第6話
「僕は納得できた。だが、それを裁判でどう証明する?」
「裁判員と裁判官の半分以上を説得出来ればいいのよ。主審は必至条件だけどね。前例があるわ」
「こんな変な事件の前例があるのかっ!!?」
「ジェームズ・A・ガーフィールド」
「誰だい?あ、わかった!有名なネコマンガの原作者。正解だろ?」
「アメリカ第二十代大統領よ。ブラッド。貴方本当にアメリカ人なの?学校で何を勉強してきたの?」
「す、すまない」
「ガーフィールドは1881年7月2日。最寄りの駅から下車すると徒歩でホワイトハウスに向かった。いつもの通りにね。でもその日は新聞を読みながらチャールズ・A・ギトーという男が立っていた。単なる通行のフリをしているけどこの男のスーツのポケットには44口径リボルバーブリティッシュ・ブルドッグが隠されていて、そこから発射された二発の銃弾のうち一発が大統領の背中に見事に命中。ガーフィールドは血の海に沈んで行った」
「シークレットサービスは何をやっていたんだ?大統領警護は彼らの仕事だろう?」
「まだ時代背景を説明してなかったわね。この時代はビリーザーキッドみたいな賞金稼ぎが蒸気機関車強盗をしているような時代よ」
「ギトーもそういう手合いの連中の一人か。大統領を守るには歴戦のアメリカ海兵隊が一個師団がいるな」
「映画で言うならミストのアメリカ軍がいいわね。あの連中なら大統領を守ってくれたはずよ」
「そんなに強いの?」
「ええ。特にラストの活躍っぷりは凄いわよ」
「そうか。じゃあ今度見てみるよ」
「この時代は携帯電話はないわ。当然救急車もね。仕方ないからマットレスを運んできて人力で大統領をホワイトハウスへ搬送。この際痛み止めにブランデーを飲ませた。ここまでは正解」
「イラクにいた時担架で負傷兵を運ぶ訓練とか包帯巻く訓練やらされたなあ。結局やんなかったけどその話聞いてるとやっといた方がよかった気がしてきたよ」
「問題はその後。銃弾は大統領の体に入ったまま。取り出す必要があった。ただしX線をキュリー夫妻が発明するのは14年後。仕方ないので10人を越す医者が洗ってもいない手を傷口に突っ込んで弾丸をほじくり出そうとした」
「ばい菌がはいるだろっ!」
「医学の女神フローレンス・ナイチンゲールがいたら大統領の命を救うために医者を皆殺しにしている状況ね。まさに人の命を救うために人を殺さねばならない。ただしクリミアの野戦病院にはナイチンゲールはいたけど、1881年のホワイトハウスにはいなかった。非常に残念な事にね。馬鹿な医者共が余計な事をしたために傷口は30センチまで広がった。でも大統領はまだ生きていた。彼を救うために電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルが金属を探知する仕掛けを造る。磁石を利用し、金属に反応してベルが鳴り響く仕掛け」
「やったじゃないかっ!これで大統領は救われる!!アメリカバンザイっ!!」
「ところがギツチョン。大統領の寝ていたベッドは当時としては最新式のスプリング入りのもの。スプリングは金属製。装置は誤作動を繰り返し、銃弾はみつからなかったわ」
「木製のフローリングに寝かせればいいじゃないかっ!!」
「そんな事すら思いつかない医者や看護師より大統領の家族が治療に当たった方が助かった可能性が高いわね。銃弾の穴が感染症を引き起こすのにそう時間はかからなかったわ。当然大量の膿が出る。でも医師団は膿は感染のしるしではなく治療のしるしと考え、傷口をもっと切って拡げて出そうと考えた。何故か肋骨の破片まで出てきた。大統領はまともに食事すらとれなくなったので医師たちは直腸からの浣腸で栄養を与えようと考え、卵の黄身、牛乳、ブランデー、アヘンなどを混ぜたものを肛門から注入し始めた」
「こいつら大統領治療する気ないだろ!殺す気だろ!チャールズって男に大統領暗殺依頼したの絶対こいつらじゃねーかっ!!!」
「大統領は海が見たいと言った。ニュージーランドにある別荘に向かった。機関車の鉄道は別荘まで伸びていないのでそこまでは地元の人々が手で運んでくれたわ。もちろん死因は肺血症」
「なにこれ。医者いらなくね?」
「ブラッドフォード警部。貴方は手術なんてしないだろうけど食事の際にはちゃんと手を洗うようにね」
「わ、わかったよ」
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