第2話 秘薬の持ち主 #1

シーズン1 第2話 秘薬の持ち主 #1


[1]ー続き 白の国 どこか知れぬ場所 洞窟


〈魔王グレラントと手下達が話を続けている。〉


手下 その1「グレラント様、これで、この六年間長くお待ちになった甲斐がございましたね」


グレラント「まったく……。もっと早く緑の国を思うがままに出来ると思ったが。何度仕掛けてみても、あの国は何かの力に守られ、我らの計略が進まなかった。しかし、その秘密はどうも、あの小娘の首飾りか、城の森にあるらしいというところまで、こぎつけたからな」


手下 その2「それでは予定通り、今回はグレラント様自らが、城に向かわれるということですね」


グレラント「他の者達が秘密に近づけないようでは私が行かねばなるまい。この6年の内に、資源もロクにない灰の国に続き、わざわざ白の国まで手中に収め、無能な王や大臣達を取り込んできたのだ。それは全て、今回のような機会に利用するためじゃ」


手下 その1「白の国の王家も民も全く気付いておりませんが、皆グレラント様の操り人形に成り下がっております」


手下 その2「王や王子まで、ああも簡単に堕落するとは。さすが、グレラント様。ヨボヨボの女王一人では、今後どうすることも出来ないでしょう。ところで緑の国へのお供は誰をお選びに?」


グレラント「ケインが行く。ケイン、緑の国で“六年ぶり”の大きな任務だ」


〈それまで横で黙って聞いていた若者が頷く姿。〉



******緑の国


[2]ー城 寮部屋(北向きの二人部屋)


〈荷解きをしている新入り夏組厨房班マーシーと美化班ノエル。〉


マーシー「だいたい片付きましたね。今、お城の中にいるのが夢みたい!ずっとお城での生活に憧れていたんです。ノエルさんも?」


ノエル「同期なんだから、あなたも“さん”付けで呼ばなくていいわよ」


マーシー「でも……」


ノエル「さっきの先輩達とのやり取りを聞いていたでしょ?いいのよ。マーシー、これから宜しくね」


マーシー「はい、宜しくお願いします。でも、初春組の先輩ってちょっと厳しそうで緊張しますよね。半年早くお城に上がっただけで、何も指で指図して色々ズケズケ言うことないと思うんですけど」


ノエル「〈ふっと笑って〉本当にお母さんから何も聞かされていないようね」


マーシー「え?ええ……。お城のことは辞めた後も守秘義務があるそうですし、何事も自分で一から経験していらっしゃいとだけ言われました」


ノエル「そう。じゃあ最低限のルールだけ教えてあげる。ここお城では、私達のような立場の者は王家の方々に仕えるだけでないの。自分より上の立場の人、つまり半年早い先輩も含めて序列は絶対なのよ」


マーシー「はい……」


ノエル「先輩達の言うことには、どんなに道理に合わないことでも黙って従うの。お城で働くってあなたが思っているより、ずっと大変なことかも知れない。夢を壊すようで悪いけど」


マーシー「私、あまり深く考えずに来てしまったかも。母がいつもお城や姫様を懐かしんでいたから、楽しい所だと思い込んでいたのです」


ノエル「お母さんはいつまでお城に?」


マーシー「四年前です。その後、末っ子が生まれたので。妹と私は、年が十四歳離れているんです。母は今、城下町の外れで父と焼き菓子店をやっているので、今度、休暇で帰ったらノエルにも焼き菓子を持ってきますね」


ノエル「楽しみだわ」


マーシー「あの――ノエルはお城に誰か知り合いでもいるの?」


ノエル「えっ?」


マーシー「私よりずっと、お城のことを知っているみたいだから」


ノエル「あ、ああ……誰もいないわ。お城の話は、これぐらい誰でも知ってる世間の常識よ」



[3]ー城下町 ジュリアスの友人マリオの店 夜


〈店の看板に“お茶・お酒あり 画廊マリオ”の文字。カウンターとテーブルの店。昼間はお茶、夜はお酒が楽しめる。店の三分の一ぐらいのスペースで画材を売っていて、店の至るところにマリオが描いた絵が掛けてある。〉


マリオ「いらっしゃいませ。やあ、ジュリアス。久しぶりじゃないか」


ジュリアス「中々寄れなくて悪いな。〈店を見回して〉お客が全然いないけど大丈夫なのか?よく、あの厳しい親父さんが、この仕事を許してくれたな」


マリオ「ははは。鍛錬修行所は妹に任せたんでね。まあ、初めから僕に期待はしてなかっただろうけど。ここに飾ってある絵が時々売れたりするから、まあボチボチやっているよ」


ジュリアス「そうか、それならいいんだが」


マリオ「いや、こっちはいいんだけど、おばさんの店の開店はもうすぐじゃないのかい?隣だから時々様子を見ているけれど、ジュリアスももう少し顔を出してあげなよ」


ジュリアス「〈誰もいないカウンターの席に座りながら〉そうなんだよ。今日も午後に城下町に来ていたから、その帰りに寄るつもりだったのが、結局、急用で城にすぐ戻ったんだ。今、もう一度ここまで来てみたけれど、やっぱり母はもう帰ってしまっていたよ」


マリオ「それなら仕方ないよな。お城の仕事も色々あるだろうし。ジュリアス、いつもの飲むかい?」


ジュリアス「ああ、頼むよ」


マリオ「〈お酒の用意をしながら〉でも、おばさんが店を始められるほど具合が良くなって本当に良かった」


ジュリアス「お妃様が亡くなった事件以来、神経がすっかり細くなって。もともと過敏な所があったけれど、何かにつけて家でふさぎこんでいたからな。今まではアンにも手がかかっていたし、母がやっと新しいことを始める気持ちになってくれて、ほっとしたよ」


マリオ「お妃様の事件か。姫様には、まだ、あの“白杖の女の子”のことは内緒にしているんだろう?」


ジュリアス「ああ〈頷く〉」


マリオ「六年経ってもまだ、あの悪夢は忘れられない。一つ間違っていたらと思う度、ゾッとする」


【マリオの回想: 六年前 試験の帰り道 夜 〔刺客に襲われ、殺されかけたマリオ。謎の覆面の男に危うく命を救われる。〕】


ジュリアス「もうマリオには二度と怖い目にあって欲しくないよ」


〈その時、店の中へドヤドヤと、外事大臣の息子で武官のアリと、その仲間達が入って来る。〉


アリ「〈仲間に〉ここが、昔、学友だった奴の店でね。〈カウンターにいるジュリアスを見つけ〉珍しいな、こんな所で出会うとは」



#2へ続く

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