第7話

 そんな、カグヤのキセキは思わぬ事態に発展した。世界政府が懸念を示したのだ。私は政治に全く興味がなかったが先方はそう思わなかった。


 ある日、突然、逮捕された。世界を転覆させる意図があるとされた。このとき、世界がVIPにより統制されていることを思い知らされた。

 私はVIPによる音楽の習得を禁止していた。他人にブレイン・イメージを提供することも禁止していた。自ら得た技能だからこそ個性が出ると考えたからだ。しかし、この時代では個性は不要だった。

 知識や技能はこの時代では即座に共有されるべき共有資産だ。素晴らしい創作をした特定の個人が称えられることは、世界の安定に亀裂を入れる行為とみなされた。


 彼は留置された私に毎日、面会に来てくれた。

「君の逮捕はとても大きなニュースになっているよ。社会問題だ。君のファンがそれだけ多いってことだよ」


 逮捕から一週間、大規模な抗議デモが起こった。この時代、デモは権利として認められている。しかし、過去三百年、公式なデモはなかったそうだ。私の音楽に感銘を受けた多くの人が擁護してくれた。その中に大物の政治家も含まれていた。「創作に価値を認めよう」がスローガンになった。


 一カ月、私は解放された。世界政府は民意を無視できなくなっていた。しばらくして、無限ストレージから音楽を削除する法案が可決された。個人が創作した音楽について作曲者として名前を残すことができるようになった。

 独占して利益を得ることはできないが、名誉を得ることができるようになった点では著作権に近い概念が復活したといってもいい。


民意はさらに加速した。音楽に端を発しVIP廃止論まで起こっているらしい。人間が自ら能力を獲得する機会を奪っているというのが主張だ。私は肯定も否定もしなかった。正直、どちらが正しいか分からないし興味もなかった。ただ、この時代は好きだし壊れて欲しくないと願っていた。

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