第2話

彼は呼べばすぐに現れた。他愛のない話ばかりして三日が過ぎた。四日目の夜、夢を見た。悲しい夢だった。


 私はベットに横たわっていた。こことは違う部屋だ。窓もドアもある。病室のようだった。男性と女性が私を見下ろしている。二人とも四十歳代に見えた。とても懐かしい気持ちになった。

 「そろそろ時間です」

 二人とは違う人の声だ。姿は見えない。二人はとても悲しそうな顔をしている。私の手をしっかり握っている。

「これが最善の方法なんだ」

 と男性。続けて女性が言った。

「ゆっくりお休み。カグヤ」

 そこで目が覚めた。カグヤ・・・・・・思い出した! 私の名前だ。ユヅキ・カグヤ。そして、男性と女性は父と母だ。


 私は叫んだ。

「思い出したの名前。私はかぐや、優月かぐや!」

 叫びを聞いて彼がすぐに現れた。

「他に思い出したことは?」

「両親がいた。悲しそうな顔をしていた。これが最善だって」

 彼は私が何か思い出すのを待っていたそうだ。そして、私に経緯を話してくれた。信じられない内容だった。


 私は二十歳の大学生。不治の病だったらしい。死を待つばかりの私に絶望した両親は最新技術に望みを掛けた。病気が治る時代まで私を眠らせるため、冷凍睡眠を提供する会社に依頼をした。眠っていた期間はなんと・・・・・・千年。羊四十匹で千年。羊一匹が二十五年。なんて長生きな羊だろう。


 家族のことも教えてくれた。優月家は代々、音楽一家だったそうだ。父は有名な指揮者、母は著名なバイオリニスト。私は音大生で相当高い才能を持っていたそうだ。楽器だけでなく歌の才能も。記憶がないので楽器なんて弾ける気がしなかったが。


「明日、出られるように手続きをしておく」

 と彼は言い残して映像が消えた。その日は寝付けなかった。知っている人がいない寂しさと、見知らぬ世界への不安で少し泣いてしまった。

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