第3話 確信を得た者
「……って、言うことがあったんだって!」
「いつ?」
「昨日の夜って聞いたけど?」
転入二日目の昼。初日と同じくアズサ、ユカと食堂で席を共にしたシホは、息巻くアズサの話を聞いていた。
「……そういえば、ノーマの生徒が五人くらい、欠席してたわね」
「たぶん、その子たちなんだよ、『死神』に会っちゃったの!」
「……でも、変ですよね」
シホは『本日の魚定食』の白身魚に突き
「これまでの『死神』騒動の顛末は行方不明事件です。でも、アズサさんの話だと、昨夜の『死神』は、その場で破壊的な行動を取ったことになる」
「え、うん、そうだね。でもそれって……」
「変ね。ミホさんの言う通りだと思うわ」
ユカがシホの言葉を次ぐ。シホの見立て通り、ユカ・ドゥアンという女性は賢く、冷静な洞察力を持つ生徒であった。これは、シホがこの二日で持った確信のひとつでもある。
「やってることに一貫性がない。破壊行動をするのなら、前に行方不明になった生徒が出た時にも、同じような行動をしたんじゃない? でもそういう目撃も報告も、噂さえも立ってない。旧講堂で何かが壊れたとか、そういう話はいままでなかったじゃない?」
「そんな『死神』が突然、生徒の前で暴れ回り、旧講堂の中を破壊した。それから考えられるのは……」
「ひとつは今回の『死神』が、いままでの『死神』ではない可能性」
「ええ。それから、今回の『死神』には、その場で暴れ回らなければならない何かがあった」
シホは右隣に座るユカに視線を送る。ほぼ同時に、ユカもこちらを見た。おそらく、もうひとつ、同じ可能性に思い至ったのだろう。言葉を促す視線を送っている。
「……もしくは、いままでの『死神』に、破壊的な行動を取らなければならない何かがあった。例えば……」
「そういう相手がいた、とかね。だから方針転換を余儀なくされた」
ユカが笑う。それは自分の推理に酔っているのではなく、自分と同じ結果に辿り着いたシホを、やはりある確信を持って納得している笑みだった。なるほど、そうか、とシホも笑みを返す。
「ユカタンもミホちゃんもすごい! 学者みたい!」
「……あのねえ、わたしたち、一応この学院に通っている以上、学者の端くれよ? 起きた事象と情報を照らし合わせることで、ある程度のことは見えてくるでしょう?」
「えー? わたしは何もわからないよ?」
ユカが頭を抱える仕草をしたが、シホはその横顔を見て、やはり確信に至る。上手く繕ってはいるが、あまり得意ではないのか、それとも経験が少ないのか。それは自分と同じだった。
「『死神』と『もうひとりの死神』……」
シホは呟いてみる。呟きながら、もうひとつの確信の方面も考えてみる。
アズサが聞いたという昨夜の出来事の細部が、どこまで真実なのかはわからない。いったい、誰からその話が出ているのかもわからない。意識を失ったという生徒はまだ医務棟だろうし、他の四人も出席はしていない以上、誰かが情報を故意に流通させている可能性も捨てきれない。だから、シホの確信は、あくまでも可能性の話になる。可能性の話だとしても気になるのは、月明かりに浮かび上がった『死神』の姿だ。
その容姿、その口調、そして紅い光。それは間違えようがない。シホの知っている『死神』だ。
だが、そうなると、あの『死神』は旧講堂で何をしていたのか。同じ学園内にいるのに、連絡もなく……いや、連絡がないのは彼のことだ。まだ理解するが、『親』であるフィッフスが彼の行動について何も言わないのは、これまでの彼とフィッフスの関係性を考えると、少し奇妙に思えた。今回のことは、フィッフスも知らされていないのだろうか。そして、彼は旧講堂で何と対面したのか。お前か、とは誰のことだったのか。
情報が、足りない。
「ミホさんは、何か気になる……いえ、知っていることがあるのかしら?」
びくり、と身体が跳ねる。失敗した、と思いつつ、ユカの方を見る。ユカは、やはり確信を含んだ笑みでこちらを見ていた。
「いえ、ただ……」
「ただ?」
「いずれの『死神』にしても、これまで行方不明になった生徒の安否が気掛かりで……」
『死神』に会わなければ。
そして、旧講堂で何が起こっているのかを確かめなければ。
そんなシホの想いを見越したように、ユカは鼻で笑っただけで何も言葉にはしなかった。
アズサは相変わらず、シホとユカのことを褒め称えていたが、旧講堂で起きている何かに対しては、探求する様子もなく、既に事象そのものからは興味を失っているようだった。
今夜、旧講堂へ。シホはその場で、秘かに決意を固めた。
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