第6話
数日後、インタビューが行われた。前回まで自宅で行われたが、今回は専用の部屋で行われた。音をしっかり収録するためだろう。彼が付き添ってくれた。
「どのくらいの人が視聴されるのですか?」
と前回と同じインタビューアーの男性に聞いた。
「前回までの対談は大変好評でして視聴者は五億人を超えています。世界人口の約半分が視聴したことになります」
答えながら男性はポケットから何やら小さい装置を出して机の上に置いた。ライターくらいの大きさの銀色の物体だった。録画装置だそうだ。装置の小ささに少々、拍子抜けした。
「これがギターですか。初めて見ます」
「では、さっそく一曲」
私は彼の前で最初に披露したラブソングを歌った。
五分ほどの演奏。男性は演奏が終わるなり、手元の携帯端末を覗き込んだ。演奏が終わるなり、なんて失礼な・・・・・・と思いながら聞いた。
「いかがでしたか?」
「わ・・・・・・私は音楽を聞くのが大好きでして、聞いたことがあるような気がしたので検索しました。あなたの曲は無限ストレージに存在していました。そして、私は近い楽曲を聞いたことがあったようです。し、しかし、何と表現していいのか・・・・・・その・・・・・・衝撃を受けました」
男性はクールで鋭いコメントが人気だと聞いていた。そんな人がたどたどしく感想を述べたのは、相当なインパクトがあったからだろう。
「現代にはギター、いや楽器そのものが存在していません。事典でしかみたことのないギターを目の当たりにしています。さらに、そのギターを人がリアルに演奏する場面に立ち会うことができました・・・・・・」
男性はすぐに我に返り、切れ味の良いコメントを次々と発した。
楽しくなってきた私は一時間、歌い続けた。バラードからアップテンポな曲までを織り交ぜて十曲を熱唱した。
三回目のインタビューの視聴率は前回を大きく上回った。人が演奏すること興味を持ってもらえることがうれしかった。
その後、数十人の前での演奏をした。数十人が、次には数百人になっていた。歌ってほしいとの依頼が殺到した。一躍、時の人となってしまった私を彼も彼の両親も少し心配していた。しかし、私は誰も知り合いがいないこの世界で生きがいが見つけた気がしていた。
ついに大規模なコンサートが企画された。音を反響させる特殊な反響板を配置したホールで開催されることとなった。反響板を複雑な計算で求めて配置するすることでアンプで増幅することなく生の音が十万人に届くように工夫された。
三日間のコンサート。私一人の弾き語り。派手さに欠けると思ったが大成功だった。観客は物音ひとつ立てず聞き入った。厳選した二十曲を歌い切った。最後は割れんばかりの拍手だった。
このコンサートは「プリンセス・カグヤの奇跡」と呼ばれるようになった。動画は瞬く間に視聴された。次回のオファーもあったが断った。目覚めて半年で戸惑いがあった。また、別にやりたいことができた。
一つ目が音楽教室を開くことだ。自分で楽器を弾きたい、歌いたいという人が増えていることを感じていた。正しく音楽が学べる場所を提供したいと思った。私の教室の生徒の第一号はなんと彼だった。彼自身、何としても自分で楽器を弾きたいと思っていた。
「VIPはなしだからね」
が約束だった。私は誰にもブレイン・イメージを提供する気はなかった。他の生徒にも自力で練習をしてもらうことにした。
二つ目が他の楽器を復活させることだった。まずはピアノの復活だ。これは想像以上に困難だった。クライシス前の断片的な情報を集約して設計図を作成してもらった。3Dプリンターで弦や鍵盤などのパーツを一つひとつ再現し、それらを組み立て完成させた。ピアノが復活できた後、別の楽器の復活は比較的容易だった。
一年後、彼はギターの達人になっていた。教室の生徒も同様だった。生徒だけでバンド演奏ができるレベルに達していた。この時代の人だけで作ったユニットで開催したライブは大きな話題となった。
自分で演奏したい、歌いたいと思う人の数はどんどん増えていった。音楽教室の卒業生が開いた教室が学びたい人の受け皿となっていった。更に二年後には教室の数は世界で百教室を超えた。
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