第2話 秘薬の持ち主 #2

第2話 続き #2


[4]ー緑の国 城 王の会議室


〈王、外事大臣、民政大臣、近衛隊長、その他数名の重臣がいる。〉


重臣 その1「男の話が事実ならば、一刻も早く白の国から薬師を呼び寄せ、姫様の薬を調合させるのが宜しいかと存じます」


重臣 その2「恐れながら、白の国の陰謀説も考えられます。城内に入り込んだ薬師が毒を盛らぬとは言い切れません」


民政大臣「薬師はもちろん監視下に置く。それに万が一そんなことを企てれば薬師の命はない。そこまで無謀な真似をするだろうか」


重臣 その2「分かりません。六年前のお妃様の事件も結局まだ犯人は捕まらず、城内で手引きした者の目星もたっておりません。今回のことが、もし再び我が国をおとしいれる罠だとしたら。命を落とす覚悟で入り込む可能性もあるでしょう」


重臣 その1「疑うことは簡単です。しかし、その人物が本物の優れた薬師ならば、姫様の目を治すための、ニ度とないかも知れぬ機会を棒に振ることになってしまいます」


王様「うーむ」


外事大臣「王様、ここは薬師と一緒に白の国の王子を人質に取るというのは、どうでしょう?」


王様「何?王子を人質に?」


外事大臣「もちろん、名目上は王子を国賓の客としてお招きするのです。白の国の王子はこれまで外遊など一切しておりません。芸術に興味がお有りと聞いておりますから、ご滞在中、国宝の美術品などを存分に鑑賞してもらい、その間に姫様の目も完治出来れば、何事もなくお帰り頂けるでしょう。王子が緑の国でのもてなしに満足して下されば、両国の絆も深まり、一石二鳥。王様、是非ともご検討下さい」


王様「なるほど」



[5]ー城下町 マリオの店 (画廊マリオ)


〈ジュリアスはカウンターで、武官アリのグループはテーブルで飲んでいる。〉


ジュリアス「〈マリオに向かって〉今夜はこれで帰るよ」


マリオ「ああ、またな」


アリ「〈テーブルの方から〉何だ、まだいいじゃないか。たまには一緒に飲んだらどうだ?こっち来いよ、“武官”殿」


ジュリアス「もう他でもかなり飲んで来て、酔っているのか?城の門限に遅れるぞ」


アリ「まだ半刻はんときもある。それに、店の前に馬車を待たせているのさ。良かったら一緒に乗せて帰るぞ」


ジュリアス「結構だ。じゃあ、マリオ〈出て行く〉」


マリオ「ああ、気を付けて」


〈マリオはアリのテーブルにお代わりの葡萄酒を運ぶ。〉


アリ「もう少しツマミも頼むよ。適当でいいから」


アリの友 その1「ジュリアスは相変わらず愛想のない奴だな」


アリの友 その2「アリ、ジュリアスを“武官殿”って呼んでいたけど、あいつは文官になるって言ってなかったか?」


アリ「知らなかったのか?途中で鞍替えして武官になったんだ。おとなしく文官でいればいいものを、俺の陣地に入り込んで来やがって、気に食わないね」


アリの友 その3「だけど、武術でアリにかなう者はいないだろう?文官ではやり合う機会もないけれど、武官なら一度思いっきり打ちのめしてやればいいさ」


アリ「もうすぐ武官の昇級試験がある。絶好の機会になりそうだな」


アリの友 その1「そう言えばジュリアスに腕の立つ妹がいるだろう?」


アリの友 その2「ああ、あの噂の――」


〈なぜか咳き込むアリ。〉


アリの友 その3「おい、どうした、大丈夫か」


アリ「〈立ち上がり〉ちょっと用足しへ――」


〈アリは奥へ行き、マリオがテーブルにツマミを運んで来て置いて行く。〉


アリの友 その1「〈ちょっと声を落として〉ジュリアスが武官なら、将来、アリより上になることもあり得るよな」


アリの友 その2「なんと言ってもジュリアスは姫の従兄弟で、民政大臣の息子」


アリの友 その3「でも、今のところ、城内の実権を握っているのはアリの親父さんである外事大臣だぜ」


アリの友 その1「最終的に、アリとジュリアス、どっちが上に行くか、賭けるか?」


アリの友 その2と3「いいね〜」



[6]ー城 民政大臣の執務室 朝


〈荷造りをしている民政大臣。入って来るジュリアス。〉


ジュリアス「お早うございます。えっ、父上、なぜ荷造りを?」


民政大臣「ああ、ジュリアス。王様と相談したのだが、私が白の国の王に会うことになった。本来ならここは外事大臣の役目だが、彼が行くと複雑な外交問題に発展する可能性が大きい。今回は私的な意味合いが強いので、代わりに私が任命されたのだ」


ジュリアス「そうなのですね。護衛は誰が一緒に行くのですか?」


民政大臣「近衛副隊長ウォーレスが行く。隊長は残って城を守ってもらう。私のいない間、お前も城のことを頼むよ。ジュリアスが武官になって、姫やポリーのそばにいてくれることは心強い。いまだに文法大臣には、文官に戻る気はないのかと聞かれるが――お前の文官としての才能にどうしても未練があるらしい」


ジュリアス「自分でも本当は武官より文官に向いていると思います。でも、もう決めたことですから」


ジュリアス(心の声) 「姫を守る正攻法はこれしかないと気付いたのです」


民政大臣「そうだな、自分で選んだ道だ。しっかり歩むがいい。ポリーは最近、どうだ?ナタリーの店の開店準備は手伝っているのか?城下町には行っているようだが、鍛錬修行所の往復ばかりか?城の中でもポリーが仕事も学問もせず、ブラブラしている姿が目立つぞ。小さかった頃とは違うのだからな」


ジュリアス「本人は何かやりたいことがあるようです」


民政大臣「やりたいことは想像がつくが。まあ、良い。行く前にポリーとも話がしたい。直接、聞くとしよう。ここに来るよう伝えてくれ」


ジュリアス「はい、分かりました。白の国への道中、くれぐれもお気をつけて」



#3へ続く





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