第90話:海からの来訪者? 突然のことに暁光帝はドギマギしちゃいます。
突如、海水浴客の間から悲鳴が上がる。
「キャーッ!!」
「ギャオォォォーッ!!」
波間から
縮れた
「うわぁっ!!
でっぷり太った父親が絶叫を上げる。あわてて子供2人を抱えて転がるように
「あなた、待って!」
妻も叫ぶが、自分で発言の非常識さに気づいたのか、振り返ることなく必死で
命がけだからなかなかに速い。
もしも、妻に
「うがぁっ!!」
父親は必死の
「グォォッ!!」
怪物も叫ぶ。
しかし、腕に比べて貧弱な足はそこまでスピードが出せず、必死のデブ父に追いつけない。
「エカル! ばろーる、エカル!」
「グゲェー! ケツカレヌ!」
「オベド! ヒト、オベド! アンギャー!」
その背後、白波の間から意味不明の言葉を叫びながら新たな怪物が次々と
手首から足が生えて立って歩いているような怪物が左右を見渡す。目玉は人差し指と薬指にそれぞれ1つずつあり、ギョロギョロと動いている。
青白い肌の双頭の巨人が
2本足で歩く
「フォモール族だ! どうして!?」
ビョルンはあわてて立ち上がる。
だが、今は海を見に来ていたので
「くっ!」
アスタが
特異な超感覚で海から上がる怪物の集団を感知していたのか。
けれども、肝心の
「これは…どうすべきか……」
悩む。
フォモール族は
それが今、4頭もいる。
すこぶる
危険な猛獣が4頭、
奴らには人間並みか、それに近い知能があり、魔法を使うこともあるからだ。
それが何を意味するのか。
兵士の犠牲を覚悟しなければ街は奴らを排除できないだろう。
只、強くて凶暴なだけの猛獣とはわけが違うのだ。
その上、
しかも、今の自分は武器を
緊急連絡用のマジックアイテムを
「
「天使は
緊急事態の発生を受けて、担当の兵士長があわてる様子が伝わってきた。
「
短く通話を完了させる。
非常に危険な状況だ。
住民の非難を誘導したいが、人手が足りぬ。
攻撃魔法の得意なナンシーは主戦力だから、今は自分が指揮を取るしかない。
それでも海岸の様子を観察しながら、同時に視線をアスタへも向ける。
フォモール族は瓦礫街リュッダを脅かす、凶暴な
だから、驚く。
まさか、海水浴場が襲われるとは。
当たり前だが、海水浴場に重要な施設はない。軍事的にも、商業的にも何もないのだ。
何で狙われたのだろうか。
それならば何かに
「…」
隣で紫色のロングヘアーを金属光沢で輝かせる、ド派手な童女を見つめる。
非常に目立つ。
彼女がフォモール族を引き寄せたのか。
瓦礫街リュッダを滅ぼすために。
「いや、
言葉が自然と口を
童女アスタの正体は超巨大ドラゴン
だいたい、
この襲撃が暁光帝の依頼によるものだとしたら、むしろ、そちらの方が論文の題材になるだろう。
「むぅ、すると、もしや表敬訪問か!?」
アスタが呼んだのではないとしたら、単純にフォモール族の方から暁の女帝に敬意を表しにやってきたのではないか。
「十分、
暁光帝は全ての幻獣を
人間からすればえらい迷惑だが。
童女の表情を注意深く観察する。
「ふぅん…
金持ちの中年男を追い回す、大頭の怪物を眺めてアスタは首を
他の3頭は思い思いの行動を取っている。
双頭の巨人は意味不明の言葉で
2本足で歩く
歩く手首、巨腕の怪物は人差し指と薬指を揺らしながら、それぞれに付いた目で獲物を探しているようだ。
「……」
童女は厳しい視線を向ける。
巨腕の
あいつは
だが、アスタはウミケムシの名誉をまだ回復していない。
幼女クレメンティーナに紹介する前にウミケムシがフォモールに踏み
これ以上、近づいたら本気で
怪物を
その真剣な
「アスタさん、フォモール族はどんな奴らですか?」
恐る恐る尋ねる。
「親切な奴らだねー」
意外なことに童女は明るい調子で答える。
只、視線は厳しく手首の怪物に向けられている。
「そ…そうですか……」
ビョルンは懸命に考え、同時に視線を周囲へ
童女が“親切な奴ら”と評したフォモール族。それはつまり『
そうであれば戦闘の激化に
非常に危険な状態である。
人間と
****************************
キャロルが仲間に向かって叫ぶ。
「目玉の大頭は無理! 頭が2個あるデカブツを押さえるよ!」
的確な判断である。人手も武器も足りていない状態で強敵に挑むことは厳しいと考え、フォモール族の二番手である双頭の巨人を向かうことにしたのだ。冒険者パーティー“
別に逃げても構わないのだ。フォモール族撃退の依頼を受けたわけでもないのだから。
だが、荒鷲団は
冒険者はいざという時、市民を守って
明文化されてはいないものの、そういう
それ故、市民からの信頼もある。
何より、冒険者としての
冒険者が、荒鷲団が、どうして人々を見捨てて逃げられようか?
「オレが引き付ける!
「グギャギャ! 魔法陣ヲ描ク!
こう見えてゴブリンのビ・グーヒは荒鷲団で
****************************
自由民も上流階級も危機に敏感だ。
「がんばれ、冒険者!」
「荒鷲団だな! 彼らは強いぞ!」
「海の平和は頼んだ!」
海水浴場に様々な声援が飛び
「任せましたよ!」
博物学者も激励する。
同じく水着のパンツ一丁である自分は攻撃魔法も苦手なので指示を出して応援するくらいしかできることがない。
荒鷲団の判断はよい。
人数は半分の3人だし、守備の
それでいい。
戦いは何よりも結果を出すことが重要だ。強敵に挑む姿は勇敢で格好いいが、それで『全滅しました』では困る。
キャロルが賢明な判断を下してくれたことには感謝しかない。
次は
「こっちは任せて!」
ナンシーはカバンから携帯用の短い
その視線はしっかり童女を
「ふむ」
さすがはエルフ。こちらも賢明な判断だとビョルンは感心する。
そんなアスタが警戒するフォモール族。
ヤバイ奴らであることは間違いない。
そうなると問題はどうヤバイか、だ。
あれほど
「!?」
大変なことだぞと目を
それはつまり、今のままの童女では駄目だということ。
解決するには本来の姿に戻るしかない。
超巨大ドラゴン暁光帝に。
すでに
アスタが
だが、そうなれば街だって只では済まない。
それどころか、只、歩くだけでも。
いや、寝るだけで大勢が死ぬ。
人間が死ぬだけでは収まらない。
運河は
よくて、この街の半分くらいが壊滅するだろう。
悪くすれば、住民が1人残らず
よしんば、アスタが街の安全を考慮して、上空で人化を
海水浴場を襲う、あのフォモール族を暁の女帝様がどうやって排除なさるのか。
凶暴な
たやすいことだ。
それだけでフォモール族の4頭くらいは一瞬で消えてなくなる。
けれども、その程度ですら街は耐えられない。
暁の女帝様ご本人としては“ちょっと
つまり、配慮してくれようが、くれまいが、いずれにせよ、瓦礫街リュッダは滅亡してしまう。
“暁光帝”とはそれほどまでに規格外の超存在なのだ。
「うむむ…クレメンティーナさえいてくれれば……」
ビョルンの視界に幼女はいない。
あの
ところが、幼女は悪ガキども3人と神父を
まさか、あんな取るに足らない連中のために街が滅亡しかける羽目に
「いや、いない者を嘆いても仕方ない。何としても……」
何としてもアスタが人化を
そのためには今ここにある戦力だけで4頭のフォモール族を押さえ込まねばならない。
ドラゴン城から兵隊が来るまでの間。
「ギリギリですね」
状況を見てそう判断する。
まともな戦力は
敵はフォモール族の4頭だが、幸いなことに
おかげで4頭それぞれが好き勝手に行動しているので対応しやすく、何とか時間は稼げそうだ。
大頭から手足の生えたフォモール族は明らかに強敵で、今は太った
助けてやりたいが、今の戦力では余裕がなくて厳しい。
2本足で歩く
アスタがもっとも警戒する歩く巨腕の怪物は
こいつらは今すぐ危険というわけでもない。
残る双頭の巨人が問題だ。
怒れる男の頭が2つ、青白い肌のたくましい胴体に乗っている。ヒグマほどもある巨体はそれにふさわしい大きな
ところが、こいつに立ち向かう荒鷲団のメンバーは全員が水着。ほぼ全裸なのだ。
それでも、海水浴客を追いかける双頭の巨人フォモールは
「う〜ん……」
博物学者は
人々が襲われて流血があれば血を見たアスタが興奮するかもしれない。
それは避けたいものだ。
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