第89話:許すまじ、黄色Tシャツの船長(怒)! 暁光帝は自分の巫女に迫る脅威に備えます☆
「あゔぅ……」
見つめる
常日頃、『自分は断じてデブでない』と主張してきたが、だらしない爆乳の下でお腹の肉も震えている。目の前のデブ子供達と変わらないではないか。揺れ弾むお尻や
いや、自分には脚線美と爆乳の色気がある。只、歩くだけで誰もが振り返るほどの美貌がある。
ぎりぎりデブではない。
超セクシーなエルフである。
「まだ大丈夫の…はず」
爆乳を持ち上げると
これがセクシーでなくて何なのだろうか。
断じてデブでない。
ナンシーは自信を取り戻す。
「それでアスタさんを
死んだ魚のような目をしてビョルンが尋ねる。
「あぁ、ご心配なく。私が
「心労と極度の緊張のせいですからね。わかります」
博物学者の努力と根性に配慮してエルフがいたわる。
目の前で人間が発狂したり、訪れてきた童女の正体が超巨大ドラゴンだったり、今日の一日だけでも彼の受けたショックは計り知れない。
彼にまで発狂されては困る。
余り負担を掛けないようにしようと誓うナンシーであった。
「
もっともわかりやすい破滅の形である
では、破滅を避ける方法は何か。
利用しようと思わなければいい。
本物の
死にたくなければ、只、観察するに留めるべきだ。
「それでも…わずかな希望を
そのための
たらしこむまでは行かなくても心に
実際、アスタが人類絶滅の決定を
「ふぅむ…話を聞く限り、
ビョルンは目をつむり、祈ろうとして
どの神様を拝むか迷ったのだ。そして、暁光帝に関わることではどの神様も願いを聞き届けてくれそうもなかったのだ。
そこへ何やら難しい顔をした、くだんの童女アスタがやってきた。
「いやはや、何とも、非常に難しい問題が起きてしまったよ。クレミーと相談しなければ」
大変なことである。
先ほど、はっきりと“ウミケムシ未満の
これは大した根拠もなく、思い込みでウミケムシを悪く言ってしまったことになる…かもしれない。
もしも、自分がそんな言い方をされたらどう感じるだろうか。
例えば、『
「むぅ……」
全く
確かに
『
全く
だが、腹立たしい。
あんな光の神ごときが自分と比較されたこと、それ自体がムカつくのだ。
やはり駄目だ。
ウミケムシのように頑張っている生き物を
この天龍アストライアーが根拠もなく付けてしまった、この汚名は
「う〜〜ん……」
どうすればかの精錬潔白な生き物の名誉を回復できるのか、思い悩む。
「よし。クレミーに直接、言えばいいか」
よく考えてみればはっきり口に出していってしまった相手はクレメンティーナ、只1人だけだ。
ならば、訂正して、ウミケムシの勇姿を2人で確認すればクレメンティーナも理解してくれることだろう。
貴重な生き物に出会えて幼女も喜ぶだろうし。
これで大成功、間違いなしだ。
うん。それで行こう。
問題が解決したので気持ちを切り替え、楽しいことを考えよう。
自然と先ほどの
「ふんふ♪ ふんふ♪ ふ〜ん♪」
楽しかった。
とても楽しかった。
機嫌よく鼻歌を唄う。
「「えっ!?」」
為政者2人は目を丸くする。
今、『非常に難しい問題が起きてしまった』、『
さっぱりわからない。
「ご機嫌ですね」
恐る恐る、ナンシーが言葉を紡ぐ。
「うん。さっきのお仕置きを思い出してね」
言われた通り、上機嫌の童女だ。
「それはよかった。神の使徒をぶちのめすのは気持ちいいですね」
何が楽しかったのだろうか。神様を嫌いな暁光帝の気持ちを
「ん〜…ぶちのめすよりも、やっぱり攻撃を避けるのが気持ちよかったね」
何とも楽しげな童女である。
「ボクは攻撃を避けたことがなかったから凄く新鮮だったよ。これからはガンガン避けるとしよう」
嬉しそうに言って上半身をササッと動かして避ける真似をする。
「な…なるほど……」
ビョルンは唖然としながらも納得している。
アスタは超巨大ドラゴン暁光帝が
敵…いるのか、いないのか、そちらの方が怪しいものの、敵の攻撃を避ける必要がなかったのだろう。
それは何を仕掛けられてもダメージを
けれども、それはそれで不満が
いや、他のドラゴンが戦う姿を見て自分も敵の攻撃を避けてみたいと思っていたのではなかろうか。
「それはよろしゅうございました」
童女が上機嫌ならそれに越したことはないとうなずく。
「それで
恐れおののきながらもさり気なく話に
「うむ。緊急事態だね。とにかく早くクレミーに伝えるべき大事件が起きてしまったんだよ」
クレミーが先ほどの言葉を信じて他人にウミケムシの悪口を言ってしまったら大変だ。更にウミケムシの名誉が傷つけられ、汚名を
そう考えてアスタは難しい顔をする。
「そうだったんですか。いつ頃、
質問しつつ、思った通り、
やはり、あの恐るべき幼女が
暁光帝によって存在そのものを
自分が立てた仮説について確証が得られて嬉しい。どうしても口が
ところが。
「わかんない……」
先の問いについて童女は困り顔だ。パトリツィオ少年達と
いつ頃、戻ってくるのか、わからないし。
そもそも、戻ってくるように言いつけてもいない。
もしかしたら戻ってこないかもしれない。
探しに行かないともう二度と出会えないかもしれない。
「うむむ……」
正直、クレメンティーナのことは心配していない。幼女には明確な
だが、しかし。
クレメンティーナの敵はそういう連中だけではないのだ。
場合によっては難題に直面するかもしれない。
例えば、『円周率を
これは賢い素直な良い子であればこそ
「ううう……」
黄色いTシャツの
「駄目だ! それには
思わず叫んでしまう。
円周率は3.14159265358…と、
そのためには微分法、すなわち無限小解析の原理を知る必要がある。
「厳しいな……」
思わず
「ええっ!?
悲鳴に近い絶叫が上がる。向こうで博物学者ビョルンが
「……」
アスタは何も答えずに考え込む。
重大な
無限小解析を理解するには集合論と
ところが、
足りない力を
許すまじ、黄色Tシャツの船長!
幼いクレメンティーナが無理難題を突きつけられて泣く姿を想像すると
「そんな時、あの子に任せて捨て置くなんて
やはり、まだ自分が助ける必要があるだろう。
その時。
「……」
ふと
「むぅ……」
何であんなのが来ているんだろう。
「アスタさん?」
童女の様子を
「…」
同じくナンシーも海に目を向ける。ヒト族よりも視力の高い
「これは!?」
鮮やかな
それは沖合からこちら、海岸へゆっくりと近づいているようだ。
「何か
警告する。
「1つ、2つ、3つ…いえ、4つ、いるわ! あれはもしや……」
「これはまた珍しい連中がやってきたね♪」
アスタの声はどこか嬉しそうだ。
逆に。
「珍しい連中!?」
ビョルンの声は
こうして海の中から上がってくる
「あれは……」
海中で揺らぐシルエットには
どうやら、悪い予感は的中してしまったらしい。
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