回中の護衛がウロウロしていて、中々、大きな袋を担いでその場から動けずにいる。〉


剣士ケイン(心の声)「まずい。今夜は月光が邪魔だ。早くしないと、皆が意識を戻してしまう……」



#2へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る