第12話 生徒会長ベルナデッタ・イグニス
三人のうち、二人はシホと同じ濃紺の制服を身に付けていた。明るい水色の髪をした少女と、落ち着いた茶色の髪をした少女。どちらも肩まで伸ばした同じ様な髪型で、どちらも少し癖があるのか、緩やかに肩に掛かっていた。顔立ちも非常によく似ている。もしかしたら、双子なのかとシホは思った。
水色の髪の少女の手には、細長い棒が握られていて、それを振り回した直後であることが分かる、ちょうど棍術の構えのような姿勢で動きを止めていた。フィッフスが使う短い杖状の『
「マドレー!」
長い杖を構えた少女が叫ぶと、それに応えるように動いたのは、茶色い髪の少女だった。水色の髪の少女を背後から追い越して、岩人形の前に躍り出ると、手にした、やはりこれも背丈ほどある長い杖を頭上で回転させた。
「承知!」
凛とした声と共に振り下ろされた杖が、煉瓦の敷石を打ち付けた。その瞬間、岩人形の周囲の地面が沈み込んだ。下半身の凍り付いた岩人形を巻き込んで沈下した大地が、凄まじい轟音を発して崩れ、反対に崩れた周囲の敷石が盛り上がり、岩人形を沈下したその穴に閉じ込めた。
シホはその光景に驚き、息を呑む。無論、『媒体』という旧王国時代の魔力が宿る道具から、魔法が発せられたことそのものには、驚くことはない。シホが驚き、目を見張ったのは、主に二つの理由だった。
まず一つはその魔力の強さ。これほど大きな変化を起こす事の出来る『媒体』は、限られた数しかシホは見たことがなかった。そして、もう一つは、それを自分と歳の変わらない学生が扱っている事だ。それもただ扱っている訳ではない。シホは目の前で起きた変化の本質を見抜いていた。
もし、マドレーが先に動いて大地に干渉するあの『媒体』を振るったとしても、これほど大きな変化は起きなかったはずだ。それには先に水色の髪の少女が煉瓦敷の地面を凍り付けにした、あの『媒体』による変化が関係している。
あの『媒体』は、煉瓦に覆われた下の大地の湿気を巻き込んで氷を発生させていた。つまり、氷を発生させたあの長大な『媒体』から先の大地からは、一時的に、一瞬の内に、水分が抜け落ちたのだ。乾燥し、脆くなった土に干渉したからこそ、これほどの変化は起きた。
そもそも強い『媒体』の力に加え、この二人は……
「『媒体』を、使いこなしている……」
「オーッホッホッホ! よくってよ、シャイロー、マドレー!」
先ほども聞いた高笑いが響く。不思議と嫌味はない、突き抜けるような音階の声に、シホは顔を向ける。声の主は、三人の少女の中心にいた。
赤を基調に、白と黒の飾り布があしらわれ、さらに肩や襟、袖には金糸の見事な装飾が施された脛丈のドレスは、一目で上等の品と分かるものだ。そして、それに身を包んだ彼女の容姿も、そのドレスに劣らない。女性にしてはすらりと高い上背に、毛量豊富な金髪巻き髪。白い肌に強い目の力を縁取る長い睫毛と泣き黒子。紅を引いていないのに紅く、ぷっくりと厚みを持つ唇。そのどれもが、同じ女性であるシホでも目を見張るほど美しく、ただひたすらに華やかであった。
その少女は二人の『媒体』使いの少女の前に歩み出ると、膝を僅かに曲げて腰を落とした。その姿はちょうど、徒手空拳で戦う構えのようで、華やかな彼女には、とても縁遠い仕草に見えた。
「わたくしの目が黒いうちは、この学院で好き勝手は許さなくってよ!
えっ、とシホは自分の耳を疑った。そして、その疑いを不要にする変化が、見る間に起こった。
赤いドレスの少女が徒手空拳の構えを取る、その肘から下が、銀色に輝く籠手に覆われていた。
「間髪をいれずに最高火力を叩き込むのが重要でしてよ! このわたくしが、生徒会長ベルナデッタ・イグニスが! 燃やし尽くして差し上げますわ!」
銀の籠手が真っ赤な炎に包まれ、灼熱した。赤よりも強い、白い光を放ったそれをシホが認めた瞬間には、ドレスの少女は赤い残像を残して走り出している。
速い、と戦闘訓練を積んだシホですら思った。その上で、いや、とシホは自分の感覚を改めた。あれは戦闘の訓練や経験の有無が問題ではない。あれは……
「
『力ある言葉』と共に、銀の拳が繰り出される。その腕から猛然と赤い炎の柱が舞い上がった。
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